第11話 思い出した記憶
トージはまだ洋館の部屋で泣き続けていた。するとさらに記憶がよみがえってきた。あれは戦争の真っただ中、この別荘の洋館にお嬢様と疎開してきた頃のことだった。
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石神家は東京にある裕福な家だった。旦那様と奥様、そして長男と次男と長女、そして年の離れた末娘の美恵子の6人家族だった。そこはみな仲が良くて、幸せで明るい家庭だった。トージはその家の執事として若いころから仕えていた。
だがその幸せは続かなかった。戦争がこの家にも暗い影を落としていた。東京は毎日のように爆弾が落とされ、あちらこちらが火に包まれていた。上の兄弟や姉はもう大きくなっていたが、美恵子はまだ5歳だった。この東京に子供がいたら危ないと、旦那様が美恵子を別荘のあるこの土地に疎開させ、その世話役としてトージが付けられたのだ。
家族と別れて一人きり、美恵子は悲しそうに泣いていた。
「お父様、お母様、お兄様、お姉様・・・・ミーコは一人きり・・・。」
トージはお嬢様を慰め、さびしくないように懸命に尽くした。暇を見つけては一緒に折り紙やあやとり、お絵かきをして遊んだ。昼間の天気のいい時はこの周辺を2人で散歩した。丘に登ったり、浜を歩いたりもした。なかなかいい材料が手に入らない中、お嬢様のためにおいしい料理を作った。眠るときは絵本を読み聞かせをした。お嬢様が喜ぶ姿がトージにとって何より幸せだった。苦しい時代ではあったが毎日が楽しかった。だが・・・。
戦争の黒い影はここでも二人に忍び寄っていた。ある時、夜中に空襲警報が鳴り響いたのだ。飛び起きたトージはお嬢様の部屋にすぐに行った。
「お嬢様。空襲警報です。防空壕に逃げましょう」
そしてまだ寝ているお嬢様を抱きかかえて、洋館を飛び出して庭の防空壕に避難した。すると目を覚ましたお嬢様が言った。
「ミーちゃんがいない。ミーちゃんも助けて!」」
ベッドにうさぎのぬいぐるみを置いてきたのだ。それはお嬢様が一番大事にしていたものだった。
「私が取って参ります。お嬢様はここを動かないでください」
トージはお嬢様を防空壕に残して洋館に戻っていった。辺りは爆弾を落とされ火の海になっていた。トージはお嬢様の部屋のぬいぐるみを抱きかかえると外に出ようとした。しかし洋館の中も火が回り、廊下は煙で真っ白になっていた。トージは口を押えて出口を求めてその中を進んだが、すぐに煙に巻かれてしまった。
「お嬢様・・・お嬢様・・・」
そうあえぎながらトージは全身の力が抜けていくのを感じた。その手からはぬいぐるみがこぼれ落ちて床に転がった。そしてトージはバタンと倒れてしばらく悶えていたが、とうとう動かなくなってしまった。
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それをトージははっきりと思い出してしまった。あの火に包まれた光景と不安そうなお嬢様の姿が彼の脳裏に浮かんでいるのだ。防空壕に残したお嬢様はどうしたのだろう・・・それがトージには気がかりだった。いや、心配でたまらないのだった。
「お嬢様・・・お嬢様・・・」
トージは立ち上がり、お嬢様を探しに行くため洋館の外に出てふらふらと夜の町をさまよい始めた。




