第5話 お絵かき
美湖はトージとおとなしく留守番をしていた。その間に2人で折上げた鶴はかなりの数になっていた。
「もっと折りましょうか?」
「もうあきた」
「では別のことをいたしましょう」
「ミーコ。お絵描きがしたい」
「そういたしましょう」
トージはピョンと飛び上がってお絵かき帳とクレヨンを持ってきた。
「ありがとう」
美湖はお絵かき帳を開いてクレヨンを手に持った。そして何やら描き始めた。
「ミーコはね、いろんなものが描けるんだよ」
トージはその絵をじっと見ていた。黒い服にズボン、白い手に足、そしてピンとしたひげが何本もあって・・・最後に長い耳をかいた。
「できた!」
「これは私ですね」
「そう! トージを描いたの」
「ありがとうございます。お嬢様にこのように描いていただいてトージはうれしいです」
「じゃあ、次ね。」
美湖は紙をめくり、クレヨンで描き始めた。今度は人を何人も描いているようだ。トージはそれをじっと見ていた。
「真ん中にいるのがミーコ。これはママ。そしてお兄ちゃんよ」
だがそれより小さいがまだ他に3人が描かれている。
「他にはどなたがおられるのですか?」
「大きいおばあちゃん、おばあちゃん」
「そうでしたか。もう一人、この方は?」
トージは残りの一人を指さした。すると美湖は少し悲しそうな顔をした。
「パパ・・・いなくなったけど・・・。」
「旦那様でしたか」
「でもママの前ではパパの話をしてはいけないの。ママがつらい顔をするから」
「それは注意いたします。」
トージには美湖が寂しそうに見えた。トージは暗くなった美湖の心を少しでも明るくしようと彼女に提案した。
「今度はトージが描きます」
「えっ! トージも描けるの?」
「もちろんでございます」
トージはクレヨンを手に持って、ささっと絵を描き上げた。
「どうでございますか?」
「すごい!」
そこには丘の上に建つ大きな洋館だった。日の光を浴びて美しく輝いている・・・そんな風に見えた。
「きれいな家ね」
「ええ、お嬢様が以前にお暮しになっていた洋館です」
「ミーコが?」
「ええ」
「どこにあるの?」
「さあ、このトージにもわかりません。思い出せなくて」
トージはそう言って首をひねって長い耳を振っていた。
「じゃあ、もっと描こうよ。思い出すかもしれないから」
「そうでございますね」
それからトージはお絵かき帳にいろんな絵を描いていった。そこには浜や古い町並みが描かれていた。それを美湖はおもしろそうに見ていた。