~夏目 香織~ 5
――――はい?
「百合って……あの百合か?」
「ええ。あの百合よ」
「あの百合……なんだな?」
「そう。あの百合よ。むしろあの百合以外の百合を見せて欲しいくらいだけど、残念ながらあの百合で間違いないわ」
百合……なのか。
「なにその不満そうな顔は?」
「へ?」
「夏目ちゃんが百合かどうかなんて、隼人君には直接的にも間接的にもまったく関係のないことでしょ? むしろ今日の朝の失敗の原因が分かったんだから喜ぶところじゃない」
そういわれてみればそうだ。夏目さんが百合だという確証はまだ掴めていないが、今朝夏目さんの一目惚れ相手の下駄箱が見つからなかったのも、夏目さんが百合なら納得できる。
男じゃないんだ……。
いろんな意味でガッカリ。
「彼女の秘密はこんなもんじゃ終わらないわよ」
まだあるのかよ!
「百合がスラ○ムレベルなら、今から話す秘密はミルドラー○レベルくらいね」
「そ……そんな」
冒険序盤で出てくるザコモンスターと、ラスボスくらい差があるのか。
俺の精神レベルじゃ、キメ○を倒せるかどうかも微妙なところなのに。
「それで、秘密っていうのは……」
なぜか薄ら笑顔を浮かべている雨沢先輩は、ゆっくりと、そしてはっきりと、こう言った。
「彼女、太陽の光を浴びると、服を脱ぎだすらしいわ」
「……」
「つまり野外プレイがだいす――」
「まだ意味を理解できていない段階で、そんな言葉を付け加えてくるな。混乱状態に陥りそうだよ!」
「いわゆる、マダンテ状態ね」
「待て。マダンテと混乱状態はどうやっても繋げることはできないはずだ。確かマダンテはドラクエⅨのラスボス、堕天使エル○オスの――」
――っと、こんな話をしたいんじゃなくて、
「服を脱ぎだすって……?」
「理由はともかく、そういうことらしいわ。現に今の彼女の状態をみれば、理解できるでしょ?」
まあ今の彼女の様子を感じ取るに(いまだに後ろは見れない)、自分から進んでやっているようには思えないけど、でも……
「あ……あめじゃわしゃ~ん、うりゃく~ん、どうしゃれたんでしゅか~?」
気に入ってはいるような……
「まあ私はここに一年前から通っている身だから、彼女の裸なんて時計の短針と長針が重なる瞬間よりも多く見てるけど……」
さすがに……百合のことは今日初めて知ったわ……と、薄ら笑顔を浮かべながら呟く
なぜ笑顔なのかは考えないことにしよう。
「と、とにかく、夏目さんを早くなんとかしてくださいよ。これじゃあ今日のことについての話もできないじゃないですか」
「それは無理ね。この世界を太陽が照らし続ける限り」
「どう、私今かっこいいこと言ったでしょう? 的な目でこっちを見るのはやめてください」
意味を知っている側の意見としては、ここまでかっこ悪いセリフもめったにないぞ。
「とは言ったものの、さすがにいつまでもこのままというわけにもいかないわね。隼人君、ちょっと外に出ててくれる?」
「あ、はい。分かりません」
「いや……そこは分かってよ」
おっと、つい本音が。
しかしいつまでもこの状態のままというわけもいかず、言われた通り屋上の扉の向こう側へ。