プロローグ
櫻井要は、16歳の時に両親を交通事故で泣くし、僅かばかりの親が残した貯金で何とか高校を卒業、大学は諦め就職するも、見事なブラック企業ばかりに当たり職を転々し、つい先日も鬱になる手前に7社目の会社を退職し無職になった31歳だ。
12年前に地球は突如大規模な地殻変動が起き、世界各地に大小数々のダンジョンが出現し、そこから溢れ出た見たこともないモンスター達に未曾有の窮地に立たされた。
化学兵器でも十分には対抗できない中、時を同じくして漫画やアニメのようにスキルに覚醒した物達が世界中に現れ、多大な犠牲者を出しながらも年月を重ね現在は均衡を保てるレベルに持ち直していた。
あくまでも均衡を保てるレベルで油断は全くできないが、モンスターを倒すと現れる核は新たなエネルギー源として利用され、ダンジョン内で発見される貴重なアイテムはモンスターに対抗する力をもたらし、時には生活をも向上させていた。
世界各国の科学者達が日々研究を重ね、色々な事実発見、仮説など飛び交う中、少しずつではあるが人類は進歩している。
そんな中、均衡を保つ事を可能にした覚醒した者達を未知なるダンジョンを探索する者として探索者と呼称され、救世主扱いされると共に職業としても確立されていた。
今では各国のパワーバランスも優秀な覚醒した探索者の有無で大きく変わり、軍事予算は兵器から人にその対象が変わり、国々には探索者協会が設立され、探索者に様々な支援を行なっており、探索者はスポーツ選手や芸能人のように人気の職業になっていた。
最も世の中の職業で圧倒的に1番死と隣り合わせだが。
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1K6帖の狭い部屋、小さなテーブルとクッション、その横にシングルサイズのマットレスに布団、その布団の上にいた要の身体が淡く全身発光していた。
「これは…」
それは新たに覚醒した者に現れる現象だった。
ある研究者が発表した仮説に基けば、覚醒した事によりダンジョンより溢れた空気中の魔素を取り込める様になった事で起こる現象らしい。
「ステータス」
そう呟くて、要の目の前に薄くステータス画面が現れる。
まさにネットで見た現象と同じだった。
櫻井要
31歳
等級レベル0
体力0.751
攻力0.823
防力0.687
魔力0.664
俊敏0.722
精神0.867
固有スキル 購入1等級
「スキルが購入?」
要が呟くと、スキルの詳細が画面に表示された。
スキル 購入1等級
『金銭を対価に能力値、スキル、アイテム等を購入できるスキル。
金銭は自分で稼いだものに限り、購入できる範囲はスキル等級によって変化する。
購入した場合、本人の持ち得る資金より自動で引き落とされ、資金が足りない場合は購入できません。
また、このスキルを所持している場合、購入以外での能力値の上昇はできません』
詳細を読むと膨大な購入画面が現れた。
各種能力を上げるのに+0.001で1,000円で、スキルは安い物だと擬装5等級で10,000円、高い物だと回復5等級で2億円。
アイテムだと、鉄のナイフ5等級5万円、鉄の剣5等級20万円、回復薬5等級10万円、回復薬1等級になると2,000万円もするらしい。
試しに少し購入してみる。
各種能力の画面にあるボタンを押して購入すると、1に到達した時点で+0.001が3.000円と突然3倍になったので全てそこでストップする。
櫻井要
31歳
等級レベル1
体力1.0
攻力1.0
防力1.0
魔力1.0
俊敏1.0
精神1.0
固有スキル 購入1等級
各種能力が上昇すると、等級レベルが0から1に上がっていた。
ネット知識だが、等級レベルは1〜10まであり、各種能力の平均値が1.0以上で等級レベルが1に、平均値が10.0以上になれば最高等級の10等級になるらしい。
そこで、思い出したように財布を確認する。
開くと入っていた1万円札が綺麗に消えているが、良く考えると1枚しか入ってなかった為、急いで携帯で口座を確認する。
出金扱いで口座から150万円近く引かれており、基本的な仕組みを理解した。
ブラック企業に勤め理不尽な低賃金でも、13年間ほとんど使う暇すら無かったので要の通帳には500万円程の残高があった。
当面の生活費として100万円程を残して、残り250万円を予算に購入していく。
櫻井要
31歳
等級レベル1
体力1.015
攻力1.015
防力1.015
魔力1.015
俊敏1.015
精神1.015
固有スキル 購入2等級
保有スキル 隠蔽1等級・擬装1等級・身体強化1等級・剣士1等級・魔闘気1等級
魔法関係のスキルなどは高価過ぎてまだ手が出なかったが、300万円程購入した時点で、購入スキルが2等級にランクアップしたのは嬉しい誤算だった。
スキル 購入2等級
『購入範囲が増大、また自分で取得した核やアイテムを売却する事が可能』
これは冷静に考えてみても非常にレアなスキルで間違いなさそうだから隠蔽や擬装を購入しておいたが、売却が可能になった事で更に目立たなくて済みそうだ。
そして購入欄にあったキャンペーン限定1個!肉体促進剤10万円を、キャンペーン限定という文字に惹かれてつい買って飲んでみると、とんでもないことが起こった。
気の所為程度に身体が軽くなったくらいの違いしかなく、ハズレアイテムか!と落胆していたら、鏡に映る自分が若返っていた。
元々若く見える方ではあったが、どう見ても20歳くらいの時の俺だった。
下手すると高校生に見えるかも知れない、実際は31歳だが。
正直無職でひとり暮らし、家族もおらず、彼女や友人もいないし、まだ探索者協会で登録すらしていないので、この変化に誰も突っ込む人はいない。
まぁ若返ってラッキーくらいに思う事にした。
驚きは有りつつも、そこまで困惑せずにいられる理由はネットでかなりの情報が収集できるからだ。
自分のスキルをある程度理解した俺は、携帯で更なる情報を収集する。
「覚醒した場合は速やかに探索者協会へ行き登録義務があり、1ヶ月以内に登録をしない場合は、その事実が発覚した時点で違法者認定される仕組みになっている」
これは明日にでも登録をしに行くつもりだ。
「探索者は個人事業主に該当し、その等級により支援内容が変わり、その支援内容は税負担免除、活動資金支援、行政サービスなど多岐にわたる」
詳細を確認すると、探索者の数は対外向けにもダンジョンに対抗または攻略するにも必須であり、国力に直結する為に等級により差はあれど、あらゆる優遇措置や制度が施され、人材の流出や確保を目的としているが、その優遇を手にする事なく探索者登録をしても探索者として活動せずに民間企業で働く者も多い。
それは世界中にいくつも命に関わる仕事はあるものの、探索者が群を抜いて死亡率が高いからだ。
ネット上では各ギルドの探索者募集も活発に行われていて、「ギルド神明・探索者募集中!初心者歓迎!現在所属探索者は最高4等級を含む15名!これから一緒にギルドを大きくする仲間になろう!基本給30万円保証!ダンジョン探索結果による特別報酬有り!住居費補助!福利厚生完備!支援制度充実!興味のある方はぜひ下記までご連絡下さい!」などと条件は様々だが色んなギルドが同じようにネット上で募集をしている。
ギルドは大小多数あるが、大型ギルドだと採用基準は厳しくなる分、条件が破格だったりする。
正直裕福な暮らしに憧れたり興味が全く無いわけでは無いが、気を使いたく無いし色々面倒は勘弁して欲しいので、とりあえずは個人事業主としてソロで活動しようと思う。
色々携帯で探索者に関して調べながら、そのまま眠りについた。
朝早くから起きて準備をし、探索者協会へ向かう。
東京の外れに住んでいるものの、最寄りが日本探索者協会本部になる。
電車を乗り継ぎ向かうと、段々高層ビルが多くなり、行き交う人も増え始めた。
ネットで事前検索した結果によると、数年前に移転したらしく、地上40階、地下4階の高層ビルのその全てが日本探索者協会本部らしい。
乗り継ぐこと1時間弱、駅から徒歩5分足らずでその高層ビルを見つける事ができた。
ホテルと見間違うエントランスだが、数人の装備を纏った警備員がおり、大きく日本探索者協会と書かれているのですぐ発見できた訳だが。
そのエントランスを潜ると、高い天井のフロアが現れ、フロントに受付スタッフ在中してたので声を掛けた。
「覚醒したので探索者登録をしたいのですが」
「登録ご希望の方ですね。新規登録の方は2階受付になっておりますので、そちらのエレベーターで向かって下さい」
20代前半くらいの綺麗な女性が笑顔で案内してくれたので、お礼を言ってエレベーターに乗り込む。
着くと、そこは銀行のように受付カウンターが並び、連なった椅子に座って呼ばられるのを待つ人が何人も見えた。
俺も設置された発券機から発券して、27と書かれた券を持って椅子に座った。
30分程待って呼ばれたので、呼ばれた受付カウンターへ向かう。
「今日は探索者登録でお間違えないでしょうか?」
「はい、登録手続きに来ました」
「それでは、何か身分証を提示お願い致します」
用意しておいた身分証を出すと、パソコンで確認し、出した身分証を返却される。
「こちらに人差し指を入れていただけますか?」
差し出された小さい機械に人差し指を入れると、少しだけチクっと痛みを感じる。
「櫻井様ご協力ありがとうございます。血液を登録させて頂きました。これで探索者登録は完了となります。この後は3階にて1時間程の登録者講習を受けて頂き、講習が終わると探索者証と初期支援品をお渡しさせて頂いて本日は完了となります。何かご質問がございますか?」
大丈夫だと答え、3階に向かう。
写真が付いていない身分証だからか、万が一見た目について質問されたら整形ですと答えるつもりだったが大丈夫だったようだ。
3階に行き、無事に講習を受けると受付で1等級探索者と記載された名刺ほどの大きさの探索者証を渡された。
この探索者証を提示する事によって、ダンジョンに入場でき、また様々なサービスが受けられ、身分証にも成り得ると講習にて説明されていた。
更に初期支援品として回復薬などを貰い、協会を後にした。