~夏目 香織~ 1
前回のそのまんま続き。
次の日の朝、俺はいつも朝登校する時間より二時間以上も早く、校門の前にいた。空はまだ薄暗く、もちろんこんな時間に学校の中にいる人間なんているはずもなく、校門には施錠がかけられている。
こんな早朝に、こんな場所に立っている理由は、朝一の学校に忍び込んですべての生徒の住所と顔写真をゲットし、その親たちを脅し多額の金銭を獲得……とかではなく、ただ単に一人の少女との約束を果たす為だ。
一人の少女――雨沢怜は、昨日帰り際に生徒玄関前で、
「明日、午前五時、生徒玄関前、死ぬわよ」
まるで怪盗犯の犯行予告文のような言葉を残して帰っていった。
最後の単語の意味がとてもとてもとても気になるところだが、言い方からすると明日五時に生徒玄関前に集合……という意味で合っているだろう。そうじゃなかったら、本当にただの脅迫文だ。
校門を軽く飛び越えて学校の敷地内に入る。
夜の学校は不気味が悪いと聞くが、早朝の学校というのは、学校全体が青白く光っておりどこか神秘的な感じがする。
まるでメルヘンの国に来たみたいだな。
「なに気色の悪いことを考えているの」
「――っ!」
いきなり後ろから声をかけてきたのは、今巷で噂になっている連続ひったくり事件の犯人……とかではなく、この学校のミステリー研究会の部長&屋上の支配者でもある謎だらけの美少女、雨沢怜だった。
「お前、俺が今なにを考えてたか分かるのか?」
「当たり前じゃない。私を何神様だと思っているの?」
神様以上の地位確定かよ。
「どうせ浦君のことだから、今日はどのカップのブラジャーを頭につけて寝ようか悩んでいるんでしょ
うけど、さすがにJは大きすぎると思うわよ?」
「やめろやめろやめろ! そんな言い方だと、俺の部屋には成人女性のブラジャーコレクションA~N編があるみたいじゃないか! それはいくらなんでも俺を見縊りすぎだ!」
「あら、Nカップまであるなんて、さすがの私でも分からなかったわ。随分と個性的なご趣味ですこと」
「はっ!」
しまった! 罠だったのか。
お……恐るべし雨沢怜。
「そんなことより、ちゃんと遅刻せずに来てくれたのね。正直来てくれるとは思わなかったわ」
「え? いやそれはだって……」
昨日あんな別れ方をしたから、嫌でも関わらないといけない気がしてくるんだよな……。