第6話 曾祖母の病室
聡美は正史と美湖を連れて曾祖母のお見舞いに来た。正史と美湖は久しぶりに会う大きいおばあちゃんに会うのを楽しみにしていた。
「いい? 大きいおばあちゃんはちょっと最近、物忘れが多いの。びっくりしてはだめよ。大きいおばあちゃんが気にするから」
聡美は2人にそう言わねばならなかった。曾祖母の認知症は進んでいる。時間の観念がなくなり、現在と昔の区別がなくなってきている。それに物忘れも・・・。
「大丈夫だよ。なあ」
「うん。大きいおばあちゃんには変わらないもの」
正史と美湖はそう話していた。
病室に入ると曾祖母がベッドに座っていた。今日は起きているようだった。
「おばあちゃん。こんにちは!」
聡美が声をかけた。
「ああ、よく来てくれたね」
曾祖母は笑顔を向けてうれしそうに言った。
「今日は子供たちを連れてきたわ。さあ、あいさつしなさい」
「大きいおばあちゃん、こんにちは!」
正史と美湖がそう言葉をかけた。曾祖母は一瞬、きょとんとしていたが、ようやく思い出して正史と美湖に言った。
「こんにちは。よく来てくれたねえ。ええっと・・・聡美だったね。もう一人は・・・」
それを聞いて聡美が言った。
「聡美は私。この2人は私の子供で正史と美湖」
「ああ、そうだったねえ・・・そうだったかしら・・・」
曾祖母は首をひねっていた。
「大きいおばあちゃん。折鶴を持ってきたのよ」
美湖が袋から折鶴を出した。これは聡美が折ったものも入っているが、多くは美湖とトージで折り上げた鶴だった。聡美はそれを飾りながら言った。
「千羽鶴というには数がないけど、この子たちが折ったのよ。病気がよくなるようにって」
「そうかい。それはありがとう。おばあちゃんはきっとよくなるからね」
曾祖母は笑顔で正史と美湖の頭を撫でた。その手はしわだらけだったが温かみにあふれていた。
「ミーコが一生懸命折ったのよ!」
「ミーコ・・・」
美恵子は何かを思い出したように眉間にしわを寄せた。聡美が気になって尋ねた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない・・・。気にしなくていいよ」
曾祖母はまた笑顔になった。美湖は楽しそうにつるされた折鶴をツンツンと触っていた。一方、正史はというと・・・聡美のそばでもじもじしていた。彼は人見知りすることがよくあった。
「正史。おばあちゃんに何か言いなさい。恥ずかしがっていないで」
聡美に促されて正史は前に出た。
「正史ちゃん。毎日、元気に遊んでいるのかい?」
曾祖母にそう言われて正史は少しずつ話を始めた。
「うん。ええと・・・近くの丘で遊んでいるんだ。秘密基地を作って・・・」
「丘・・・丘があるのかい?」
また曾祖母がまた怪訝な顔をした。聡美が横から言った。
「白鳥丘よ。でも正史、だめよ。あそこは危ないんだから。前から注意していたでしょ!」
正史は首をすくめた。いらぬことを言って聡美に叱られてしまった・・・。
「白鳥丘ねえ・・・。そこはきれいだったわ。海が見渡せて・・・」
「おばあちゃん。何か欲しい物はない? 持ってきてあげるから」
聡美は曾祖母の話を遮った。白鳥丘の話は聡美が付き添う度に何度も聞かされていた。それは長く、とりとめもなく同じ話が繰り返されるので聡美は辟易していた。
「そうねえ・・・」
曾祖母は首をかしげて、しばらく黙っていた。多分、頭の中でいろんな考えが回り、いやフリーズしたように止まったのかもしれない。
「おばあちゃん。もういいから。それよりミニケーキを持ってきたのよ。一緒に食べましょう」
「そうかい。それはすまなかったね。正史ちゃんも美湖ちゃんも一緒に食べようね」
曾祖母は笑顔でそう言った。