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記録2 居候客と先の戦争

主人公:加島由宇(21);科学者。不慮の事故により異世界へと飛ばされてしまった。


姉:ルミア(18):お姉ちゃんっぽい口調でしゃべろうと努力中

妹:カロン(16):自由気ままに生きるのがモットー

「ここが、私の家です。どうぞ入ってください」

 家というよりかはむしろ小屋に近い建物に足を踏み入れる。

「お姉ちゃん おかえりっ!」

 家の中から飛び出してきた少女がルミアに飛びつく。

 すると、俺にも気づいたようで

「ねえねえ、お姉ちゃん。この人は?」

「この人はね、迷子の人なの。それで、お姉ちゃん放っておけなくて連れてきたんだ」

 嘘つけ。いきなり腕縛り上げてきたくせに。

「へぇ~ 私、カロンっていうんだ! よろしくね!」

 カロンという名の少女は目をくりくりさせながらそう言う。

 なんだ、この可愛い生き物は……

「俺は、由宇ゆうだ。よろしくな。」

「よろしくね、ユウ!」

「ああ。」

 少しばかり、動揺しながらも冷静を装ってそう答えた。


 中に入ると、少し大きめの部屋に通される。

 カロンは速攻で椅子に向かう。

「今から、調理するのでそこの椅子にでも腰かけて待っていてください」

 そういわれた俺はカロンの隣の椅子に腰かける。

「ねえねえ、ユウ。ユウって大人なんだよね? どんなお仕事してるの?」

「え……仕事か……」

 ここはなんて言うべきか。

「カロン、その人は気の毒な人なの。昔の記憶があまりないらしいから、あんまりそういうことは聞かないの」

 キッチンの方からルミアがそう言うと、カロンはむっとした顔をする。

「はぁ~いっ」


 しばらくすると食事が出てきた。

 これが本物のパンか。初めて見るな……

 まじまじと、パンを観察する。

「どうぞ、遠慮しないで食べてください」

「じゃあ、お言葉に甘えて。いただきます!」

 俺はパンをちぎって一口食べる。

「このパン滅茶苦茶美味いな」

「そう? そう言ってもらえると嬉しいけど」

「お姉ちゃんの作るパンは世界一だよ!」

 そう言いながらカロンはバクバク口の中に食べ物を放り込む。

 それで味がわかるのか……


 食べ始めてから少したって落ち着いてきたので俺は肝心な話を切り出す。

「俺、ここについて何も知らないんだ。ここがどこか教えてくれないか? それと、十年前に何があったのかも出来れば教えてほしい。嫌なら別に構わない」

 ルミアとカロンは目を見合わせる。

 しばらくすると、ルミアが口を開いた。

「そうですね、どこから説明しましょうか……まずここについてなのですが、ここはユドレティア王国の王都ユドレアのはずれにある小さな村です。王国全体の人口は500万人弱。王都には20万人もの人がいるんですよ」

「それって、多いのか?」

 俺がそう疑問を抱くのも無理はない。なんせ俺が住んでいた南極の奥地に位置していた実験都市でさえ800万もの人が住んでいたからな。

 だがそんな反応を示した俺にルミアとカロンは驚いたような顔をする。

「20万っていうのは恐らくですが、ここら辺の国の中では最大人口のはずですよ」

「そうなのか?」

「そうだよ!」

 意気揚々とカロンが口をはさむ。

「王都は凄いんだからね? 奇麗な服もあるし、おいしい料理も食べれるし、人も多いし、こことは比べ物にならないくらい華やかなんだから!」

「そのことに関してはカロンが言った通りです。ユドレアは貿易の中継港にあたる場所で、世界中の物品が流通しているんです。なので、私たちもよく王都に花を売りに行ったりするんですよ」

「私たち明日そこに行くんだよ! ユウも行く? カロンが連れて行ってあげるよ!」

「ついて行っていいのならお言葉に甘えて……」

「じゃあ、決まりねっ!」

「もう。カロン、王都は遊びに行くわけじゃないんだからね。あしたは、大切なお得意様からの注文なんだから」

「むぅ……そんなのわかってるよぅ」

 カロンが少し拗ねた感じに答える。


 ルミアはため息をついて、話を続ける。

「で、もう一つあなたが聞いていた十年前のことですか……」

 静かに彼女は話を始めた。


「人間はかつて、大きく魔法と魔術という二つの力を支配していました。魔法はオルティア王国、魔術はネストリアム連邦というように、それぞれの力が異なる国によって管理されていたんです」

「そんなことが、お前たちの両親と何の関係があるんだ?」

「きちんと話を最後まで聞いてください!」

「はあ……でその力はどこにあるんだ? 見せてくれよ」

「ちょうど今からそのことについて説明するところだったんです! あなたには人の話を聞くという力はないのですか?」

「……すまん、つい職業柄、他人の研究に口をはさむのが癖で……」

 いけない、つい口が滑って記憶喪失の設定が……

「まあ、いいです。……で、その二つの力は、次第に人類を分断していき十五年前に『能力継承戦争』が勃発しました。私の両親はオルティア人だったのでこの戦争に参戦して……」

 彼女の顔がみるみるうちに崩れていく。彼女は涙をこらえて話を続ける。

「十年前にオルティア側が『全球封印』という魔法を用いて、魔術世界を封印したことによって一旦は戦争が終結しました……」

「なるほど、それじゃあ、今は魔法しか残っていないということか」

「いえ、実はそれだけでは終わらなかったのです。魔術世界を滅ぼしたと思われていた魔法ですが終戦直後に何らかの原因でこちらも突如として世界から消滅してしまいます」

 オルティアと魔法世界も何らかの原因によって封印されたと考えるのが妥当なところだな。

「これに関してはまだ、原因もわかっていません。その後、長期間に渡る戦争による荒廃と魔法の消滅によって権威を失ったオルティア王国もネストリアムの後を追って滅亡してしまいました」

「それじゃあ、今は何も残っていないのか?」

「そうですね」

 そんなにも大きな力が丸ごと封印されるとは考えづらいがな。まあ、そもそも、封印という言葉自体、科学者の俺にとってはにわかには信じがたいものであるのだが。


「お姉ちゃんもユウもそんな能力史の授業みたいな話しちゃって、楽しいの?」

 カロンは退屈そうな顔をしながら、花を包み紙で巻く作業を始める。

 これは悪いことをしたな……つい、さっきの話に夢中になって、すっかりカロンのこと忘れてた。

「能力史の授業って……お前学校に行ってるのか?」

「学校? 学校とかそんなよくわからないところじゃなくてカロンはミドルスクールに行ってたんだよ! えらいでしょ! へへっ まあ、もうやめたけどね」

 ミドルスクールって……学校の一種じゃないか。というか、そもそもそれって中退じゃないか……全然偉くないぞ……



「そういえば、あなたはこれからどうするんですか?」

「どうするって……何をだ?」

「何を、って……あなた、行く当てがないのでしょう?」

 あ、そういうことか。まさかこちらから頼まずとも泊めてくれるとはな。さっき会ったときはあんなに狂暴だったのに、コイツ結構いいやつじゃないか。

「隣に使ってない納屋があるので、そちらにでも泊まっていきますか?」

「……。」

 納屋って……外じゃないか! まあ、泊めてくれるだけでもありがたいことだし、ここは厚意に預かるとするか。

「本当にいいのか? 申し訳ない。迷惑ばかりかけてしまって」

「別に大丈夫ですよ。私も助けてもらった身ですので。ところで、あなたって当分ここにとどまる予定ですか?」

「そうだな。特に身寄りも行く当てもないし、差支えがなえればそうさせてもらいたいのだが……」

「わかりました。それでは、村役場にあなたの移民申請をしに行きましょう。申請しないといろいろ不便ですよ」

「移民って……そこまで大げさなことはしなくても……」

「一か月でもここにいるのなら、しておくことに損はありません」

「……。そうだな、じゃあ、よろしく頼む」

「カロン、どうする? 一緒に行く? それとも留守番する?」

「ん~~ じゃあ、カロンも行く!」

 そいういうわけで、俺は町役場へと向かうことになった。


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