46.星祭り当日! ~大猪防衛戦!!
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ねえ、予想より事態がより悪化してるってどういう事だと思う!?
「お兄様! キャロル先輩! 下がってください!!!」
お兄様がキャロル先輩に夏祭りのダンスを申し込もうとしたちょうどその瞬間、ヤツは現れた。
日の暮れかけた丘の上、ぶおおぶおおと鳴きわめき、雷をまとってがむしゃらに体を振り回す大猪の姿。
やはり来たか! この運命は簡単には覆らなかった!!
…にしても、なにあれ怖すぎっ!!
彼(大猪)は絡まった電気網を引きずって火花を散らしながら大激怒している。
お兄様がギャグですませていたから余裕だと思って舐めてたけど、アレに弾き飛ばされてもギャグで済ました上に無傷なお兄様って実はすごかったんだね!?
そして私の電気網は確かに効果を発揮していたけれど、予想とは全くの逆方向になってしまってるね? あれむしろ攻撃力上がってない!?
電気が! 電気が! 何で網ごと持って来ちゃったの!? 怒れるジンオ○ガみたいになってるよ!?!?
準備万端で待ちかまえていた私ですら正直腰が引けてしまう。
「なんだあれ!」
「イノシシ?」
「暴れてないか??」
大猪の姿に気が付いた人たちがざわざわと声を上げはじめた。私だってお兄様の件がなかったら逃げる一択だけれどそうも言っていられない。
だってアレ、めっちゃ危ない。
ノーマル(?)の猪だったら打撃だけだけど、あれ感電しちゃわない??
さすがのお兄様も大怪我しちゃうんじゃない??
「危ない! 逃げろ逃げろ!!」
「目ぇ合わすな! 離れろ!」
警告と注意喚起によって星祭り会場から慌ただしく逃げまどう。
まだ日も高い上に準備中の為、それほど多くはいない。ざっと見回してもお兄さまとキャロル先輩以外に知った顔はいなかった。
でも私は知っている。
アイツは会場の全てを何も壊さず、他の誰にも一切構わずに一直線にお兄様だけ弾き飛ばしていくんだろうが!
女は度胸!! ここまでいろいろ準備していたのに土壇場で逃げられるか!!
私は大猪とお兄様を結ぶ直線の間に走り込み、全力で魔力障壁を張る。
「魔力障壁!!」
「ロゼッタ!?」
「ロゼッタちゃん!?」
「おい!」
驚くお兄様や外野の声が聞こえる。
防御壁をガッチリと地面に固定するやいなや、大猪は丘の上から広場に向かって一目散に駆け下りて来た。
ひえええ!!! 怖っ!! メチャメチャ速い!! 地鳴りすごい!!
『アレ』のパワーを跳ね返すだけの力は私には無いかもしれないけれど、進路を逸らすことぐらいは出来るはず!
昨日ユージン先輩から習ったばかりの『受け流し』の力を魔力障壁に込め猪の進路を左後方へと流すように指示を与える。
この進路だけは絶対変えてやる!
まるでトラックがぶつかった様な音と共に大猪が私の魔力障壁に激突した。
私の視界の全てが猪のつぶれた鼻で占められる。
(よし!受け止めた! このまま逸れろ! 逸れろ! 逸れ…ん?)
一目散に駆けてきていたはずの猪が何故か歩みを止めている。どうしたんだろう、力を込めてくれないと流せない。
ゆるゆると魔力障壁を押す力が弱まり、ギュウギュウに押しつけられていた鼻が離れていく。
(あれ、止まった?)
大猪は少し下がって自分が何にぶつかったのか、確認するそぶり。
何だろうこの動作、嫌な予感がする。
(あ、まずい、目が合っちゃう…)
バチっと、音が鳴ったような錯覚を覚えるほどバッチリと目があった瞬間、猪は目に見えて激昂した。私みたいな小さな存在に阻まれたのが我慢がならないというように。怒り狂った彼は更に一回りも大きくなったような錯覚すらある。
(ヤバイ、これ絶対ヤバイ!!)
大猪は数歩後ずさりして前足で土を掻いている。
なんでそのまま通り過ぎてくれなかったの!? しかもこれ攻撃目標、完全に私になった?
「援護しろ!!」
誰かのかけ声で私の目の前には多くの魔力障壁が張られ、地面から伸びた植物の蔓が猪の脚や胴体にからみついた。
「水は駄目だ! 感電する!」
誰だか分からないけれど、ありがたい事に助けてくれる人がいる。
そもそもこんな攻防戦はストーリーに無いし、この状況を助けてくれそうな主要キャラはお兄様が跳ね飛ばされてからゆっくりと登場するのだ。
身震いするほどのいななきと共に大猪が地面を蹴り飛ばして猛進を始めた。
どなたかが張ってくれた蔓は引きちぎられ、何重にも張られた防御壁がバキンバキンと破られていく。先輩方の有り難い援護も大猪にとっては数秒の足止めにしかならない。
(こういうのは術者より遠くにあるほど強度落ちるのだ。でもありがとう見知らぬ人達)
後方のお兄様達は逃げてくれただろうか。振り返って確認したい気持ちもあるけれど、目の前の猪から一瞬でも目が離せない。猪がずっとこちらを向いているのはお兄様はまだ後ろにいるかもしれない。
どっちだろう、分からない。
そもそも大猪はお兄様に何でこんなに執着するんだろう。
ゲームの必要性? 整合性? 強制退場装置?
お兄様の行動を邪魔する為にそこまでする必要性ある?
…そう、説明キャラでもあるお兄様はヒロインに星祭りのパートナーを選択する重要性をヒロインに教え『誰も相手がいないなら、僕が相手になってやってもいいぞ(チラ)』という言葉の後、猪にはね飛ばされ『うわああああ』の悲鳴と共に退場する。
あのウザ台詞だってお兄様が勇気を振り絞って話しかけたセリフだったのに!
みんなしてお兄様の恋路を邪魔して! ばかにして! ばかにして! 許せない!!
ゲーム本編では一瞬で通り過ぎたギャグパートだったのだけれど、お兄様の気持ちは真剣だったはずだ。
お兄様のピュアな純情返せ!!
大猪の怒りよりも私の怒りの方が数段上だ!
再びものすごい勢いで私の防御壁に突っ込んで来た大猪を全力で受け止める。
がっぷり四つ。
くそったれ! ゲームシステムなんぼのもんじゃい!
お兄様とキャロル先輩の恋路は私が守るんだ!!
猪なんかに邪魔されてたまるか!!
再び視界一杯につぶれた鼻。
お兄様へのヘイトは無くなったのかヤツの意識は完全に私に向いている。
私の魔力障壁は変らず安定して大地を噛んでいる。
(よし、耐えられている)
破壊してきた蔦などで放電したのかさっきより雷の力も随分おさまっている。
私の魔力にもまだ余裕があるし、今のところ圧し負ける気配はない。
(よし、いける!)
大丈夫、このまま湖まで行ってしまえ!!
逸れろ!
逸れろ! 逸れろ〜〜〜!!!!
視界いっぱいを占める鼻がじりじりと左にずれていく。猪の鼻息で曇って前がよく見えない。
私はありったけの魔力を魔力障壁に込めた。
ズルっと視界がずれた時に勝った! と思った。
誤算があったとすれば、それはウエイト。
ぼごっ、という鈍い音。
「あれ?」
「ロゼッタ!!」
お兄様の叫び声と共に突然襲いかかった重力と一気に開けた視界。
「ひえっ」
空。
空、空、空、と地面と湖と精霊樹。
(あれ!?!??!)
私、空を飛んでる??? いや、これはもしかして防御壁ごと空に放り投げられた!?!?
今までしっかりと私を大地に縫い留めてくれた地面は球体の中にわずかに少し残すのみ。
(嘘でしょ!?)
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