~夏目 香織~ 8
「それで、実際のところ、夏目さんの一目惚れした相手というのは女性ということで間違いないですね?」
「隼人君、なにか口調が荒々しいわね」
「え?」
「佳織もそう思います。なにか隼人君、怒ってるみたいです」
「そ……そう?」
そうかな? 別に雨沢先輩の毒舌はいつものことだし、夏目さんのことも勢いで強く言っちゃった部分もあったけど、別に怒るほどのことでもないし……
「なにかほかに気になることでもあるの?」
「気になること……ですか?」
思いあたる節がないことはないけど……。
別にこの二人にはほとんど関係ないし……いや、雨沢先輩なら関係があるな。というか俺以上に関係者じゃないか。
木下さんが学校を休んだということは、気にするなと言われてもやっぱり気にしてしまう。
昨日のことがあるし、やっぱりお見舞いに行ったほうがいいのかな? 一応さっきお見舞いメールを送っといたけど、返信はまだない。
もしかしたらものすごい熱で、メールも打てないほど疲労困憊しているのかもしれないけど、昨日あんなに元気そうだったし……
よしっ、やっぱりお見舞いに行こう!
問題は家の場所だけど、確か雨沢先輩と木下さんは幼馴染だったはずだし、家は近いはずだ。雨沢先輩に場所を聞いて――
「なにをそんなに考え込んでいるの?」
「え? ――あっ、ごめんなさい」
またつい長々と考え事を……
「なにを考えているのか知らないけど、綾ちゃんなら大丈夫よ」
――え?
「なんで、そんなことを?」
「隼人君のことだから、入学二日目からいきなり学校を休むなんておかしい、木下さんになにかあったんじゃないか――みたいなことを考えていたんでしょうけど――」
こいつは超能力者か?
「今朝見てきたら、結構元気そうだったわ。本当にちょっとした頭痛みたい。あの子の親、極度の心配性だからちょっとしたことでもすぐ学校を休ませるのよ」
「え? 先輩、今朝木下さんの様子を見に行ったんですか?」
「ええ。なにかおかしいかしら?」
「い、いや。別になにもおかしくはないけど――」
結構……いや大分以外だな。
昨日あんな突き放し方をしたくせに、普通に会いにいけるのか……
いや、むしろ昨日みたいな態度ばかりを取っていたら、木下さんも雨沢先輩にここまでの執着心は湧かないだろう。
飴と鞭ってやつか。
「けど、そんなに気になるんだったら、お見舞いにでも行く?」
「え? いいの?」
「私に決定権はないから、あまり軽いことは言えないけど、多分綾ちゃんも喜んでくれると思うわ」
またまた意外な発言だな。
雨沢先輩を見ての第一印象は、心がない、だった。第一印象としてこの意見はおかしいのかもしれないが、実際そう思ってしまったんだからしょうがない。
その感情がまったく顔や態度に表れなかった雨沢先輩が、人を喜ばせるとか、今だって夏目さんを喜ばせるとか、そういった人を助けるような人間だとは思いもしなかった。
結構人間らしいところもあるんだな……
「で、隼人君の答えは?」
「も、もちろんOKだよ。帰りに寄らせてもらう」
「分かったわ」
じゃあこの話はひとまず置いといて、話を元にもどしましょう――
それから一時間弱、俺たち三人は太陽が傾き陰がなくなるギリギリのところまで作戦会議を続けていた。