~夏目 香織~ 6
耳を澄ますと、扉の向こう側での、雨沢先輩と夏目さんの会話が、微かながら聞こえてくる。
(夏目ちゃん、ちょっといい?)
(あ、あめじゃわさ~ん、いつものありぇ、やってくだしゃ~い)
(ごめんね夏目ちゃん。あれは今日無理なのよ)
(え~、かおり、ありぇやってくりぇにゃいと、よるもにぇむりぇましぇん!)
『あれ』とはいったいなんだろう?
(じゃあ……ちょっとだけよ)
(わ~い、ひゃった~)
な……なにか、姿が見えない分ドキドキしてきたぞ。
(……バサッ、……バサッ、バサバサッ)
(わ~、やっぱりあみぇじゃわしゃんのしょれ、しゅごしゅぎでしゅ~)
(さ、もういいでしょ。早くこっちの日陰に来て、服を着てちょうだい)
(みょういっかいだけ、おにぇがいしましゅ~)
(だめよ、時間がないの)
(おにぇがいしましゅ~、おにぇがいしましゅ~、おにぇがいしましゅ~~~)
(も……もう、しょうがないわね……)
(……バサッ、……バサッ、キュッバサッッッ)
(にゃ、にゃんてしょんなぷれいができるんでしゅか~、しゅごしゅぎでしゅ!)
(さ……もういいでしょ。早く服を着てちょうだい)
(まだまだもにょたりましぇんが、わかりぃました~)
よ……ようやく着替え始めてくれた。あと少し遅かったら、俺の妄想回路は大変なところにコースチェンジしてしまうところだったぞ。
――ガサゴソ、――ガサコソ、――ガサコソ…………。
「浦くーん、入ってもいいわよ」
どうやら着替えが終わったようだ。
いち早くなにをしていたのか、雨沢先輩に聞きたいところだが、あの嫌がりようを見ると(実際は見てないが)、人にはバラされたくないようなことをしていたんだろう。
なにをしていたのか、あとでコッソリ夏目さんに教えてもらおっと。
――(ガチャ)、(サッ)、(ツー)、(ガチャン)。
ん? なんだ今の四つの効果音は?
最初と最後の二つは俺が扉を開けるアンド閉める音で間違いないが、後の二つはいったい俺の首がなにか生暖かいぞ!
こ…これは……血?
「ちっ、はずしたか」
声が聞こえてから二秒もしないうちに、俺は雨沢先輩にマウンドポジションを取られた体勢に陥った。Kー1ならここからフルボッコにされるところだが、今回の場合は首にナイフを首に突きつけられるというまさしく絶体絶命死のフラグ立ちまくりの状態になっている。
「……い。……た」
「――?」
なにか聞こえたような気がするのだが……。
「なにも聞かない。分かった?」
「嫌だと言ったら?」
ちょっと意地を張ってみた。
「来年の今日、この事件の特番やるかしら?」
「なにも見てない、聞かない、言いません」
特番って……いったいどんな事件を今日起こす気でいるんだ?
「そう。ありがとう」
頚動脈がいつもより早く脈を打っている。
二日連続で首から血を流すとは、思いもしなかったな……。
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