7.恋のお守り
ちょっと読みにくかったので、6話と7話、分けました。
すみません。多少加筆はありますが、ストーリーは同じです。
さて、本日のメインイベントはこれからです。
小さな細かいイベントはけっこう忘れてしまっている私ですけれど、このイベントはしっかりバッチリ覚えています。
ズバリ!
【この時期に一番好感度が高いキャラがヒロインを助けてくれるイベント】です!!
今までたぶん、とかおそらく…って言っていた推測がようやくはっきりしますね。
私はこのマーケットをひっそりとあまり目立たずに、広範囲を観測できる一番良い席をゲット済みです。丸いテーブルに背もたれのある丸い椅子。いい感じのパラソルが日除けになってちょうどいい。
ちゃんと昨日のうちに位置関係など下調べは完了しているのです。さっきも一周してきたしね。テントの配置とかがちょこっと予想と違ったりしたけれど想定の範囲内。
スチルで見た背景の建物や空の角度とかを頼りにしたけどできるものね!
いわゆる聖地巡礼っていうか、ガチゲーマーの根性ここに見せたり~!
あっ、ごめんね、引かないで。
私は先ほど買ったサンドイッチを頬張りながらこっそり人間観察を開始した。
大丈夫、カモフラージュに文庫本を持ってきたのでぱっと見おかしなところはない。
今日は土曜日だし、明日は日曜でお休みだし、気分は晴れやか。
続々と生徒がやってきてはマーケットが賑やかになっていく。
マーケットで食料を買って食べる人、学食で昼食を取ってから来る人、それぞれだ。
なんせ月に一度のお買い物だからね。
あ、来た。
庶民のヒロイン、キャロル・クルック。
いいかげん庶民とかフルネームとか面倒なのでキャロル先輩と呼ぼう。
いつボロが出るかも分からないし。普段からちゃんと呼び慣れておかないとね。
キャロル先輩はシルヴィ君のお店にやってきて、彼が制服を着ているのに驚いている様子。
わかる~。
ずっと「あの店番をしている人の息子さんかな?それにしては似てないな」みたいな風に思っていたんだから驚いて当然。
本当はお店の店主はシルヴィ君で、あの店番の人はその従業員なんだけど、その辺の情報はシルヴィ君ルートに入らないと解放されない情報だったりする。
ヒロイン達との出会いによって魔道具の試験運用しか興味が無かったシルヴィ君が、『学校』に興味を持ち、特例で入学したっていう裏設定がある。そもそもシルヴィ君は魔力も知識もすでに王宮に務められるレベルなので、わざわざ学校で学ぶ必要はないんだけれど、ほら体験とか経験? 年齢的にも集団生活とか、お友達とかも大事だし、得意の発明にもインスピレーションが大事だもんね。
つまりこれはストーリーの固定のイベントなのです!
キャロル先輩が今回は先に来たけれど、たぶん後からナターリア先輩も来るはず。
なんたって、シルヴィ君は可愛いけれどれっきとした乙女ゲームの公式恋愛攻略者(ショタ枠)だからね!
もちろん私はシルヴィ君ルートもちゃんとクリアしましたよ!
あのキラキラふわふわしたシルヴィ君が魔道具のことや、発明に関した事案には目の色を変えて取り組んじゃったりするとこがまたギャップがまたいいんだよね~。
…まあ、シルヴィ君ルートでもお兄様は見事にフラれるんですけどね。
ちゃんとオリジナルのシナリオでね…。福利厚生手厚いですよね~。
はい、そこまで。
意識を切り替えていこう。
ちょうど二人は『あらためてはじめまして』って感じに挨拶を交わしているところ。
シルヴィ君はキャロル先輩にも私にくれたものと同じ【恋のお守り】を渡した。
これですよ、これ!
あの【恋のお守り】が良い仕事をするんです!
しばらくしてナターリア先輩もやってきて、キャロル先輩と同じ様にシルヴィ君との固定の出会いイベントでひとしきり驚いては【恋のお守り】をもらっていた
よしよし!
さあ準備は整った。
あとはアレが発生するのを待つのみ。
キャロル先輩もナターリア先輩もそのままマーケットを回っては買い物を楽しんでいる。大丈夫です。二人の居場所はきっちりとマークできています。
いつでも来い。
「大変だ! 大鍋が暴走した!!!」
キタ!!
何で鍋? 意味わからん??? って思った??
大丈夫!! ここは魔法がある世界なのです!
鍋は暴走するものです!!
声が上がった方向から、熱々のビーフシチューを煮込んでいた(っぽい)大鍋が物凄いスピードで空を飛んで来る。
熱々のビーフシチューが空から降ってくるなんてそら大事件だ。熱いし、火傷するし、制服に付いたらシミになる。あちこちで「熱い!」「あっちい!!」と声が上がる。
ちなみに私は、そのエリアからは離れているので無事です。
「何だ!?」
「鍋が暴走!?」
「誰の鍋だ!??」
人々の疑問を完全スルーして(鍋だからね)空飛ぶ大鍋は広場の中央あたりにシチューをぶち撒け、地面を削り轟音と共に着陸した。
鍋って、こんなとんでもない登場の仕方するんだ…。
しん…と静まる人並み。
もうもうと舞い上がった土煙とシチューの蒸気で大鍋が霞む。
ゴリゴリに地面を削り、一度は静止したかに見えた鍋が再びぶるぶると震え出した。
「おい…」「これヤバいんじゃ…」
鍋を囲んでいた人並みがじりじりと後退する。
そうです、ヤバいんです。
「逃げろ!」
「防御魔法を張れ!」
「圧縮魔法が解けるぞ!!」
ワッと人の波が逃げ惑う。
ぶれにぶれ、左右の輪郭の境が分からないほどに荒ぶる大鍋。
ビキリッと耳障りな何かが壊れる音の一拍後、
もの凄い音を立てて鍋が爆発した。
大鍋の中からおびただしい数の小鍋が熱々のシチューをまとわりつかせて四方八方に飛び散る。
「「危ない!!」」
身を伏せる者、防御魔法を張る者、逃げ遅れて転ぶ者三者三様。
小鍋が出店のテントを突き破り、校舎の壁や樹木に物凄い勢いでめり込んでいく。
そんな中、私は身を伏せつつも二人のヒロインを注視していた。
其の1
キャロルを腕の中に庇い、身を挺して小鍋の直撃を避ける、優しい水の筋肉騎士、ロイド = イーズデイル。
其の2
ナターリアを背に庇い、前方に強固な防御魔法を展開し小鍋の直撃を避ける、火のインテリ眼鏡、ユージン・メイナード。
見た!!!
見たぞ!!!
両者出揃いました!!!
あ~~~!!
やっぱりか~~~~!!!
『結界!!』
遠くでシルヴィ君が魔力で編んだ光の網(魔道具)を展開して暴れる鍋を地面に縫い付けているのが見えた。
ひゅ~!! シルヴィ君かっこいい~~!!! 魔道具のエキスパートだけある~!!
彼のルートだったらこの場で彼に助けてもらっちゃうんだよな~!
ていうのはまた今度!
ややや、やっぱり~!
ナターリアはやっぱりユージンルートで、キャロルはロイドルートでしたか!
いや、一回だけ校内でキャロルとロイドがベンチで座っておやつを食べているのを見たことあったのだけど、それ一回きりだったので確証は持てなかったんだよね。
てか、ロイドか~~!!
水の攻略者で優しいとか、お兄様とかぶる~~!!(被らない)
うーん、私ロイドも好きだったんだよなー!!
嫌味が無くてすごくいい人だからさー!! 脳筋気味だけれど誠実で優しいし、騎士だけど横暴じゃないし、キャロルとロイドとかすっごくお似合いじゃん! 癒し系の仲間?みたいな。
私はたった今ゲットした新情報を猛烈な勢いでメモしていく。
ていうかスチルと一緒だ!!スチルと一緒だ!!
私に絵の才能があったのなら、このあの光景を写し取りたい!!本音はスマホが欲しい!!
キャロルもナターリアも好意を持った相手に、助けられていい雰囲気出してます~。
いや、ベタだけどやっぱり守ってもらうのは嬉しいよね、女子として。
わかるよ。
「大丈夫か」「はい」「助けてくれてありがとう」「いや、君に怪我が無くてよかった」みたいなやつ。ベタだけど素敵。キュンと来ちゃう!
騒ぎを完全に無視し、高速でペンを走らせる私の側を大鍋の暴走事故の処理の為、教師や警備員の方々が通り過ぎていく。
校内で起こった事故がどれだけ不思議でギャグっぽくても事故は事故。
熱々の熱鍋が直撃したらとんでもなく危険だものね。
でも幸いここは魔法学園。それぞれが身を護る術を持っている。
入学する前からこういう事故が発生するかもしれない説明は受けているし、各人が身を護る術を持っている。シルヴィ君が魔道具の試験運用として学園を選んだのも、そういうトコが理由だったりする。
幸い、この事故で大怪我を負った人はいないみたい。良かった。
ていうか、…これ、お兄様の割り込む隙あるか…??
この場にいない時点ですでに地味にランク外通知なんだが…??
ヒロインのピンチに駆けつけてこそヒーローなんだけど、お兄様の『幸運』もまだまだ運命の赤い糸を引き摺り寄せるにはパワーが足りないのかな…。
周りのざわつきもだんだん耳に入らなくなってきた。
大鍋の中に複数の小鍋をしまうという空間圧縮魔法の実験でつかっていた鍋を、うっかりマーケットで煮炊きする調理器具として使ってしまったことによるものだとかなんとか…。
うーん、キャロルのロイドルートはどんなんだったかしら…。
悪質な邪魔とかはしたくないけれど、ナターリアのユージンルートと併せて、お兄様の行動パターンとすり合わせをして新たに対策を練らないと…。
ストーリーの記憶を探る。
クリアはしたけれど、ヒロインによってちょっと展開が違うし、メインの推しでは無いのでそんなに細かに覚えていないのだ。
このゲームが金太郎飴ストーリーじゃないのでその辺嬉しいけれども現時点では難しいところなのだ。
「おい! 危ない!!」
ゲンドウポーズで思考に耽り、とある一点を注視していた私は突然首根っこを掴まれ、パラソルの下から引っ張り出された。
「ぐえっ!?」
すると私が今まで肘を付いていたテーブルに物凄いスピードで回転した小鍋が突き刺さった。
え!? 小鍋、まだ飛び回っていたの!?!?
「ぼけっとしてんな! せめて避けるか逃げるかしろ!!」
振り返るとモブAがいた。
「あれ?」
険しい顔に真剣な表情。
助け方はちょっとどうかと思うけど、これは助けてくれたのでは。
えー! うそ。
モブAに助けてもらっちゃった!!?
「おいジーク! お前の妹、肝が太すぎるんじゃないか!?」
そう言って振り返れば慌ててこちらに駆けてくるお兄様の姿。
お兄様!! 実はすぐ側にいたんですのね!!!
でも残念遅刻ですーーー!
ヒロインはもう他のヒーローに助けられちゃいました!!!
あと少しで現着、間に合ったのに!
私を心配してくれるお兄様と、苦言を呈するモブA。
たくさんの情報が一気に飛び込んできて胸がドキドキする。
もうちょっとこの場で観察していたかったけど、保護者(兄)が登場してしまったので私はせっせと手荷物を片付けて退散した。
大丈夫です! 元気です! 怪我とかしてません!!
これから情報の処理と、考察と、今後の展開とその対処を考えるので~~!!
といいますか…そういえば、もしかしなくても私も【恋のお守り】貰ってたっけ。
つまり私の好感度、今一番高いのってもしかしなくてもモブA!!!
そう思うとちょっとだけときめいたりもする。乙女だもの。
でもホントモブAっていい人だね。好感度爆上がり。
兄妹ともどもお世話になります。
ていうか、猫の子じゃないんだからもうちょっと助け方は無かったんですかね!?!?
首が絞まってめっちゃ苦しかったんだが!?!?!?
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