6.育成アイテムゲットだぜ!
土曜日。
学校は午前中だけで終わり、午後は自由行動となる。
昔、日本の学校もそうだったような…、うっ頭が…。
まあ、それはいいとして。
土曜日の学生は忙しい。
午後からがっつり部活動の生徒もいれば、午後はバイトにいそしむ学生、補講を受けて学力の増強をすることもできる。ちなみに日曜日は完全休みだ。さすがにファンタジーな世界で2連休とかいう制度はないらしい。祝日はあるけれど。
でもね、ゲームのイベントは土曜日に発生するといっても過言ではない。午後にたっぷり自由時間があるからね!今日は学園内で楽しい張り込みだ!(楽しくはない)
今日はとにかく情報の少ない庶民のヒロインちゃん、キャロル・クルックの行動に注目していきたい。新学期が始まってから数回土曜日に尾行&調査を行ったところ、もしや…?と思われるお相手が判明したのだが、…いや、一緒にいるところを目撃しただけなので全然確実では無い。
そこで今日!
待ってました! 親密度を確認できるイベント!
『恒例の月イチマーケット!!』
ここで強制イベントが発生しますよ!!
うちの学園は基本的に寮生活の為、月末の土曜日には校内の敷地を利用して街から露店が出張してくるほどの賑わいのマーケットが開かれる。
そこで学生たちは生活必需品をゲットしたりするわけなんだけれど、ゲームのプレイヤーにとっても物凄く重要なアイテムが販売されるのだ。
ズバリ、育成補助アイテム!
・一点集中無音メガネ 知力成功率アップ+2 とか、
・重力制御付きリストバンド 敏捷成功率アップ+5 とか、
・幸運ウサギのストラップ 幸運+7 とか。
プレイヤーは二つまでのアイテムを装備できる。
まんべんなくパラを上げたい人、苦手を補いたい人、ギリギリ足りないパラメーターをアイテムで補強!! などなど、色んな手段として活用ができる。
でも実は、これマーケットにしか存在しないレアなお宝なのだ。
街に買い物に行っても売ってないんだなあ。
なぜならこれは全て彼の発明品だから!
土魔法の攻略者(1年)
魔道具発明家 シルヴィ = アルダー 年齢不詳
神秘的な紫の瞳に、緩やかなウエーブがかかった淡い金髪。毛先にピンク色に染まっているのも不思議でチャーミング。初見はみんな『天使かと思った』って必ず言う。飛び級で入学してきた天才児だ。
ショタ好きのプレイヤーが、毎月月末の土曜日の売店で彼を見かけては『この子は攻略対象なんだよね? そうだよね??』ってギリギリしながらプレイして『1年間お疲れさまでした、その通りです!!』って展開になって感涙にむせび泣くやつです。
『今までの私服姿も可愛かったけど、まじか。特注の制服とか、膝小僧最高にかわいいです!! 公式さんありがとう!!』って私の友人は拝んでた。
あ、光のショタ向け仕様です、あしからず。
健全な乙女ゲームなので。
でも彼のアイテムはほんとゲームをする上では必需品というか、育成アイテムを上手く活用できるかどうかで育成に差が付いたりするんだよね! 安くは無いのでお財布とも相談が必要なのだけれど。
貴族のヒロインちゃんは最初から所持金が多くて、シルヴィ君のアイテムをゲットしやすいんだけれど、庶民のヒロインちゃんはこのアイテムをゲットするには休日にバイトしたり、イベントで賞金をゲットしたりしないといけない。
貴重なプレイ時間をバイトに費やしても絶対に欲しいアイテムなのである。
とまあ、ゲームの仕様についてはこれくらいにして。
【2学年に上がって一番最初のマーケット】の今日、ヒロインとシルヴィ君の『あらためてはじめまして』イベントがあるのです。
正午過ぎ。
わたくしはホームルームが終わってすぐに学園の中庭で開かれているマーケットにやってきました。
あの運動会とか学校のお祭りでみるような白いテントに会議机(?)、なんというか馴染みのある学校バザーのような様相。…いや、そのまんま学校バザーでした。
気合いが入りすぎたのか一番乗りしちゃった。
お店の人たちもまだのんびりと準備をしているような感じ。
…ちょっと早すぎたか。
だって本日は監視も大事なんだけれど、買い物もしたかったんだもの。
お兄様に渡して効率よくパラメーターを上げてもらいたいし、もちろん自分の分も欲しい。この日の為にちゃんとお金も用意したのだ。
せっかくなので場所の下見がてら広場を一周してこよう。
学園の中庭は二つある。
校舎と校舎を繋ぐ中央回廊を挟んで西と東。綺麗に刈りこまれた植え込みと石畳。
パラソルの付いたテーブルセットなどが数脚用意された生徒の憩いの場だ。
ゲームでは西とか東の表記は無かったけれど、大丈夫スチルで見たことあるのでシルヴィ君のお店は東の中庭の方ですね。
目的地到着。
シルヴィ君の【魔道具のお店】。
うっかり早すぎてシルヴィ君のお店にはまだシルヴィ君がいません。
彼も授業が終わってから来るのだから、そりゃそうよね…。
店番のお兄さんに一言声を掛けて商品を眺めていく。
最近気が付いたんだけれど、どうやら私はアイテムを一度装備するとその効能が分かる。一度手に取って装備するという手間はあるけれど、ステータスを見ることができる能力の応用なのかな。
たぶんこれから先も絶対に偽物を掴まされる心配がないね。だって(偽)ってパラメーターに表示されるからすぐ分かるもの。これもある意味チートだわ。
「こんにちは、お姉さん。熱心に見てくれてありがとう」
「!」
商品に夢中になっていると突然声を掛けられた。
「はい! あれっ」
振り返ると、そこには営業スマイルを浮かべたシルヴィ君。
商品に集中しすぎて気づかなかった!
「お姉さん隣のクラスの人だよね。一番にボクの店に来てくれてありがとう」
ひえっ!!! 可愛い~!!!
ご本人さま登場!!!
いや、まずくはないんだけど、ちょっと焦る。
天使の笑顔の迫力~~~!!
「あっ、ええと、このお店はシルヴィ君のお店なんですね!」
「あれ? ボクお姉さんとご挨拶したことあったかしら?」
し、しまった、つい!!
いつも『シルヴィ君』て呼んでいたのでとっさに出てしまった。
ていうか、私演技がダイコン過ぎぃ!! このままだとボロが出ちゃう!
まだ出会ってもいないのにいろいろ知りすぎているのもマズイよね。
「申し遅れました! わたくしロゼッタ・イオリスと申します! はじめまして! わたくしは1-Bなのでお隣ですわね、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ! ボクはシルヴィ = アルダー。1-A組です。よろしくお願いします」
そう言ってシルヴィ君はぺこりと頭を下げてにっこりと笑う。
あああああ、天使の笑顔かんわいい。
たとえ営業スマイルだって癒しの効果は抜群だ!!
彼は同級生だけど、飛び級なので実際の年齢は公式でも公表されていない。目測で9~11歳くらい?? 背も私よりも頭一つ分小さい。
肌が透き通るように白くて、キラキラしたおめめもこぼれ落ちそうなくらい大きい。
天使って本当にいるんだわ…。感動。
「お姉さんはどんなアイテムを探しているの? ボクアドバイスするよ?」
あ~、ゲームとおんなじ! 感動!!
そうなんだよね、こうやってシルヴィ君はお店でアドバイスをしてくれるんだよ。プレイヤー時代にいつもお世話になりました!!
シルヴィ君の『ありがとう』が聞きたくてマーケットには毎回通ったわ。
ゲームと同じ事がリアルに目の前で起こるなんてゲーマー冥利に尽きますね!
笑顔のシルヴィ君につられてこちらまでにっこりだ。
「見たところ、お姉さん水の属性を強めたい感じ?」
「はい! その通りです!」
私が手にとって眺めていたアイテムから察したのか、さすがシルヴィ君! アドバイスも的確ですね!
乙女としてはどうかと思うが、ぶっちゃけ今は性能重視! シルヴィ君がおすすめしてくれるならそれを買います!! 時短にもなるし、今日のお買い物はさくっとすませて早くストーカー業に戻らないといけないので!
「そうだなあ…、じゃあこの辺のアイテムとかおすすめかなぁ…」
そう言って差し出してくれたシルヴィ君が差し出してくれたのは水魔法の魔石が使われたしずく型のペンダントだった。
え、普通に可愛い。うれしい。
「ちょっと見せていただいてもよろしいですか」
「いいよ、はい」
手にとってそのペンダントを確認してみる。
『雫のペンダント』
・水魔法+15
・水属性パラメーターUP(小)
うーん、さすが、ドンピシャリのお品です。ありがとうございます。
そしてやはり高性能なだけあって、そこそこ良いお値段しますね。
…うん大丈夫です、予算の範囲内ですので。
これを自分とお兄様の分で二つと、あとお兄様用に「幸運ウサギのストラップ 幸運+7」も外せない。…ちょっと可愛いすぎるかしら…、お兄様身につけてくださると良いのだけれど…。
乙女ゲーのデザインなんだもの、可愛くても仕方ないよね。お兄様が嫌だと言っても絶対に身に着けてもらいましょうね。泣き落とし、とかいろいろ手段はあるので。うん。
私の装備枠があと一つ残っているけれど、ひとまずこれで様子見とするかな。なにせシルヴィ君のお店、ランダム要素が多くって破邪の剣みたいなアイテムが突然売り出されたりするから油断がならない。来るべき日のためにも貯めておかないとね。
「では、こちら3点いただきますわ」
アイテムの代金を支払うと、シルヴィ君はにっこりと笑って商品と一緒に小さなストラップをくれた。
「今日一番にボクのお店に来てくれたお姉さんにサービス!」
「え?」
綺麗なピンク色の石で作られた小さくて可愛らしいストラップ。
「これはね『恋のお守り』意中の人とちょっとだけ仲良くなれるアイテムだよ。大事にしてね」
あっ!! これ本日の重要イベントアイテム!
私にもくれるんだ!!
「ありがとうございます。でもわたくしが貰ってしまっていいんですの?」
「いいよぉ、本当は常連さんにあげる予定のものなんだけど、お姉さんは一番に来てくれたから特別! ぜひまた来てね!」
「はい! また来月必ずまいります!」
はじけるお星さまのような笑顔に思わずこちらもにっこりしてしまう。
シルヴィ君商売上手~!!!
これは絶対また来ちゃうし、お得意さんになっちゃう~!!
元々毎月チェックするつもりだったけれど用が無くても来ちゃうかも。
今度はシルヴィ君にお菓子持って来よう。たしか公式設定でゴマのお菓子が好きってあったからね。
「ありがとう! あ、お姉さん、ボクのことは『シルヴィ君』って呼んでくれていいからね! またね!」
あっ…と、やっぱり忘れてなかったか。
天才児、流石です。
ボロが出てても出て無くてもセーフだったみたい、良かった(いやボロは出てたでしょ)。
と、まあ無事に買い物を終えた私は、マーケットで飲み物とサンドイッチを購入し、奥に備えられている飲食スペースへと向かう。
さて、ここからが本命本番、張り込みだ。
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