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5.オフィーリア

 1年前のネタなのに何故……。諸般のシリアスを早期回避するために、水から離れるまで連投します。しかも前話の投稿時にJアラートとか……。本作冒頭が日本海なのはもちろん人魚伝説のためですよ。







【夢メモ】

オフィーリア

 『ハムレット』に出てくる、複雑な理由で溺死した女性。着衣で早期に発見。成瀬川土左衛門のさきがけ。背泳ぎするのはびじゅチューン!





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「それにしても、娘に呪いをかけるとかどういう親だっていうのさ。とりあえず髪が黒いのが、闇に覆われし暗黒の呪いだっけ? なんか昔のうちの息子みたいだな。」


 進んで呪いを増やした自分を棚に上げながら、真鈴は腰まで伸びた黒髪を掴んだ。


「で、週に一度……土曜日に、日の出から日没まで退化する呪い? 退化って何さ。小魚……じゃなくて緑の鯉に戻るとか?? いや、陸にいる時に鯉に戻ったら私死ぬよね?! ふざけた呪いじゃなくて死ぬ呪いだったなんて……」


 真鈴は短気を起こして呪いを増やしたことを、すでに後悔し始めていた。


「退化し続けて泡になるってことは、徐々になの? 今の状態から戻るっていうと、脚が鱗で足がヒレの半魚人から、腰から下が魚の人魚、で鯉、じゃなくて人面魚だっけ? 外で呼吸ができたのはいつからだったか……。そもそもヒレじゃ歩けないし!」


 いい年してハイハイは御免だった。それ以前に、前世を思い出した真鈴はもう、生魚を頭から食べたり藻を食べたりするのは無理だった。


「大体泡になるって何?! 人魚姫かっていうの! それとも本当の人魚姫みたいに泡から風の精に転生するとか?? ……はぁ。で……呪いが解ければ進化するってことは、また人間状態に戻れるってことなのかな??」


 言葉を思い出してから独り言が止まらない真鈴であった。


「で、解呪には愛を得ればいいって? 真の呪いはハグしただけで解けたし、愛を得るっていっても抽象的すぎるよな〜。うーん、人魚姫だと結婚しないと水の泡になるって話だったよね。アニメ映画だとキスできればOKっていう解りやすい設定だった気がする。」


 うろうろ歩きながら必死で色々思い出す真鈴であった。


「そういえばさっき真に抱きしめられたし、もしかしたらもう解けてるかも??」


 呪いが解けているかどうか確かめるには、土曜日を待つしかなかった。今日が何曜日かも分からないが。





∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝





「解けてないし! 馬鹿真! 姉への愛はどうしたよ!?」


 真鈴は半魚人状態になっていた。ただし足はヒレではなくて鱗に覆われた足だった。髪は金で肺呼吸もできる。全くの逆戻りではないようだった。


「とりあえず移動したいけど。」


 解呪のためにはどこかヒトのいるところへ移動するしか方法はないのだ。この16年で真たちの他に、ここに立ち入ったヒトはいないのだから。


「人魚姫だったら海で溺れた王子様を助けるんだったっけ? で、王子は助けた人魚じゃなくて隣国の姫と結婚して、人魚は泡になっちゃう、と……。三角関係かぁ。」


 真鈴はとりあえず、川から海に出ることにしたが、近くに川はなかった。


「エラ呼吸で歌えない人魚と人魚姫は違うだろうけど……悩んでてもしょうがないし、それっぽい方針でとりあえず行ってみよう! 当面は土曜でもしゃべれるみたいだし、むしろ楽勝じゃない?」


 半魚人状態のまま、真鈴はいつもの散策より遠くへ歩き始めた。生まれた沼の周りは鬱蒼とした森で、ところどころに低木の生えた開けた場所があり、大小の湖沼が点在していた。

 

 ウロコが乾くと水に浸かり、また歩き始める。長時間陸にいるとウロコが痛むのだ。


「土曜日は水辺にいないと、身バレ以前に自分が痛くて辛いな……」






 日が沈み足のウロコが消える頃、真鈴は川にたどり着く。


「明るくなったらこの川を下って、海に出られるか試してみよう! それで王子を助けて、婚約者の王女から略奪愛よ! やればできる!」


 川べりの茂みの中に身を隠しながら、真鈴はぐっすりと眠りについた。





「よし、行ってみよう! ……って冷たっ!」


 陽当たりがよく流れのない沼と違って、小川と言っていいような川であっても水は冷たかった。今の真鈴は変温動物というわけではないが、少しでも陽に当たりながらの方が耐えられた。


 結果、潜らず背泳ぎすることとした。前世の真鈴は遠泳も得意であったが、疲れて目をつぶり仰向けで流されていく様は、まるでオフィーリアのよう、……ではなく水死体のようだった。全裸なので。





 軽くバタ足をしながら気持ちよく流されていた真鈴がふと目を開くと、視界の端を木々に隠れた巨大建造物が流れていった。


「え? 今のまさかお城? 海辺じゃなくてこんな森の中に??」


 慌てた真鈴が頭を上げると足は当然下にさがるわけで、浮力を失い流されながらも、立ち泳ぎで水から顔を出し続ける。


「戻るべきか進むべきか、それが問題……じゃなくて戻れない?! いつの間にか川幅がっ! え……合流?」


 始めは小川のようだった川は、実はいくつかの城を通過しながら、今まさに大河川に合流するところであった。


「あぁ、お城がっ! 王子様がぁ〜!!」


 ヒレもない真鈴の泳力では逆行することもできず、一級河川と思しき流れへ身をゆだねていくのだった。






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【夢メモ】

人魚姫

 人魚の王の娘の一人。海で溺れた人の王子に一目惚れ。アンデルさん版は失恋して海に投身。人魚には魂がないので死ぬと泡になるが、姫は風の精に転生。ウォルトさん版はハッピーエンド。


山東京伝 

 土左衛門の出典元の作者。小澤が『バードの歌』5を執筆時、浦島太郎×人魚ありじゃない? と思った時にはもう『箱入娘面屋人魚』を書いていた戯作者。インスパイア舐めは……ある?



2022.10.5 初稿

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