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山姥DRIVE  作者: 高山丸虎
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第3話

火の守護精霊マルコと契約を交わし、一気に能力を開花させる事に成功したと思われる炎。現実世界に戻り、強敵の弁角相手にどうなるのか?

俺は、マルコのヤツにぶっ飛ばされて自分にぶつかった後、ヌメッと反転して現実世界に戻ってきた。

すると、時間の流れは一転し、いつもの時間の流れに戻っていた。


(この時間の変化が気持ち悪かった、オエッ。なんだか時差ボケのような感じ・・・てか海外行った事ないから分かんないけど。)



現実世界に反転して来て早々、目の前には弁角がいて、一気に右拳を振り下ろしてきた。


目の間には大きな拳が近づいて来ており、一撃をもらうと危ないといったこの危機的状況の中でも、俺はとても冷静だった。

弁角の動きも遅く見えるし、次の動きを考える余裕すらあった。

俺は見切ったかのように鮮やかに弁角の右拳を躱す。

その流れで体を回転させ、回転した力を利用して弁角のあごに裏拳。

メキッという音がし、弁角が空中で一回転する。

そのまま踵落としを腹部にかましながら地面に叩きつけた。

辛うじて両手で受け止めいた弁角は、炎の足を持ったまま立ち上がり、スウィングするようにして投げ飛ばす。

5メートル程飛ばされたが、空中で受け身を取り、何事もなかったかのように着地。


弁角は立ち尽くし、一筋の汗をたらりとした。


「・・・誰だお前?さっきの雑魚じゃない。」


「・・・・・。」


弁角の声を聞くと婆ちゃんの顔が脳裏によぎって来る。

それと同時に沸々と怒りが湧いて来た。


「喋んなお前!ゼッテェぶっ殺す!」

拳を握り締めて弁角を睨みつけると、体から火の精霊家系特有の赤い威圧感を放ち出す。

怒りが源となって火力が大幅に増幅しているみたいだ。

それを見た弁角が尻込みをする。

少し震えているようにも見えた。

自分より強いかも知れないという相手への恐怖感に負けてしまった弁角は、

「お前なんか、怖くねぇだー!」とその叫び声と共にジャンプし、両腕で掴み掛かろうとする。

弁角が仕掛けてきた苦し紛れの掴み攻撃に対して、俺は素早く右へ躱し、弁角の左脇にパンチを2発入れた。

2発のパンチに怯んだ弁角の両腕が下がり、汚ねぇ顔が見えた所に左足で蹴りを入れてぶっ飛ばした。


飛ばされた弁角が住宅の外壁にぶつかり、衝撃でコンクリートブロックがガラガラと崩れ落ちる。

弁角はその下に埋もれてしまい土煙と砂埃で周辺が見えなくなった。


「はあ はあ やったか?・・・思ったより、何か疲れるな威圧ってのは。」


動き量はそんなに多くなかったが、既に疲れが出始めていた。


周囲を観察すると、夜の住宅街がとても静かだった。

かなりの衝撃音が響いたにも関わらず、周辺住民1人も姿を見せる様子もない。


(恐らく、この辺の人達は既にコイツにやられたんだろう・・・。)

(炎!こやつらは人食らう時に恐怖や怨恨を同時に食らうんじゃぞ。しかも、その食うた数が多いほど強うなる。最悪じゃの。)

(マジか・・・だとすると、強くなる目的で食らい続けるヤツとかいるとヤバいんじゃないか?)

(そうだのう。そんな山爺がおったら果てしなく強うなるのう。)

俺とマルコが拈華微笑でやり取りをしていると、弁角が埋もれた瓦礫の下から、怨力の上昇を感じる。

そしてどんどん膨れ上がっていく。

マルコの表情が真剣に変わり、「さっきまでとは全くの別物がくるぞ!」

それを聞いて俺は即座に構えをとった。

一般の人間ならば直ぐにも意識を失ってしまうようなドス黒い力を肌にビリビリと感じる。


(これが怨力か、マルコいなかったら俺今頃死んでたな。)


「ムングググググッ、怒ったぞーーーーー!!!!!」と叫びながら立ち上がる弁角。

夜の住宅街に罵声が響き渡ると、声の衝撃で周辺の窓ガラスを吹き飛ばした。

とにかく怒っているらしい。

地団駄を踏んでアスファルトがヒビ割れしている。


すげえ力だな。

でも不思議と大丈夫な気がした。

そう思った次の瞬間、弁角が一瞬で俺の間合いまで入って来る。

その動きを冷静に見ると、体を捩らせて次の攻撃モーションに入っていた。

体制や体の使い方、筋肉の動きから左拳の裏拳が来ると予測できた俺はその一撃を躱す。

しかし、これまでの攻撃とはレベチな為、躱しても遅れて来る衝撃が、俺の体に傷を入れる。

その衝撃に怯む事なく体を回転させ、弁角の腹部目掛けて蹴りを一撃。


上空へぶっ飛ぶ弁角。

「グホェ!」思わず痛みに腹部を抑える。


俺は、上空へ追い討ちをかけるべくジャンプの体制に入る。


「よっっっこら せっっっとーーー!」


掛け声と同時に上空へ飛び出す。

一息で弁角の元へ追いつき、空中で時が止まったかのような連続攻撃を仕掛ける。

弁角も反撃しようとするも一方的な状況だった。

最終的に踵落としを脳天に食らわし、弁角を地面に叩きつけた。

ドーン!という音と共に砂煙が周辺を包み込む。


その後、俺は重力に引っ張られるように地面に着地。


「ハア ハア ハア」


体力的にも肉体的にも限界が近いのが分かった。


「もう、やっただろ。さすがに・・・。」


しかし、たった一時もしないうちに

砂煙の中からムクっと起き上がってくる影が見える。


「オラは・・・ま、まだ・・負けて・・ねえぞー」


何だか人間らしさが戻って来ている気がしたが、そんな事はないとスルーした。


「・・・まだ生きてんの?こっちのがガス欠でヤバいんだけど。」

「炎、うぬの体も限界が近い、そろそろ止めじゃ!!」

疲れた炎に鞭打つように言葉をかけるマルコ。


「そんなの分かっとるわ!でも、どうすりゃいいんだよ・・・。」

「わしゃと契約したんじゃから型式はうぬの頭に入っとるはずじゃが。」

「え?何だよ、それ・・・。」


「自身の心に委ねてみてみい、自然と出てくるはずじゃて。」


そうこうしている間に、最後の力を振り絞ってくる弁角。

「まだまだ・・死ぬわけにはいかねぇんだ〜、ゔぉぉぉぉぉぉ!!」

しかし体は炎の攻撃が効いており簡単には動けない状態のようだ。


「おk・・・今楽にしてやるからな、少し待ってろ!」


ゆっくりと深呼吸をし、神経を研ぎ澄まして心に聞いてみる。

(自分を信じるんだ。マルコと契約したあの時に与えられたイメージを___。)

すると体が自然と動き出した。

右脇に右手を抱え込むようにして構え、グッと右拳を握り、全身の火力を拳に集める。

そして右拳に火力を集中させる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


弁角は炎の右拳から放たれる火力による強烈な威圧感に恐怖し動けなくなっている。


「火拳壱式、炎昇。くらえーーーーー!」

俺は叫び出すのと同時に右拳を地面に叩きつけた。

すると、弁角の足元からピキピキと地割れが起き始めた後、一瞬にして火の槍のような物が地面から突き出てきた。それはまさにコンマ数秒の出来事だった。

「グハァ」弁角の腹に槍先が突き刺さると、そのまま数メートル上空まで一気に突き上げた。

そのまま上空で串刺し状態になると直ぐにボッと火が全身を覆っていく。

そして体の外側から徐々に焦げていく。


「痛いよぉ、熱いよぉ。」

じわじわと灰になっていく弁角は、自分の体を見ながら「うわぁぁぁぁぁぁん!」と大きな声をあげると、その体には似つかない程子供のように泣きじゃくり始めた。


「じにだぐないよぉぉぉ。」喚いている間にもゆっくりと灰になっていく。

俺はその灰の中に虹色に輝く灰が混じっている事に気付いた。

「マルコ、あの虹色に輝く灰のような物って何?」

「あれはこやつに食われた人の魂の輝きじゃ。その輝きは天まで登って行くんじゃ。こうして山爺に食われた者の魂が解放されるという事何じゃ。」

キラキラ美しく最後の輝きを放っては空に消えていく。


「あんな山爺でも、元は血が通った人間だったんだよな・・・。」

俺は祖母を殺された憎しみの感情をグッと押さえ込み、それでもなお両手を合わせて拝んだ。

弁角の焦げて灰になった部分から人間だった頃の感情が、炎昇を通して炎の頭に強制的に流れ込んでくる。



ー弁角誕生の過去ー

その昔、学生だった弁角の母は、好奇心から社会人男性との関係を持ってしまい、一夜の行為によって身籠ってしまう事に。しかもその男性相手が逃げてしまい、連絡先すら分からず。誰にも相談できず、悩み苦しんだまま出産の時期が来てしまう。どうしようも無く、公共トイレで出産をしてしまう事になった母。無事出産は終え、その時誕生した赤子が弁角だった。しかし出産はしたもののどうして良いか分からなくなった母は、パニックに陥り、逃げた男性への憎しみに囚われ病んでしまう。心が崩壊してしまった母は、姥捨山を訪れ、罪のない我が子を山に捨てようとした。運悪くそこに山姥が現れてしまい、「我が子を捨てるような者は食う価値もないわ。」と殺されてしまった母。その時、山姥に拾われた弁角は「赤子の肉は栄養価が高いからねぇ、味わっていただきたいわね。」と言って釜茹でにされて食われてしまう。その後、山姥の排泄物から複数生まれる山爺の1体として弁角が誕生した。

何とも哀れで虚しい過去だった。



「何も分からない赤ちゃんなのに、悲しかったとでもいうのか・・・、でもだからと言って奪っていいものじゃない。」

なぜか俺は、弁角の過去の感情を受け、右目だけ涙がこぼれた。

祖母の命を奪われた事への悲しみと怒りに対し、弁角への哀れみが入り混じり、感情が誤作動を起こしたのだろう。


「なんで婆ちゃんが・・・。くっ・・・。」


最終的に弁角の心臓部分が灰になり全て燃え尽きた後、炎昇は消えた。

体力も底をつきかけており、フラフラと膝から崩れ落ちた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


分不相応な程の火力を使った為、立っているのもやっとの状態だった。


「やればできるじゃないか!カッコよかったぞー!」

程なくしてマルコが俺に近寄ってきた。


「・・・・・。」

しんみりしていた俺にはこいつは今うるさ過ぎる(怒)。


「あんだけでバテバテになるとは非力なもんじゃのう。修行が必要じゃのう。」

半目でチラッとこちらを煽るマルコ。


「ちなみに今の技は、追尾したり連続で放ったりする応用技術もあるぞい。」

「そんなのあんのか、もっと早く俺がこんな風になれてたら婆ちゃん守れたかもな・・・でもまあ、とりあへず仇がとれて良かったよ!」

そう話している時、話に割って入るように上空から途轍も無く巨大な怨力が降ってくるのを感じた。


何事かと上空を見上げる炎とマルコ。


(なんだろう?)2人がそう思った瞬間。


ズドーーーーーン!!!!!


上空から降ってきた物が地面に衝突、それから爆風と砂埃が周囲に広がっていく。


「ゴホッ ゴホッ ゴホッ」


衝突した爆風と砂煙で前方が見えない。

しかし、途轍も無く強力な何かがそこにいる事だけは理解できた。

その場にいるだけで気絶してしまいそうな、凍てつく感じがする。

現在PM9時過ぎくらいだろうか。住宅街の街灯は真っ暗に消えており、一部の街灯だけがチカチカと点いたり消えたりを繰り返していた。


何やらとんでもない物が上空から降ってきた模様。それは一体何なのか?

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