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俺の君への鎮魂歌  作者: 136君
28/49

♪28

 その日は雨だった。


「うわぁ、急に降られたぁ〜。最悪。」

「じゃあなんで俺の部屋に来た?」

「家の鍵忘れた。」


俺が差し出したタオルで髪を拭きながら桜花が答える。


「はぁ…お前の母さんには連絡しといてやったから。晩にこっち来るってさ。」

「じゃあそれまで私は?」

「待機。」

「了解です!彪河たいちょー!」


ビシッと敬礼を決める桜花。その服は濡れていて…


「着替え貸してやるよ。」

「へ?あっ!ありがとう。」


クローゼットから適当にパーカーとTシャツを取り出して桜花に渡す。


「着替えたら呼べよ。」

「どこ行くの?」

「扉の前。」

「彪河のお母さんいるけど。」

「…会わないことを願うだけだな。」


別に話したくないとかそんなんじゃない。ただ、俺は他の人が信じられない。信じられなくなってそんな自分が嫌いになった。それだけだ。


「…彪河がこっち見ないって約束してくれるんなら、中居てていいよ。」

「気にしないのか?」

「そりゃあ気にするよ。でも、彪河ならいいから。」


桜花の顔がみるみるうちに赤く染っていく。そんな恥ずかしいんなら言わなきゃよかったのに。でも、男が廃るな。


「わかった。俺こっち向いとくからさ。チャチャッと着替えちゃって。」

「うん…」


俺がドアの方を向くと、後ろから布擦れの音が聞こえてくる。ダメだ。向いてはいけない。だって、桜花は俺を信じてくれてるんだから。


 理性が爆発しそうになった頃に、音が消える。


「もう、いいよ…」

「そ、そうか。」


俺は振り返る。そして、フリーズした。


『濡れた髪はそのまんまで

 偽りの言葉並べて

 高鳴る心臓にさえも

 嘘をついて

 貸した僕のTシャツ

 少し大きめの裾が

 「絶対違う」って言っている


 窓ガラスに当たる雨の音

 冷たくビートを刻んで

 耳の奥の方で鳴るのは

 僕の心臓の音だけ


 このまま

 君を食べてしまいそうで

 理性でブレーキかけても甘すぎて

 伸ばした手 何かに掴もうとして

 そっと手を引っ込めた



 いつもはこんなんじゃないのに

 ただ静寂に包まれて

 真っ赤に火照った頬隠し

 向かい合うこと忘れた


 窓ガラスに当たる雨の音

 進んでいく秒針の音が

 喉の奥の方でつっかえた

 「あのさ」なんてちっぽけな言葉だけ


 このまま

 君を食べてしまったならば

 君には明日も会えるの?多分無理さ

 伸ばした手 何かを守りたくて

 そっとなかったことにした



 2人違う世界線で出会えたら

 きっと今よりも離れていて

 接点ばっか探してばかりで

 心の奥の氷なんか知らないままで


 このまま

 君を溶かしてしまえたら

 君の目に映るのは誰なんだろう?

 伸ばした手 何かに触れようとして

 そっと頬だけ撫でた』

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