第2話
祖母を失ってしまった炎。山爺の一撃に吹き飛ばされてしまい気を失ってしまった。迫り来る山爺を前にどうなってしまうのか。
「あれ?・・・どうなってんだ俺?」
ふと気が付くと、数メートル上空から自分が倒れている様子を見ていた。
「もう死んだのかな?」
「・・・これが幽体離脱と言うやつなのか。」
もちろん初めて体験する事だが、その初体験というものが(死)というものなんだな〜なんて考えていた時、ハッと気になった方向を見ると、その先にはあの巨体山爺の弁角がいた。
ゆっくりと俺の倒れている方向に歩いている。
しかし、なぜかその動きは1/10秒くらいのスローモーションに映って見える。
「俺やられそうだな。やべくねっ!?どうしたらいいんだよ。」
遠くから何か聞こえてくる。
「・・・・・い!」
しかし、炎の耳には届かない。
「はぁ、俺の人生終も完全に終わったな。」
絶望に負していると、
また遠くから何か聞こえてくる。
「お・・・・い!」
「ま、どーせもう死んでるし、どうでもいいか。」
完全に開き直っていると、
「おーーーい(怒)いい加減にしろぉ!!!!!」
耳元にとんでもなく大きな声が響き、俺はびっくりして飛び上がった。
「さっきからずーっと呼んどるんじゃろが!」
その声がする方に振り返ると、そこにはピンク白い体に、時々赤や黄色の火の粉を飛ばしている丸っこい火の玉みたいな奴がいた。
俺はキョトンとしてしまい、一瞬時が止まったかのようだった。
そして、ふと我に返ると、
「のうわぁぁぁぁぁぁぁ、何だお前はぁ?一体どこからきたんっすか?ああコラ!?」
驚き過ぎてヤンキーみたいなチャラ男みたいな訳の分からないような言葉使いになっていた。
「何を言うとるんじゃ、うぬは。今はそれどころじゃなかろうが!わしゃの名はマルコ。うぬの魂が自らの命の危険を察知した時に、自身をまもるために誕生させた火の守護精霊じゃよ!」
なぜかカッコつけ気味に言うマルコ。
話はともかく、その姿が妙に癇に障る気がしたが、とりあへずスルーする事にした。
「代々わしゃら火の守護精霊は、うぬら火の精霊家系の魂の元に支えて来たんじゃよ。言うてもうぬは自分が火の精霊家系だとか知らんじゃろうが・・・。」
(何を言っているんだ、こいつは。)
「まあ無理もないか・・・うぬは小さい頃に両親を無くしてしまったからのう。」
「何でそんな事知って・・・。」
「おいっ、聞け炎よ!」と被せてくる。
俺はムッとして、マルコの問いかけに対して(偉そうになんだお前?)みたいな感じの表情を浮かべると、「真面目に聞けぃ!」とめちゃめちゃ大きな声を出してくる。
「何なんだよ、お前は!うるせーな!」
「いいから聞け!今は一時的にうぬを幽体離脱させ俯瞰体にしてやっとるだけじゃ。ちなみに俯瞰体時の時間の流れは、現実世界の約10分の1じゃ。」
「えっ!!なになに??どういうこと???」
俯瞰体である俺は、マルコに思い切り詰め寄って聞くと、「えーーーい、近い!」と目が飛び出しそうな程恐い顔をして言うマルコ。
「このままじゃうぬはくたばるぞ!弁角とか言うやつにやられて終いじゃ。」
「えーーー!?いやだよ助けろよ、ねぇってばぁ」とマルコを鷲掴みにしてみると、
「どうわぁぁぁ!!うざい!!」
怒って尾火で俺の事を振り払ってきた。
「兎にも角にもヤツを倒すには、わしゃと契約して無理矢理覚醒させる他ないわ・・・。わしゃもうぬにくたばられては困るんじゃ・・・。まあ、うぬに悪いようにする訳じゃないんじゃから心配すな!」
そんなマルコの事を冷ややか且つ怪しそうに見つめたが、そうするしかないと分かっているのなら俺の決断は早かった。
なぜなら、命に代えられるものがないからだ。
俺は決心し、
「よっしゃー!分かった、生きるためだ!ならさっさとやんぞ、契約ってやつ。このやろう!」
親指を立ててマルコに向かってグッドポーズを決める。
「うぬは昔からその潔さだけは立派じゃったのう。」
うんうんと感傷に浸っているマルコの感じが、ちょっと癇に障ったので、ちょっとイラっときた。
マルコは火の精霊族に仕える守護精霊でありながらも炎の魂の守護体でもあるという事なので、炎の過去の記憶も保持しているようだった。
そして続けてマルコは言う。
「契約書は100枚あるからのぅ、と言うのは冗談じゃ(草)」
こんな危機に瀕している状況の中でのこの発言に、バカじゃねぇの?みたいな顔をしてマルコの方をじ〜っと見ていると、段々とマルコが恥ずかしくなった様子で赤く燃え上がった。
「ギャハハハハハ、恥ずかしいとお前そんな風になんの?。」
俺はマルコを指差してゲラゲラ笑った。
そんな炎を見て、マルコはムッとしつつこう言った。
「・・・・・ほ、本当にうぬはユーモアがないのう、誠に残念じゃ。」
「そんなのはユーモアって言わねーのw」
マルコはその後に続けて、今度はタチの悪い冗談を言い出した。
「わしゃと契約するにはうぬがわしゃのほっぺにキッスをするんじゃ。分かったか?これだけで契約完了じゃ。」
・・・・・。
少し時が止まって、
「な・・・何を言ってんの??気持ち悪っ、まじ無理っす!」
強ち本気で断ったつもりだったんだが、あまり伝わってなかったようだ。
「わしゃ自体が決めた契約の方法じゃから仕方なかろう。」と言って俺の言葉を無視し、乙女のようにキッスを待っている。
その姿が妙に可愛らしく感じてしまった自分に少し苛立ちを感じたものの、この時間にあまりにも耐えられそうになかったので、(背に腹は変えられんか。)と思い、仕方なくキッスをしようと試みる。
そんな絵も言わないような異様な時間の中で、俺はマルコのほっぺにチウッとキッスをした。
その後、直ちにマルコから離れると、俺は側溝にゲロンちょしてしまった。
しばらくしても特に何も起きないので、
「え!?何?・・・何もないんだけど・・・。」
2人の間に微妙な空気感。
「ただキッスしただけ?・・・」
俺がそう言った後、少し間が空いて、いまだにほっぺキッスを受け入れるポーズをしていたマルコが振り返って応える。
「よし!契約完了じゃ、行くぞ相棒!」
(何で意気揚々としている?)
「いや、そーゆうのは主人公側のセリフでしょうが。てゆーかこの後は何も起きんの?」
そんな俺の言葉を静止するようにして、
「そんなのは無い!大体うぬはアニメの類を見過ぎなのじゃ。」
ハーっとため息をついて続ける。
「ほれ見てみぃ、覚醒した証拠に瞳に炎が宿っておるから。」
一瞬にしてマルコの尾火が鏡になる。
俺はその鏡に映った自分の顔を見て、
「ああ、なるほど。確かに・・・、でもこの火のトゲトゲが3本なのって何なの?」
マルコはくるくると炎の周りを回り出して、
「よくぞ聞いてくれた〜!」と言った後、
ここからマルコ先生の精霊家系講座が始まる。
「コホン!あ〜精霊家系について説明するぞい。まず、生霊家系は全部で火・水・土・風・光・闇の6種族に別れておる。各家系は守護精霊と魂の契約を結ぶ事で、守護精霊による加護を受ける事ができるようになり、それに応じた肉体・能力の強化及び精霊術式を使用する事ができるのじゃ。そして精霊家系の特徴としては主に2つあるぞ。1つ目は、瞳に各家系の象徴を宿すという事・・・分かりやすい具体例で言うと、火の精霊家系は瞳に炎が見えるようになる。ちなみにそのトゲトゲの数が多い程、能力の高さ、つまり強さを示しておるのじゃ。続いて2つ目は、圧じゃ!威圧とかの圧じゃ。まーこれは強くなって行くうちに分かるようになるじゃろ___。そろそろ時間もなさそうじゃし、大体の説明はこの辺までにしとくぞ。後は自分で体感してこい!」
と言って、マルコの精霊家系講座は幕を閉じる。
「何となくは分かったけど、俺はトゲトゲ3本だし、まだまだっつー事だよな?」
「まー、そういうこっちゃ。」
(少し悔しい気がしたが、こいつとは契約したばっかだし、そんなもんなんかな。)
「もうそろそろ時間がないぞ。俯瞰体時間でも、そこまで敵が迫って来ておる。持ってあと10秒くらいじゃ。さっさと行って婆ちゃんの仇をとってこい!うぬならもうヤツくらい倒せるはずじゃ。」と言った後、マルコは尾火を掌のように変化させた。
そして、思いっきり振りかぶって、勢いのまま炎の背中をバチーんと叩いて炎本体の方へ思いっきりぶっ飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
ぶっ飛ばされた俺は、ガッチーンと勢いよく自分の身体にぶつかると、俯瞰体×人間本体がヌメ〜ッと合体していった。
「さっきお前の言ってた事信じるぞ!あ、合体するの気持ち悪っ!うわっ。」
「ほんっとにうるさい奴じゃの、今のうぬなら倒せるというとろうが。」とブツブツ言いながら、プイッとするマルコ。
俯瞰体と合体した炎が白く輝き出し、その輝きが終わると共に現実世界に戻ってきたのだった。
俯瞰世界から戻ってきた炎、本当にマルコの言った通り山爺を倒して、婆ちゃんの仇を取る事ができるのか。
次回へ続く。