♪9
「あぁ、目がシュワシュワしてきた。」
そんなことを考えるようになった理由は、紛れもない。最近寝れていないからだ。そんな思春期の男子みたいな理由だが、ただ桜花のことを思い出してみると、それがとめどなく湧き水のように溢れ出てくる。ただ、それだけ。
あれから作詞ノートには1日1曲のペースで書いていっている。というか、それだけしか書けない。桜花のことを思い出していると、自然と空が茜色に染まっているからだ。時間は止まってくれないんだな。そして、戻ってくれないんだな。
たった1度だけ、桜花のノートを見て言ったこと。
「楽しいん?」
そんな何の変哲もない質問が口から零れた。
「少なくとも私は楽しい。読んでくれる人がどうかは知らないけど。私はそんなに有名になるつもりもないし、周りの目なんてどうってこっちゃないから。私は私の好きを貫き通す。ただそれだけ。」
桜花の目には迷いがなかった。俺はこの時、桜花みたいになりたいと思った。
そんなこんなで今日に至るが、まだあの時の衝撃を超える曲はできていない。いや、できないと言った方が正しいか。
「おうか…」
その呟きも虚しく、虚空に消えていく。何度呟いたか分からない。ただ、その呟きに少しずつ熱が籠っていっているように感じた今日この頃であった。
『ガラスの向こう側の雲は飛んでった洗濯物
消えそうなほどに儚い繋がり求めて
カラスの声がしたら西から眩しくなって
壊れそうなほどに脆い歯車噛み合わして
最終駅の向こう側に 何が待っているのかは
僕は知らないから
ただまっすぐに見つめるだけ
君の 瞳の奥の 間違いは分からないけど
君の思考回路停止して 全部伝えられたらな
君の 影の先の 運命に続く道だけを
踏みしめられたらな あぁ甘いな
ガラスの向こう側の街は干からびた星の墓場
消えそうなほどに眩い希望を抱いて
微かに聞こえるサイレン震える耳を少し
逃げそうなほどに弱い気持ちを落ち着かせ
最終駅の向こう側に 何が待っているのかは
僕は知らないから
ただまっすぐに望むだけ
君の 瞳の奥の 感情は読めないけれど
君の嘘、妄想見せてくれ 何も失いたくない
君の 指の先に 触れているその悦びを
噛み締められたらな あぁ
君の 言葉の先に 何が込められてるのか
君の好きなことも知らないし 全部受け入れるから
君の 瞳の奥の 後悔や嫉妬も全部
分かり合えたらな あぁ甘いな』