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俺の君への鎮魂歌  作者: 136君
29/49

♪29

 窓ガラスに雨粒が当たる音が響く。すぐ隣、いや、今日は少し遠いところから聞こえる湿っぽい呼吸音。そして、俺のパーカーを着た桜花。


「…あのさ。」

「何?桜花。」

「いっつももうちょっと近かったよね。」

「だな。」

「なんなら、引っ付いてたよね。」

「だな。」

「なんでこんなに距離があるの?」

「自分の心に聞いてみなさい。」


桜花は自分の胸に手を当てる。そして、


「ほうほうほう」


と頷いた。そして、ニヤリと笑みを浮かべる。


「彪河は私のこの姿にドキドキしてるんだな。」

「っ」

「素直に認めちゃいなよ〜!」

「バッ、おい!」


桜花が俺の足に乗っかってきて、そして、身体をよせる。綺麗に切り揃えられた前髪が俺の額に当たる。鼻と鼻もぶつかり合いそうな距離。お互いの心音も呼吸音も全部聞こえる。


―バチン


「「あっ」」


どこかで雷が落ちたのだろうか、電気が消える。窓からさす薄い光だけが部屋の中を照らす。


「LEDランタンつけるからどいて。」

「ん。」


そう言っても、桜花は俺の両肩を押さえて動けない。目の前の桜花の目に映っているのは俺だけだ。その目に引き寄せられそうになる。


 桜花はフッと笑って、そのまま俺の耳に口を近づけた。


「私、彪河にならあげてもいいよ。」


何をかは言わなくても分かる。


 もう1度さっきの位置に顔を戻した桜花は、そのまま俺の唇にキスを落とそうとする。俺は桜花の肩を掴み、引き離した。


「ヘタレ。」

「…………」


自分を呪いたかった。これで桜花を助けた気になっている自分を呪いたかった。


『溢れそうな程のこの気持ちは

 どんな名前がつくのだろう?

 飾った戯言ばかり並べて

 一体何になるのだろう?


 夢でよかったと 思っていたんだ

 クシャクシャに丸めた記憶のメモは

 紛うことなき静寂と

 偽ることできない喧騒が

 合い混じって 1つになったようで


 僕の手を払い除けて

 聞こえてくる湿っぽい呼吸の音

 その艶やかな唇に

 吸い込まれてしまいそうで


 僕がヘタレじゃなかったら

 きっと傷つけることはなかったのだろう

 けれど僕は僕のこの選択に

 間違いを見つけれそうにない

 神様が選んだ巡り合わせ

 揺れる心はきっと誰かのせい

 触れた指先の体温それだけで

 僕の心はさ 溶けてった



 夢でよかったと思っていたんだ

 飾らないその姿を見ると

 耳の中響く甘い声と

 いつまでも変わらぬ笑い声が

 脳の奥を 震わせたんだ


 僕の手を払い除けて

 聞こえてくるうるさい心の音

 その潤んだ瞳に

 吸い込まれてしまいそうで


 僕がチキンじゃなかったら

 きっと傷つけることはなかったのだろう

 けれど僕は君と君のその身体を

 汚したくはないから

 数え切れない出会いの中で

 弾む心に身を任せないで

 触れた鼻先の体温それだけで

 僕の心はさ 溶けてった』

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