~プロローグ~
私立海星高校に通うことになった新一年生、浦隼人に
は、人には言えない、ある秘密を抱えている。それは……
幽霊(守護霊)が見えてしまうということ。
その秘密事項を隠しながら、平和な高校生活を送ろうと考えていた隼人だったが、現実はそう甘くはなかった。
わけの分からない部活の部長である先輩、自分が死んでいることに気づいていない少女、変なものにとり憑かれている同級生。
平和を望んでいる少年のもとに、本当の意味での平和はやってくるのだろうか?
時刻は午前四時、場所はとある街の中心部
こんな時間に起きている人間といえば、都会の如何わしいお店で酒を飲んでいる大人達や、田舎のちょっと健康すぎるお年寄りの方や、はたまた、受験に向けて猛勉強している学生達……って、ちょっと考えるだけで、起きている人間候補がここまで挙がってしまうのか。
以外にも自分が思っている以上にこの時間に起きている人というのは多いのかもしれないな……なんて、こんな話は正直どうでもいい。
とにかく俺が言いたいのは、こんな時間にも関わらず都会の中心部を、なんの考えも持たずただプラプラと歩くという行為は普通に考えておかしいということだ。
そこにさらに、十二歳という年齢が+されてしまえば、それはもう警察やらなんやらが声をかけて来てもなんの抵抗もできないわけでありまして……。
相手が警察ならまだしも、残念ながらこの『日本』という国は国民全員が善人というわけでもなく、なかには社会不適合人物もいるわけで、そんな相手に声を掛けられちまったらどこかのやばい組織と、一夜限りの関係になってしまうことはおおいに予想できる。
しかし逆に言ってしまえば、危険だと分かっていたとしてもやらなければいけないことというのは、これからの人生に幾多として登場してくる。
そのたびに今回みたいに長々と反省をしていたら時間がいくらあっても足りやしない。
だから俺は決めたんだ。なにがあっても後ろを振り返らず、前だけを見て、全力で突き進もうと!
「――おいこら待てクソガキ! ぶっ殺してやる!」
……なにがあっても絶対に後ろは振り向かないぞ!
「おい坊主。どこ見て歩いてんだ?」
そう、確か君と僕の関係は、こんな言葉から始まったよね。
「聞いてんのか! おい!」
照れを隠すために大声を上げているのかな? 強引なところもいいけど、そんなに腕を強く握られたら、冗談抜きで僕の腕の骨、粉々になっちゃうよ?
「いい度胸じゃねえか、ちょっと顔かせや」
冗談終了。これより緊急防御モードにシステム変更します。
「あ、あんなところに、朝四時という時間帯に若者がどこかで喧嘩していないか調べる為に、警察庁から緊急応援で呼ばれたミニスカ美人警官が、五十円玉を拾おうと前かがみになっている光景が……」
「なにっ!(バッ)」
腕から手が離れた、今しかない!
ヤンキーが僕の情報を信じて、必死になってパンチラを拝もうと探しまくっている。
バカめ。これだからヤンキーはアホだと思われるんだ。そっちにあるのは……
犬の糞(特盛り)
「こら待てクソガキ! ぶっ殺されてえのか!」
すでにヤンキーとは五十メートル弱離れている。この勝負……俺の勝ちだ!
小さいころからこの辺に住んでいたので、この辺りの道は庭同然。5分ほどたった今現在、ヤンキーの姿は四方八方どこにも見えない。
そろそろ家に帰ろうかな……と一人ごとを呟いてる自分にビックリしながらも、家に向かうことに。もう四時半だし、そろそろ俺の身体も (ドンッ)限界に近くなってきたので、家に戻ってやすもうと……っと、また肩に違和感が!
「ご……ごめんなさい!」
もう厄介ごとはゴメンなので、ここはいち早く謝っておくことにした。これこそ、この格差社会を安全かつ平和に暮らす最善の方法だろう。
おそるおそる、下げた頭を再び元の位置に戻してみると……どうやら今回の俺の予想はハズレらいしい。
そこにいたのは見た目二十五歳くらいの、とてもキレイな女性だった。足なんかがすらっと延びていて、目、鼻、口といったパーツが、百点満点の配置で並んでいる。
ナース服とか着せたらとても似合うだろ~な~……いやでも警察官というのも捨てがたい……おっと、危うく素の自分が出るところだった……。気をつけねえと。
ところが、次に相手が言ってきた言葉は、俺の予想とは大きく外れたものだった。
「どうして――。どうして、私に触れられるの?」
……なに言ってんだコイツ? というのがこの場合正しい思考の持ち主の考え方だ。
この考えを持てた君は晴れて、普通の人間だということが認められよう。
俺ももちろん普通の人間なので、この言葉には正直ビビったが、相手は疑問形で聞いてきている訳だし、ちゃんとした回答をしてやらないと失礼だろ?
ましてや相手は年上の女性だしな。
「どうしてって、そりゃあ肩と肩どうしがあたれば、誰だって触れることくらいできますよ」
――変な冗談言わないで下さい。なんて言葉を最後に付け加え、相手の女性の反応を窺った。
女性は信じられないといった感じの気持ちを、そのまま表情に置き換えたような顔をして、そして再び口を動かした。
「だって私―――、幽霊なのに―――」
………………………………………………はい?