~雨沢 怜~ 3
そのまま、前回の続きです。
「――っ!」
そのまま綺麗に、まるで別空間へのワープを思わせるほど綺麗な消え方。
飛び降り――自殺……?
「あ……ああ……っ!」
み……見てしまった。じ――自殺の現場を。
手先の震えが止まらない。身体中がら脂汗が噴出してくるのが分かる。脳が――正常に働かない。
い……いったいここで何が起こってるんだ?
「安心して隼人君」
いつのまに近づいてきたのか。目先五センチ先に雨沢怜の顔がある。そんな距離で話しかけられているので、吐息とかいろんなものが俺の顔にかかってくるのだが、しかし今は、そんなことを喜ぶような余裕は微塵もない。
「あ……安心って。ひとが……ひとがあそこから……っ!」
「それ以上はなにも言わないで」
不意に身体全体に伝わってくる暖かい感触。
今日、俺は生まれて初めて、人の温もりの大切さを学んだ。
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「さっきの女の子、地縛霊なの」
雨沢先輩は、唐突にそんなことを言ってきた。いや、でもそのまえに……
「体、離してもらっていいですか?」
俺としては、金を出してもいいくらい、この状態というのは嬉しみがあるのだが、さすがに学校の屋上でこの状況というのは、俺の良心が許してくれない。
「そう。隼人君がいいなら私は構わないけど」
別に誰にもバレることはないのに……なんてことを呟きながら体を少しずつ離していく。
完全に体が離れたところで、
「で、話を元に戻すわよ」
「あ、はい。お願いします」
「トムとは中学の修学旅行で――」
「話を戻しすぎです!」
あれは冗談じゃなかったのかよ!
ていうか、中学のときに出会ったのか。日本の国際化が進んでいるとは知っていたが、いくらなんでも進みすぎだ。
あらごめんなさい――と、謝罪の言葉を述べてから、再び話しは本題へ。
「さっきの女の子、千葉区霊なの」
「なぜ千葉県在住の霊がこんな学校の屋上に取り付いてんですか! 地縛霊でしょ!」
「で、隼人君にはあの女の子を助けてほしいのよ」
「俺の指摘を『で』なんて付属語でなかったことにしようなんて、神が許しても僕は許しません」
「なにを言ってるの? 私はすでに神をも超える力を十二年前に会得しているわ」
「幼稚園時代にいったいなにがあったんすか神様!」
「神は現在、野比家の押入れに拠点を置いてるはずだけど」
「猫型ロボットなの? 国民的キャラクターって神だったの!?」
「ちなみに野比○び太は、お釈迦様よ」
「ジャイ○ン、スネ○。君たちはとんでもないお方をいじめの対象にしてるよ……」
「速く話しを進めたいんだけど」
「あ……、すみません……」
俺が謝るのは納得がいかないが、でもここでまた何か言うと話が進まない。
男たるもの、余計なプライドを持ってはいけないんだ。
「あの子を初めて見たのは一ヶ月前。私が美容と健康のために裸で日光浴をしようと屋上にノーブラノーパンで向かっていたときだったわ」
「僕も速く話しの続きを聞きたいので、下手なツッコミはしないことにします」
そういえば……あの女の子が地縛霊だってことは分かったけど、なぜあの子はここから飛び降りたりしているんだろう? 酷い言い方かもしれないけど、もう死んでるのに。
「そのことも含めて、今から説明するわ」
雨沢先輩は少し戸惑いを見せたが、再び話し始めた。
「『ミステリー研究部』の拠点をここにした理由の一つに、ここならどんな活動をしてもバレる可能性が低い、というのがあるの。現にここに一週間住んでみたけど、やってきたのは教頭くらいだったわ。週に一度、ここの掃除をするみたい」
そうえば教頭先生って、いったいどんな仕事をしているのか疑問に思っていたけど、意外とやることは地味なんだな。
「でもその日、日光浴をしようと思った日のことよ。二階に向かう途中の階段の踊り場付近で、屋上に人の気配がしたの。教頭の掃除予定日は次の日だったから、警戒しながら屋上へ向かったわ」
なぜ四階建ての校舎の半分も登っていない位置から、屋上の気配が読み取れたのかはおいといて、ノーブラノーパンで校舎の一階から上れるだけの心臓が備わっていたら、大抵の敵なら気迫だけで倒すことができそうだ。
「屋上に出てみると――彼女がいた」
そう言いながら俺の後ろに目線を向ける雨沢先輩。
つられて俺もその方向を見ると、そこには先ほど、ここから飛び降りたはずの少女の姿があった。
その表情はどこか悲しげな……なにか思いつめているようなそんな表情をしていた。
「彼女、自分が死んだということにまだ気づいてないのよ」
え?
「そ、それってどうゆう――」
「あ――あの!」
ことですか? と聞こうとしたとき、後ろから――さきほどの少女がいた場所から声がした
「あなたも私の……友達になってくれるの?」