第8話 おじいさんの話
次の日、学校の休み時間に正史は優斗と翔太を校舎の裏に呼び出した。
「ゴッドストーンのことだけど・・・。」
ゴッドストーンとは正史が命名したあの秘密基地の名だ。秘密なのだから他の誰にも聞かれてはならない。
「また今日も行くか?」
「いや、ママにばれてしまって行けなくなってしまった」
正史はすまなそうに頭をかいた。優斗はそれを鼻で笑った。
「ふふん。ばれなきゃいいだろ? 誰も見てないから大丈夫だ」
「いや、そんなことじゃないんだ。あの洋館について知りたいんだ」
「どうして? 何か気になることでもあったのか? もしかしてたたりか?」
翔太はからかうように言った。
「いや、そうじゃないけど。ちょっと気になっただけだ。昔のあの辺のことを知っている人がいればと思ったのさ」
正史はそうごまかした。まさかぬいぐるみのトージがおかしなことを言ったとも言えなかった。すると優斗が言った。
「あっ。そうそう。用務員のおじいさんなら昔のことを知っていそうだぜ。ここの土地の人でかなりの年だしな」
そのおじいさんは本当の用務員ではなく、ボランティアで古くなった学校の修繕をしてくれる人だった。なんでも昔は腕のいい大工だったらしい。
「そうか。じゃあ、おじいさんから聞いてみよう。今日も来ているかな?」
「さっき見たぜ。南館の1階の階段を直していた。しかしこの古い学校、いつになったら新しくなるのかな」
「なんでも木造の古い校舎で価値があるから壊せないそうだぜ」
優斗と翔太はまだ話していたが、正史はその話も聞かずに急いで走っていった。すると確かに階段の手すりを修理しているおじいさんがいた。正史は思い切って声をかけた。
「おじいさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」
「おや? どうしたんだい?」
そのおじいさんは顔を上げてにこやかに笑いながら言った。
「昔の白鳥丘のことを知っている?」
正史がそう尋ねるとおじいさんの顔がこわばった。
「知っておるが・・・。君は何が知りたいのかね?」
「ええと・・・そこの大きな洋館のこと・・・半分焼けていて壊れているけど。」
するとおじいさんは悲しそうな顔になった。
「昔、そこは空襲で燃えたんじゃよ」
「くうしゅう?」
「そうじゃ。日本は戦争をしていてな。飛行機から爆弾を落とされてあの辺一帯が火事になったんじゃ」
おじいさんは遠い日を思い出していた。それは悲しい記憶であり、思い出したくなくても今でも頭に浮かんでくるようだった。
「そこは別荘地で東京から疎開してきた人が住んでいた。確か、その家の執事と小さいお嬢さんと・・・」
「その人を知っているの?」
「ああ、遊んだことはなかったが、遠くからちらっと見たことがある。みえこさん・・・だったかな。確かミーコと呼んでいたような・・・」
「ミーコ!」
正史は声を上げた。それですべてが分かった気がした。
(その執事の魂がうさぎのぬいぐるみに乗り移ってミーコに会いに来たのか?)
「そのお嬢さんや執事はどうなったの?」
「さあ? 空襲で亡くなったかもしれんな。あの時は多くの人が死んだ。もうあんなことは見たくない・・・」
おじいさんは深いため息をついていた。謎が解けていたが、正史にはかえって困った問題を抱えることになった。
(トージに何と言ったらいいのか・・・。目の前にいるミーコはトージの探していたミーコじゃない・・・なんて言えない。)
正史はそう考えながら家に帰っていった。