9.突然の拘束!そして連行!私は無実です!
「そこの一年生、何をしている」
誰もいないと思っていた空き教室で、突然声を掛けられた私は飛び上がるほど驚いた。
「ひゃいっ! いえ、ととと特に何も?」
びっくりした!
椅子から5㎝くらい尻が浮いた!!
脳内の妄想口に出してないからセーフだよね!?!?!?
ぷちストーキングはしてるけど、犯罪レベルの行為まではしてないし! 盗聴とか、盗撮とか、盗難とかっ!!??? てか、この国の刑罰ってどうなってたっけ???
それにまだヒロインには指一本触れてませんしっ!!!!
ちゃんと出会ってもいないしっ!!
恐る恐る振り返ると、そこには先ほどの声の主、火の攻略者:インテリ眼鏡のユージン・メイナードがいた。
げえっ!! 何でここに!?
終令の鐘さっき鳴ったばっかりなのに早すぎないですか??
ワープした?? あれ、そういう魔法ってあったっけ???
そして教室の出入り口には水の攻略者:優しい筋肉騎士のロイド = イーズデイルもいる。
ええ?? なんでなんで?? ヒロインのお相手候補が勢ぞろい??
なにこれ新しいイベント??
窓際に立ち、混乱でフリーズする私にユージンが一歩ずつ距離を詰めた。
まじこれファーストコンタクトなんですけど。
「クラスと名前を名乗れ」
何これこわい。尋問??
「…1ーB ロゼッタ・イオリスです」
雰囲気に気圧されて、聞かれたとおりに名を名乗る。
ちらりと扉を見ればロイドはそのまま動かずに出口をやんわりと塞いでいた。長い脚を有効に活用してらっしゃいますね、いいですね。
いやまって。アレもしかして逃亡防止???
私、逃げたくなるようなことをこれからされちゃうの??
畏れと警戒心が顔に出ていたのか、ロイドと目が合うと彼は少しだけ申し訳なさそうに笑った。
……力づくでどうこうするつもりはないのかな…。だといいけど。
扉が開いたままなのが唯一の救い。密室にされたらさすがに私だって怖い。彼らが紳士で良かった。
「この教室で何をしていた」
いや、こっちはそんな感じではなかったわ。
ユージンにキツめの口調で問われる。
何を、ってそりゃストーキングしてましたけど、そんなの正直に話すわけないじゃないですか。
「えっと、え~…、そ、空を見ていました。天気がよいので」
我ながら説得力のないコメントだ。
もちろんあちらさんもちっとも納得した顔をしていない。
ちょっと待ってね、いま考えるから。
「…正直に言え。最近いたる所で不審な行動をしているな」
不審な行動??? なにそれ、してませんけど? ていうか目が怖い。
「不審な行動とは何のことでしょう」
今まさに絶賛びくつき中なんですけれどもこれは貴方のせいであって、私の意思ではないですよ。
「しらばっくれるな。最近の小さな衝突や事件の現場にいつもお前がいる。何が目的だ」
あ~そうきたか。ええ、いましたよそりゃ。
落としたハンカチを拾ったり、図書室の本を代わりに取ってあげたり、階段で落ちそうになったり?? 全部大事なイベントですから。
でも私は『それ』が起こることを『知っている』だけ、で事件を起こしているわけじゃない。犯人みたいな扱いをされても困る。言いがかりだ。
「なんのことをおっしゃっているのか分かりません。事件とはこの間のマーケットの事でしょうか?」
事件らしい事件なんて、この間の大釜事件くらいしか思いつかない。
いやあれも十分大事件だったけれど。
「しらを切るつもりか」
そう言ってユージンは腕を組んで私の前に立ちふさがり、プレッシャーを掛ける。背が高いので小柄な私は見下ろされる体勢を取らざるを得なくってまじで圧が半端ない。
あたりまえだけれど、登場キャラクターはみんな背が高くてスタイルが良くていいですね。ロゼッタは妹キャラなので、ほんのり小さくて小柄だよね。
そしてさすが当ゲームの人気ナンバー2。クールで冷徹、外見は彫像のように麗しいインテリ眼鏡様。睫毛ばしばしの切れ長の深紅の瞳、キツイ表情がハマりますね! 美人さんですね! 親密度が上がるとこのキリッとしたまなじりが下がっていくのが萌えるっていうファンの気持ちはすごくよく分かるよ!!
むむむ、でもなんていうかこの「聞く耳もたん」って感じすごくイヤ。
「しらを切るだなんて…」
そんな言い方なくない? 初対面だし、私、一応伯爵令嬢ですよ?
普通の令嬢だったらビビって泣くよ?
警察でもないくせに偉そうだし、はなから犯罪者みたいな扱いはどうかと思う。こちとら入学してまだ一ヶ月とちょこっとの新入生やぞ。
「そもそもわたくし、貴方のことを存じ上げません。…どなたですか」
「…俺はこの学園の副会長をしているユージンだ」
そういえばそうでしたね! 知ってるけどね!
こちらだけ名乗らされるのはしゃくだもんね! でも名前を名乗らないのは失礼になりますからね、こちらからもちゃんと聞いて差し上げたんですのよ。感謝なさってくださいね。
ちらりと扉の辺りで待機しているロイドを盗み見ると微妙な顔をしていた。
ていうかこの絵面、騎士道精神に反してませんか??
この小柄で非力な私を立派な体格の先輩が二人がかりで囲むとか普通にいじめでは? 身分もあちらの方が上だし、ちょっと普通じゃないと思いますがいかがか。
ロイドは清く正しく美しく、じゃない優しくがモットーの脳筋の騎士様で、こういうのは嫌いだったはずなのに。
ていうかこの状況、そもそももはや完全に詰んだし。逃げられないし、逃げたところですぐに捕まるし、リーチの差もありすぎるでしょ! 私の手足の短さを舐めないでほしい。
でもね、簡単には屈しないぞ。
「先輩はわたくしにどんな答えを期待しているのでしょうか?」
「何?」
ユージンの眉が寄る。
そのケンカ買ってあげる。
「わたくしは、先輩がわたくしに期待する答えを知らないので、どう答えても納得できる答えではないかと」
「何だと?」
「だって、あなたは最初からわたくしが何か不穏な事を目的にしているのだと思っているじゃありませんか。まずはこの状況が既にフェアじゃないです」
「む…」
「二言目には『白状しろ』とばかり。わたくしに何を白状させるつもりですか?」
要人暗殺か、はたまた国家転覆か?
平和な学園で、身元もしっかりしている貴族の小娘がたった一人でそんなことを起こすわけがない。
「わたくしは何もしてないし、悪事を働くつもりもございません。証拠の提示もありませんし、これじゃあただの言いがかりです。先輩は新入生イジメがご趣味なんですか?」
犯人の自供しかないのは冤罪の可能性もあるんだからね!
って、高校生相手にちょっと大人げなかったかしら。
なんせ中身はアラサーなので、子供相手に口喧嘩では負けないよ。
「お前…」
少しつつけば泣いて白状するとでも思っていたのか、堂々と私が吐き出す嫌味にユージンがひるむ。へへん、爪痕残してやったぜ。
「ごもっとも。ユージン、君の負けだね」
突然知らない声が空き教室に響いた。
いいや嘘、よく知っている声。
シャインクリスタルのゲームをプレイしていてこの声を知らない訳がない。
タイトルコールで何度も聞いたもの。
「アルフレート!? 何でお前っ」
声の主がひょっこりとロイドの脇を抜けて空き教室に入ってくる。
私もびっくりしたけど、ユージンも驚いている。
「やあ、はじめまして。私は生徒会長のアルフレートです。こんな空き部屋で立ち話もなんだし、続きは生徒会室で話そうか」
そう言って彼、アルフレート・オウノ・アーデルハイトはにっこりと笑った。
当ゲーム『シャインクリスタル』のゲームのパッケージのセンターをつとめる本物の王子様だ。笑顔がキラキラしている。金髪碧眼、物腰柔らか。本物だ。
なんで!?
突然の展開に脳が現実を処理できない。
え、まじでこれ何のイベント?????
さっきまでもトゲトゲつんつんしていた空気が一瞬で消えた。
「お前が出てきたら意味がないだろうっ」
ユージン先輩にとっても王子の登場は予想外だったのか、鉄面皮が崩れている。
やったね! 珍しいもの見られた~!
ていうか、ケンカは私の勝ちでいいのかな? いや負けかな? 乱入バトルで王子様が一人勝ちかな。
「なぜ? 彼女が危険人物には見えないし、もういいだろう?」
「それはっ…」
「私は彼女を味方に引き入れたいと言ったのに、こんな風にケンカを吹っかけたりしたらだめじゃないか」
はて、今なんか変な言葉が聞こえた。味方とは?
怪訝な顔をする私に王子様はにっこりと笑う。
「ひとまず場所を変えて話そう」
そう言って優雅に手を差し伸べられた。
お手?
んえ?あれ違うね。エスコートだね?
え、これ手を乗せないとだめなパターン?? ここはダンスホールじゃないけど??? あれ? 貴族社会的に王子様からのお誘い断れなくない??
有無を言わせぬこの笑顔のプレッシャー。
メリョスは政治が分からぬ。私も常識が分からぬ。
おそるおそる彼の手に右手を重ねると、そのままがっしりと手首を捕まれた。
ぎゃっ、やっぱり罠じゃん!!
力を込められていないので痛くはないけれど、この拘束は振り解けない。
「………」
言葉が出ない。
チラリとアルフレートを見上げると完璧な笑顔で返された。
ロイヤルスマイル~!! 完璧すぎて内心がさっぱり読めません!!!
何がどうなってこれなの。意味が分からない。
私をどうこうするには戦力持ち込みすぎでは? 完全にオーバーキル!!
にこにこと上機嫌なアルフレート殿下に右手を拘束された私は、まるで後ろに助さん(ユージン)、格さん(ロイド)を従えた水戸の黄門様よろしくそのまま生徒会室へ連行された。
うそでしょつらい。
イケメンに囲まれているのにちっとも嬉しくない。
すれ違う生徒たちの視線が刺さってとても痛いデス。
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