5.特訓はじめました!!
ブクマとレビューありがとうございます!!
すっごく励みになります!
続きも頑張りますのでよろしくお願いします!!
一週間掛けて情報を収集した結果、兄の恋路が実りそうな可能性は欠片も見いだせなかった。
…知ってた。
いや、ストーリー的には正しいし、間違ってない。
知ってたよ! 知ってたけどね!!
この道が茨道だって分かってて進むんだもの。
まだ全然へこたれてないです。
こちとら何年茨道の隙間産業やってると思ってるんだ。
需要と供給のバランスに泣いたって秒で回復してやるから!(全力の強がり)
…まだ慌てる時間じゃない。(そうか?)
めげない、めげない。
ひとまず落ち着いて状況を整理しよう。
まず、現時点で貴族のヒロインナターリアは火の攻略対象ユージン・メイナードのルートに入っているのではないかと推測される。
…たぶんだけど。
なぜならナターリアは生徒会のメンバーになっていたからだ。
ルート確定の時期はまだ先なので、ひとまず暫定ってことになるけれど。
ちなみにうちの学校では
生徒会長(2年)
空魔法の攻略者 我が国の第二王子
アルフレート・オウノ・アーデルハイト
金髪碧眼の少女漫画の王道の王子様、攻略対象のセンターを務めている。
副会長は二人 (2年)
火魔法の攻略者 ユージン・メイナード
深紅の瞳を持ち、背中まで伸ばしたアイボリーの直毛を首の後ろでひとまとめにした『文系のインテリ眼鏡』
水魔法の攻略者 ロイド = イーズデイル
琥珀色の瞳に短く刈った濃紺の髪の『体育会系の優しい筋肉騎士』
説明しなくても色で分かる。
赤・青・黄色。
色のバランスがとても良いと思います。
この二人は王子様の脇をがっちり固める将来の部下的なポジション。
まだ2年生なのだけれど、立場が立場なだけに彼ら特例的に生徒会を独占している。
大人の都合とかいろいろあるよね。
乙女ゲーの攻略者を観察したければ生徒会を観察せよ!!
これ基本。
…現代ものはアイドルとか入ってくるからまたちょっと別だけど。
ゲームのストーリー上、でもこの3人のうち空の王子様と火の魔術師がお相手の場合、生徒会への参加が必須ルートなのだ。前者はこの国の第二王子で後者は後の王宮魔術師なのだから将来の必須スキルとしても当然の抜擢なのかもしれない。
学生時代は生徒会なんて面倒くさいことをあえてやるのは『お祭り好き』か『内申点狙い』『目立ちたがり屋』とかって思っていたけど、学生という失敗しても許される立場でトップに立つ者としての予行練習ができるのだから王子様や有力貴族がやるのは道理だわ、って年取ってから思いました。
なので将来政治家を目指したり、会社を立ち上げたいなどの夢と希望を持っている学生諸君ははりきって参加してみるといいと思うぞ!(メタぁ)
とまあ、前置きが長くなったけどナターリアの火属性が頭一つ抜けた分、この火の文系インテリ眼鏡くんといい感じなんじゃないかなって話。
何か特別な出来事があったりしたらひっくり返る可能性がゼロではない。
…望みは薄いけれど。
ちなみにもう一人の庶民のヒロイン、キャロル・クルックの方は残念ながら、まだ何の情報もつかめていない。
というか、パラメーターから読みとれないってことは直接現場(キャライベント等)を目撃するしかなくて。
お兄様推し仲間のモブAさんとBさんほど気楽に突撃できないよね、って話。
実はまだ接触自体も果たせていないのだけれど、相手は先輩なので機会をうかがっている感じ。
ていうかぶっちゃけ2年目のこの時期ってあんまりイベントがない時期なのです。ゲーム内の設定でもこの時期はステータスを上げる期間なので。
なぜならゲームの展開にパラメーターが重要なイベントがあるから!
ずばり!『夏の課外授業』で行われる生涯のパートナーになる精霊との契約イベントの為にひたすらステータスを上げる時期なのです!!
(ロゼッタは本当は来年だけど!!)
★属性パラ250以上でBランクの精霊
★属性パラ300以上でAランクの精霊
もちろんランクの高い精霊と契約できた方が今後使える魔法も増えるしストーリーも有利に進められるし成績にも直結する。ちなみにCランクだと平凡というか魔術師として普通という評価になる。
この精霊との契約もこのゲームの醍醐味!!
手の平サイズの妖精から人が乗っても平気なくらい大きな幻獣とか。パラメーターによって契約できる精霊がめっちゃ変わる。1年後にランクアップの儀式もあるし。
…正直に言おう、私、育成シミュレーション系もいけるクチでした!!!
うちの子最高にかわいい!! 育てるの楽しい!! 好き!!
炎の魔法剣士を目指してプレイしていたときに、炎のたてがみを持ったユニコーンタイプの精霊を引き当てたときは「俺がこのゲームの王子様だ!!!」ってなったよね。
奇跡も魔法もあるんだよ!!!
…神引きしたいなあ…。
そう。
あれこれ語ったけど、つまり夏が大事なんですよ。いろいろ。
恋も勉強も、とにかく2年の中だるみしちゃうこの時期が!!
強引に『ジーク・イオリス』ルートをねじ込むのは夏がタイムリミット。
今は4月だから、正味半年。
そう考えると、やっぱり時間がない。
…余裕で慌てる時間だった(反省)。
ハードモードだ…。
実際はゲームよりはるかに難しい。
すでに1年出遅れてるし、ロゼッタは1学年下だし、接点もないし。
私にできるかな、ってちょっと不安になっちゃう。
だって失敗してもセーブもロードもないんだもの。
やり直しなんてできるわけない。
リアルで一回きり。
そう思うとちょっと怖い。
あ、ダメ。
この思考の流れは良くない。
あんまり気づきたくない現実にぶち当たりそう、なので、
そういうときは強引にねじ曲げるのが正解!!!
時間がない今、必要なのは闘志!!
何が何でもお兄様を幸せにするのだという気合い!!!
不憫キャラ萌え!!!!
お前を絶対に幸せにしてやる!!
私がやらずに誰がやる!!
………。
………。
………。
…よし、オッケー、
なんとか持ち直した。
でも私だって鬼じゃない。
このゲームのキャラクター達はみんな好きなので、彼らの自由恋愛を無理やり捻じ曲げてどうこうしようとは思わない。犯罪行為ももちろんしないし。誰かがひどく傷つくようなことはしたくない。
だって私、このゲームが大好きだからね!
彼らの自由意思は大事にしたいよね。
と、前置きが長くなったけれど(前置き?)
上記の心意気を前提の上、『ジーク・イオリス』の人権の尊重をごり押ししたい。
と本人は申しております。
ダイジョウブ、ダブルスタンダード、成り立ってるから。
***
ということで、「お兄様素敵化大計画!!!」はじめます!!
…お兄様は今でも十分素敵ですけどね!
「ほら、ロゼッタもう少しだ、がんばれ!」
「はいぃ…」
大好きなお兄様に励まされ、わたくしは坂道を走っております。
ひい、ひい、ひい。
正直、運動は得意ではないんだけれどパラメーターの為なので仕方ない。
朝6時、まだ春先で肌寒い時間。
わたくしとお兄様は学校指定のジャージに身を包み、朝のジョギングをはじめました。
学園の寮から街に降りて、そのまま丘の自然公園へと向かうコース。行って帰ってたぶん2キロちょいくらいの距離。
お兄様は最初一緒に走るのに難色を示していたのだけれど、「初めての学校なので運動も頑張りたい、でも一人じゃ怖い」みたいに泣きついて説得したら、嫌々だけれども付き合ってくれた。
お兄様はちょろい。わたくしに甘い。大好き。
さすが公式も認めるブラコンシスコン兄妹。
「この坂を上れば折り返しだからがんばれ」
励ますお兄様に、わたくしはもう返事もできない。
坂とか無理。しんどい。
考えてみれば『私』も『ロゼッタ』もそんなに運動得意じゃなかった。
だってアラサーと伯爵令嬢だもの。そんなに運動しないもの。
『私』は体育の授業が無くなってからそもそも運動してないし、ロゼッタに至ってはぶっちゃけ長距離走るのはじめてでは!?
毎日2キロくらいならいけるんじゃないか?
と思って計画したわたくしが浅はかでした。
普通につらかった。
でもこれ、毎日の、日課にする、つもり、なんです。
私の強化特訓メモがそう言っている。
うええ、もうめげそう。
走り始めて数分で私の心は折れそうです。
隣を走るお兄様を見れば全然余裕そう。
…当然か。
ギャグ担当で二軍でもやっぱり男子ですし、足は速いし体力もある。
わたくしに合わせてゆっくり走ってくれていて、道案内も兼ねて街の説明もしてくれているんだれど、今わりとついて行くので精いっぱいで覚えられませんすみません。
ロゼッタにとっては体力増強になるけれど、この距離とペースではお兄様にとってはあんまり効果がないかもしれない。
…と、思うじゃん?
いいの! 違うの!
このジョギングの目的は別にあるんだから!!
これはね! お兄様の長所を伸ばす作戦!
お兄様ことジーク・イオリスのパラメーターで注目すべき点は「幸運」の数値! これはヒロインや攻略者たちと比べても遜色ないというか、むしろ唯一勝っている。
実力が伴っていないのに、しゃしゃり出てきては無様に退散していくジークがいつも怪我もせず無傷なのはこの幸運値が高いせいなのだと思う。しょっちゅう吹き飛ばされているし。…ギャグ要員だし。
なので、これから毎日幸運を上げる努力をする。
幸運値を上げる方法があるのかって? あるんですよ!
学園から少し離れた場所にある丘の公園の精霊樹にお祈りをすればいいのだ。
プレイヤー時代に散々やった!
チート知識、ここで使わずしていつ使う! イマデショ!
祈れば毎回上がるわけじゃなくて、ランダムだったけど!
誰とも会話をしなければ、ゲーム内では時間経過が無かったので毎日通った!
けれどこれリアルでやるとなるとだいぶ苦行だな…。
いやまあ、体力をつけるのももちろん利点なんですが。
「ロゼッタ、ほら、あれだろ『精霊樹』」
お兄様が進行方向を指差した。
坂の上、公園の広場の奥に朝日を浴びてキラキラと輝く白銀の樹が立っている。
(…あれが、精霊樹…)
朝露に濡れ、七色に輝くそれはとても美しい光景だった。
(…めちゃくちゃきれい…)
精霊樹。
このアーデルハイドを守ってくれる魔力を有した不思議な樹。
挿し木しても増えない、自然の摂理とは一線を違える存在。
私たちに精霊の加護をもたらしてくれる。
王宮の奥の庭に王様のような特大の樹があって、それを中心として国中に散らばって存在している。
自然豊かな場所にひょっこり生えたりするらしい。
人知の予測を超えた樹だ。
精霊の恩恵も受けやすいので、争いの種にならないようこうして公園などになっている事が多い。
「この樹を朝に見るのは初めてだけれど、綺麗だな」
「…そう、ですね…」
精霊樹の下までなんとか辿り着き、汗をぬぐいながら呼吸を整える。
樹の下まで舗装された道が続いていてよかった。
「…お兄様が、幸せに、なれますように…」
「ロゼッタ?? 突然どうした?」
突然祈り出した妹にジークが驚く。
そういえば、兄には伝えてなかったっけ。
「お兄様、こちらでお祈りをすると、…願いが、叶うんですって…」
息が、整わなくてつらい。
聞いた話として兄にその情報を伝える。
クラスメイトに聞いたっていうのは、嘘だけど。
だからお祈りしましょう。
恋の成就願っちゃいましょう?
あわよくばお相手の名前教えてくれるといいんだけど。
「そうなのか? じゃあ自分の願いを祈れば良かったのに」
ポカンとした顔のお兄様が照れたように笑う。
わーい、お兄様の笑顔ゲットー!
メンタル回復する~!!
「いーんですの! 今日はお兄様が、お願い、叶えてくださったし!」
そうなのだ、昨日の今日でよく付き合ってくれたものだ。
この方法は一日一回しかできないので、直ぐにでも始めたかったのは本音だけれど、でも兄を説得するのに2・3日くらい時間がかかるとも思っていた。
「じゃあ僕は、そうだな『ロゼッタがこれからも朝の日課を続けられますように』」
そう言って彼は得意げに笑った。
………うそ。
図星すぎて顔が赤くなる。
ひええ、お兄様、エスパーですか。
朝のジョギング、行きだけで心が折れそうだったのバレてた!?
あー、もう、こんなの頑張るしかないじゃない。
にこにこと笑う、したり顔の兄を前にして覚悟を決める。
お兄様のこういう気遣いができて、優しいところこそヒロインに知ってほしい!!
ヒロインの前では気負い過ぎて空回りしちゃうんだから。
お兄様は絶対損してる!!!
「…、お兄様も付き合ってくださるなら」
優しい兄に素直に甘えた。
本当はどうにかこうにか説得して毎日付き合ってもらうつもりだったけど、なんていうか、これが一番しっくりくる。わがままな妹のお願いを叶えるスタイルっていうのかな。
ジークとロゼッタの関係はこれでいいんだ。
「しょうがないなあ、でも一人でこんな時間に走らせるのとか心配だし、いいよ」
兄はわたくしに甘い。
だからいっぱい甘えさせてくれるし、わたくしのお願いをみんな叶えてくれる。
しかも、それを嬉しいと思ってくれるんだよね。
やっぱり大好き。
初日からへこたれそうになっていた気力が一瞬で回復した。
推し、やっぱり最高だったわ。
ちなみに本日の朝の日課でお兄様の【幸運】は1ポイント上がりました。
わたくしの幸運は上がりませんでした。
…めげてません(気合)
その後、私に合わせて走るとお兄様のペースとしては緩すぎるので、モブAが強制参加させられてルート調整が入ったとか入らないとか。(入りました)
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