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ミーコとうさぎの執事  作者: 広之新
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第7話 白鳥丘の洋館

 トージはアパートに一人で残されていた。正史からはおとなしく待っているように言われていたが、何もしないわけにもいかなかった。まずはいろんなものが広がった子供部屋の片づけをしていた。


「お嬢様たちは広げっぱなしですな。このトージがいる時はいいですが、これでは将来お困りにあるでしょう。ちょっと小言を言ってお聞かせしなければ・・・」


部屋の中をぴょんぴょん飛び回り、ようやくきれいに片付いた。まだ美湖たちは帰ってこない。


「今日はお天気が良く、洗濯日和なのですけどな・・・」


しかし勝手に洗濯をするわけにもいかない。そんなことをすれば不審に思った奥様に自分のことがばれてしまうだろう。トージはぴょんと机の上に飛び乗った。窓に接しており、そこから外の風景が見て取れた。


「おや。この風景、見たことがある・・・」


トージは記憶を呼び戻そうとした。


「だめだ。はっきりと思い出せない。でもあの丘はたしか・・・」


窓からは白鳥丘が見えた。鬱蒼と木々が茂り森のようになっているが、その土地の様子は確かに知っていた場所だった。


「そうするとここは飯山町? まさか・・・いやそうだ。少し変わってしまっているがそうに違いない。するとあそこに誰か来ておられるかもしれない・・・」


トージはそうつぶやいた。



 聡美が子供たちとアパートに帰ってきた。聡美はどっと疲れが出たようで、台所の椅子に座り込んだ。そして深くため息をついた。

 今日の曾祖母は元気そうだったが、やはりトンチンカンな受け答えをしていた。体の具合もよくないが、認知症も進んでいるようだった。亡くなるのが先か、何もわからなくなるのが先か・・・しかし曾祖母の笑顔だけは最期の時まで続くような気がしていた。

 

 一方。子供たちはそのまま子供部屋に行った。トージのことが気になっていたのだ。ドアを開けると、トージはおもちゃ箱の横でじっとしていた。本物のぬいぐるみのうさぎのように・・・。聡美に不審に思われないようにしていたのだ。


「トージ。もういいよ」


美湖が小さな声で呼んだ。するとトージが動き出した。


「お帰りなさいませ。お嬢様。お兄様」

「留守の間、おとなしくしていた?」

「ええ。少し片づけをしただけですから」


正史の問いかけにトージはどや顔で言った。


「まずいよ。急に片付いたらママが変に思うよ」

「そうなのでございますか?」


その時、聡美の声が聞こえた。


「正史。美湖。ちゃんと手を洗った?」


そして子供部屋にやってくる足音も聞こえた。


「まずい! すぐに広げよう!」


正史と美湖、そしてトージはそこらのものをぶちまけた。


「聞いてる? 手を洗った?」


聡美がドアを開けて子供部屋に顔を出した。その部屋は元のように物が散らかっていた。もちろんトージはおもちゃ箱の横でじっとしている。なんとか間に合った。


「うん。今から洗いに行くよ」

「ちょっと! いつも言っているでしょう。部屋を片付けなさいと」

「わかったよ。手を洗ったらすぐに片付けるよ。」


正史がそう答えると聡美は子供部屋から出て行った。


「ふうっ。危なかった」

「あせったー」


正史と美湖がほっとして座り込んでいた。トージもまた動き出した。


「危のうございましたな。しかし余計なことをして申し訳ありませんでした」


トージが長い耳を曲げて頭を下げた。


「もういいよ。その代わり片づけを手伝ってくれよ」

「もちろんでございます」


 正史とトージは散らかった子供部屋の片づけを始めた。しかし美湖はその辺を走り回るだけだった。


「美湖。遊ぶのだったら向こうに行ってくれよ」

「わかったわ。トージ。片付けをお願いね」

「わかりました」


美湖は子供部屋を飛び出していった。後は正史とトージが続けた。


「おばあさまのご様子はいかがだったのですか?」

「元気だったけど、何か、よくわからないようなんだ。美湖のことをママと間違えたり・・・」

「そうでございましたか」

「そういえば白鳥丘の話が出たなあ」

「白鳥丘!」


トージは思わず大きな声を出した。


「しいっー。大きな声を出すなよ。ママに見つかるぞ」

「これは失礼しました」


トージは長い耳で口を押えた。


「おばあちゃんがその話をしていた。そこからの景色はきれいなんだって」

「お兄様。その白鳥丘というのはこの近くにあるのでございますか?」

「えっ! 窓から見える森がそうだよ」

「そうでございましたか!」


トージは耳を伸ばして飛び上がって喜んだ。ここは知っていた場所だとわかって・・・。


「私はそこに行きたいのです。連れて行ってくださいますか?」

「ダメだよ。ママに危ないから行ってはダメと言われたばかりなんだ。」

「そうでございましたか・・・」


トージは落胆して長い耳を下ろした。


「どうしてそこに行きたいの?」

「実は以前、私とお嬢様はそこで暮らしていたのです」

「えっ! そんなことはないよ。美湖はずっとこの家にいたよ」

「いえ、思い出したのです。そこの洋館にいたのです」


トージはお絵かき帳の絵を見せた。そこにはドームのついた洋館が描かれていた。


「この洋館・・・」


確か秘密基地にした廃墟の洋館に似ていた。しかしそれはかなり前に焼け落ちて人は住んでいないはずだった。


「そこに行けばお嬢様の本当のご家族のことがわかるかもしれません」

「本当って?」

「隠されずともトージにはわかっております。お嬢様の本当のご家族は東京にお住まいでした。私とお嬢様だけが移り住んできたのです」


トージの話は正史には理解できなかった。一体、トージは何のことを言っているのか・・・。だがそんな話を聞いて、正史はあの洋館について興味がわいてきた。


(あの洋館には何かの謎があるのか? これは確かめないと・・・)


正史は優斗と翔太にも相談してみようと思った。


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