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《精霊術師》レインの旅  作者: 楔夜五剣
《旅の始まり》編
18/18

018

 俺達はとりあえず、状況報告と今後についての話をするためにギルドで部屋を借りていた。

 今この部屋にいるのはパーティメンバーとシルフィリアさんだけだ。


「レイン!? 本当にレインなのかっ!!?」


「幽霊でもなく、本物です」


「ま、まさか、本当に生きて帰ってくるとは……」


「ええ、驚異的な生命力ね。将来大物になるのかも……」


「そ、そうですね。流石に私も腰が抜けそうです。夢を見ているようですもの」


 とまぁ、感動の再会になるかと思いきや、ロイさん以外は化け物や幽霊を見ているような目でこちらを見てくるのである。正直言ってがっかりだった。


「そういうことなので、宝物庫から持ってきた物を山分けしましょう」


 とは言っても、殆ど宝物の分配は決まっているようなものだった。

 ロイさんには剣、カイルさんには盾、イレーナさん、ユリシアさんには杖を一本ずつ、そして、俺が宝箱の中身を全てもらえるということになった。


「……って、何でレインが報酬の分配を決めてるのよ。ダンジョンボスを倒したアイゼナッハさんが報酬全取りが普通でしょう?」


「あっ、違う違う。報告にあった《ミノタウロスキング》を倒したのはレインくんとその契約精霊のティナさんだよ。だから、私は何もしてないよ」


『…………って、ええっ!!?』


 この瞬間、俺はミスをしたと思った。

 もしこの話が外部に漏れれば、俺が変な風に目立つことは必定、そうなれば、面倒臭いことになるのはまず間違いない。

 シルフィリアさんに色々根回ししておけば良かったのだ。


「じゃ、じゃあ、レインは黒等級冒険者と同じぐらいの強さってこと!?」


「い、いやいや!殆どティナの手柄ですよ!俺は時間を少し稼いだだけで、すぐにやられちゃいましたから」


 俺はすぐにティナの方が力を持っているという旨を皆に伝える。というか、そもそもそれが事実なのだ。


「いや、それでもすごいよ。君はティナさんにその力をいつでも貸してもらえるんだから、それは君の戦力と言ってもいい」


「まぁ、そんな話はいいじゃないですか。そういうわけなので、報酬は遠慮なく受け取ってください。あそこまで攻略できたのは皆さんのお陰ですから。それと――」


 俺は王都に帰ってくるまでにあることを既に決めていた。

 俺が今まで働いていた理由は村に帰っても生活に困らないだけの資金を用意するという目的があったからだ。

 そして、今、その目的が達成されようとしている。それに加えて、今回俺は一度死にかけた。これ以上リスクのある仕事をやる必要もないし、何より死ぬのが怖いのだ。


「今回の依頼限りで、冒険者を辞めようと思ってるんです」


 だから、俺はパーティメンバーとの別れを切り出す。


「……そうだね。確かに僕達は今回の依頼で莫大な報酬を得る。そうなれば、君に戦う理由はなくなるのかもしれない。だけど――」


「俺、《ミノタウロスキング》に腕を落とされたんです」


『……ッ!?』


 パーティの皆が一斉に息を呑むのが分かる。

 この時、既に聡明なロイさんは俺を引き止めることはできないと理解しただろう。


「あの時は何とか精霊術で繋げたんですけど、上手く避けなければ、下半身がなくなっているところでした。もう単純に怖くなっちゃったのかもしれません。だから、ごめんなさい。今日限りで皆さんとはお別れです。短い間でしたが、今までありがとうございました。じゃあ、俺は詳しい報告をしなければならないので、失礼します」


 こうして、俺は皆がいる部屋を後にした。一回も部屋を振り返ることはなかった。




『あれで良かったのか?』


 ギルドで報告を済ませた後、俺はすぐに大きな商会に向かった。宝箱の中身を売るためである。

 その道中で、ティナが話しかけてきたのである。


「流石にもうあんな危ないことはできないだろう?もう腕を切り落とされるのは御免だよ」


『……それでは明日にでも、王都を出るのか?』


「元々、お前の言ったことがきっかけだったが、もう問題は解決していて、どうしようもないだろう。お前さえ良ければ、もう帰るつもりだよ。何かやり残したことがあるなら言ってくれ」


『いや、特にない。悪か――』


 と、ティナがそこまで口にしたところで、大きな声が辺り一帯に響き渡った。


「きゃあああっっ!!?だ、誰か早く来てぇぇ!!!」


 俺は驚いて、咄嗟に動けなかったが、すぐにティナが声をかけてくれた。


「おい、こっちだ!」


 いつの間にか人間の姿になったのか、ティナは俺の手を引いて、声のした方に走り出す。

 何かを感じ取ったのだろうか。


 そして、俺達が現場と思われる場所に着くと、そこには尻もちをつき、口に手を当てて、驚愕に目を見開く女性がいた。

 女性は路地裏を見ていて、そこに何かがあるらしかった。


 俺達が路地裏に目を向けると、そこには果たして――


「こ、これは!?」


 人が倒れていた。それも俺の知り合いなのである。


「駄目だ。完全に生き絶えてる。誰か衛兵か騎士を呼んできてくれ」


 ティナが手慣れたように倒れている人の生死を確認し、周りの人に指示を出す。

 いや、そんなことよりも、だ。

 俺の知り合い――アラル・エレルメルトさんが死んでいるという強烈な事実が俺の頭の中を支配していた。


「レイン、少し顔を近づけろ」


「あ、ああ……」


 そして、ティナは驚愕の事実を口にした。


「このお前に似た霊力の痕跡からすると、《精霊術師》、それもエレルメルトの手の者の犯行かもしれん」


 瞬間、頭に血が上っていくのが分かった。

 しかし、恐らく、ティナはアラルさんがエレルメルト家の人間であると知らない。だから、今はそのことを踏まえて、ティナに冷静に判断してもらうべきだ、という理性が頭を冷静にさせた。


「ティナ、一応アラルさんもエレルメルト家の人間なんだ。ほら、少し前に話しただろ、浴場で偶然会ったって」


「被害者がお前の言っていたアラル・エレルメルトだとは気づいていなかったが、ここに残された霊力は二種類ある。その両方がエレルメルトのものだから、私の予想は多分間違っていない」


 こんな臭い事件を置いて、のこのこ村に帰るわけには行かない。

 村への帰還がまた遠のいたが、アラルさんの仇を討たなければ、俺の溜飲は下がりそうもない。


「……これ、騎士団や衛兵に任せておけるか? 母さんの生前親しかった人を殺ったんだ。お前も許しておけないだろう。それに、何か嫌な予感がする」


「ああ、私もこいつには何処となく見覚えがあるし、こんなきな臭い事件を放ってはおけない。お前の言う通り、何かが動いているのかもしれない」


 ティナは深いところまで思考を巡らせていたようで、その後、衛兵が到着するまで一言も喋ることはなかった。


 俺は頭脳労働をティナに任せて、衛兵に被害者の身元説明と状況説明を行った。

 身元説明と言っても、俺が知っているのは名前だけのだが、数年前まで貴族の一員だった男の家族を見つけるのは容易いだろう。


「状況は分かりました。後はこちらで処理をしますので、お帰り頂いて結構です。ご協力感謝します」


 それだけ言って、衛兵はアラルさんの死体を回収して去って行った。


「どうだ? 何かしらの策は思いついたか?」


 俺はここまでずっと思案顔だったティナを小突いて、意識を切り替えてもらう。


「まずは、その大きな荷物を売ってしまおう。何をするにしても金は重要だ。その後はシルフィリアのコネで、牢獄にぶち込まれているエレルメルトのジジイ共と面会する」


 確かに差し当たって、何処にいるのか分かっていて、何かを知っていそうなのは現在投獄中のエレルメルト家の人間だろう。

 しかし、それにしても、シルフィリアさんは何者なのだろうか。ティナの話を信じるならば、ただの黒等級冒険者どころか、かなりの大物ということになりそうだ。


「これで何かしらの情報が得られなければ、かなり厳しいことになりそうだが、まずは当たってみるしかあるまい」


「そうだな。それじゃあ、とりあえずこれを売ってくるか。ずっと持ってるのは邪魔だし」


 というわけで、俺達は現場を離れ、向かうはずだったオズワルド商会のある方向へ向かった。

 心の中に密かに燃えたぎる復讐の炎を抱えて――

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