4.まずは全力でリサーチ!
もうちょい設定…。
(すみません)
そんなこんなで放課後です。
まずはお兄様の想い人のリサーチから始めたいと思います。
『国立アーデルハイト魔法学園』
赤レンガを基調にしたバロック建築風の学舎。
一学年3クラスの3年間のカリキュラム。
正門から進んで男女別の棟に分かれた寄宿舎、そして学舎。学年ごとに奥まった教室が割り振られている。
…敷地面積…えーっとよく分からないけれどとっても広い(語彙力)。
奥の方には馬術部の馬場が合ったり、サイエンス部の畑があったり、研究院があったりするので本当に広い…としか言いようがない。
学園の塀はあるけれど、後ろの方は森と繋がっているような気もしないでもない。
「さて、ではお兄様のクラスへと参りますか」
私は携帯用の筆記具を手に学舎の奥へを足を向けた。
普通だったら入学したての新入生が上級生のクラスに足を運ぶことなんて恐れ多くてできないけれど、私はこのゲームを何度もプレイしているし、なんならこの学園を何度も卒業していいますので、勝手知ったる母校のようなもの。
今回ばかりは勇気と図太さをもって当たらせていただきますね。
そもそも中身アラサーの私だからこそできるのだと思う。
私だって学生時代にはこんな勇気と行動力はなかったし今思い返してもたぶんできないんじゃないかしら。
むしろ「あ、できる」って思った時、私おばちゃんになったんだわって思ったよね。街で困ってる人に声を掛けたりとかできた時とかさ。
メンタルレベルアップ。
15~18歳の学生よりうんと図太いんだから。
いいことです、いいこと。
むしろその持ち味を生かして行こうと思いますまる
やってきました、2-A お兄様のクラス。
クラスの中を覗き込んでみるとお兄様はすでにいませんでした。
はい、でも今回はそれでいいのです。お目当ては別にいるので。
「!」
いました! 目当ての人物発見!!
焦げ茶色の髪に空色の瞳のお兄様の友人その1!
全体的に青と白のお兄様を引き立ててくれる良い感じの色彩のモブキャラ。
「ごきげんよう、そこの先輩、ちょっとよろしいでしょうか」
「?」
名前公式に載っていなかったから分からないのだけれど、いっつもお兄様のスチルの右側で兄に手を差し伸べてくれていた方。わたくしちゃんと覚えていましてよ!
「そんなにお時間は取らせませんので、いくつか質問に答えていただけますか?」
「…お前、ジークの妹か?」
「はい! そうですわ! 初めまして。わたくしロゼッタ・イオリスと申します! 貴方は兄の御友人の方でしょう?」
「……まあ、そうだけど」
彼は突然現れた下級生に戸惑いつつ肯定した。
ていうか、名乗る前にすでにわたくしがお兄様の妹ってよくご存じですね。
さすが脇役なのに『妹キャラ可愛い』とファンのお姉さま方に評判のロゼッタです。
…昨日のお兄様連れ去り事件(?)でだいぶ目立ってしまったのかも、という事実は無視しましょう。
「で、何か用?」
「はい! いくつか聞きたいことがあるのです!」
兄の個人情報に関わることなので、彼には廊下の端にまでご足労いただき、あらためてお願いする。
「お兄様の学校でのご様子をお伺いしたいのですわ」
「なに?」
「最近、お兄様は困っていることとか、何か悩んでいたりとかありますでしょうか?」
本当は好きな相手が知りたいのだけれど、さすがにそれを直接聞いてはぐらかされたらおしまいなので、遠回しに聞いてみる。
「……何で俺に聞くんだ。あいつに直接聞いたらいい」
「直接聞いても教えてもらえるわけないではありませんか」
兄は見栄っ張りなところがあるから、絶対に絶対に教えてくれないし、そもそも影からサポートする予定なので直接聞くのは最後の手段である。
「なら、俺も話すことはないな」
「ええ!? 意地悪しないで教えてくださいな」
「意地悪じゃない。あいつがあえてお前に話さないことを俺が教えるわけにはいかないだろ」
兄の友人! 常識的!
普通にいいひとだった!!
知ってた!(いや知らなかったけど)
「さすがお兄様のご友人ですね!」
「は?」
「友人思いのその姿勢は素晴らしいと思います!」
「……?」
何言ってんだこいつ、っていう顔をしている。
しまった、ちょいちょい年上のおばちゃんがまざっちゃう。
ごめんねロゼッタ。
「それはそれとして、では兄の苦手な科目を教えていただけます?」
「…おい、俺の話を聞いてたか?」
「え? ええ、もちろん。でも悩みとこちらの質問は別枠でしょう?」
モブAは何言ってんだこいつ、っていう顔をしている。
二度目!
なぜだ。え? 別枠だよね???
「…そういや、ジークのやつ妹が暴走して困るって言ってたな…」
「わたくしのことですか!?」
「他にも妹がいるのか?」
「妹はわたくし一人ですが、…と言いますか、わたくしの事はどうでもいいんですの! 兄の事を教えてくださいな」
もしかしなくても昨日の件?? あれはついカッとなって。
でもお兄様も困ってらしたけど笑って許してくれたのでノーカンですわ! ノーカン!
てか、この人もあの場にいたのかな…まあ、いたんだろうな。
「わたくし、お兄様の望みが叶うようにお手伝いをしたいだけなんです! 決して悪いようにはいたしません。だからあなたも協力していただけませんか?」
「はあ? 何で俺が」
「だってわたくし達お仲間ではありませんか!」
「仲間? 何の? 俺とお前は初対面だろ」
だって私は知っている。
このモブAさんは、お兄様がイベントで野生のイノシシに吹っ飛ばされたり、魔法薬学の調合ミスで吹っ飛ばされたり、魔法の暴発で突風にさらわれて池に落ちたときなんかも必ず助けに行ってた。
「『ジーク・イオリス大好き同盟の仲間』ですわ!」
「なんだそれは! 気持ち悪い仲間にするな!」
モブAさんはこらえきれず大きな声でツッコミを入れた。
「き、気持ち悪くなんてないですよ! 不遇の兄を助けてくれるすっっごくいい人!という意味なんですから! ちょっと他に上手く表現する言葉が無かっただけです!」
「いや、無い。無理。絶対違う」
「そんなことないです! あなたともうお一方(モブB)はわたくし勝手ながらずっと『ジーク・イオリス大好き同盟』の仲間だと思っておりますの!」
だって推しキャラが同じなんだものお仲間ですよね?
もしモブAさんが同担拒否の場合は仲良くはできませんけれど、わたくしは仲間がいるとうれしいタイプなのでできれば仲良くしたい派なのです。
「…(あいつも既にカウントされてるのか…)」
モブAさんがうめくように小さな声でつぶやかれましたが、キャッチさせていただきました。軽く青い顔をしてらっしゃるような?? え? そんなに嫌??
とっさのことだったから我ながらネーミングセンスは正直どうかと思っているけれど内容は合ってるし、そんなに突拍子もないこと言ってないよね? よね??
ていうか、もちろんモブBさんのことも存じております。モブAさんの後にお伺いするつもりですけれど、お兄様を挟んでいつもこのモブAさんと反対側にいらっしゃる方です。麦わら色の髪にアンバーの瞳の方。Aさんと同様、公式設定がないので名前は存じ上げませんけれど、とっても色のバランスがいいんです。
「ジークの妹、気持ち悪い…」
「まあ失礼な! 兄思いの普通の妹です! ちょっと強火なだけです!」
「強火の自覚あるのか…」
ええまあ。
軽くモンペかなあ、って思わないでもないですね。
でも大丈夫です!
モブAさんは兄の味方なので噛みついたりなんてしません!
「俺から話すことは無いので失礼する」
「えっ! ちょっと待ってください! まだ何も情報をいただいていません!」
話は終わりかと身をひるがえすモブAの服を掴んで追いすがる。
え! まってまって! 力強い! 引きずられちゃう!!
「何も話す事はない」
「待ってください! 一つだけ! 一つだけ! ずばり単刀直入に聞かせていただきますわ! わたくし、兄の想い人がどなたなのか知りたいんですわ! キャロル・クルック様かナターリア・ラクアスター様のどちらかだと思うのですけれど、どちらか決めかねているのです。あなたはご存じありません?」
こちらの質問にモブさんはピタリと足を止め、化け物を見るような目を向けられました。
やめてください、ちょっと傷つきます。
ストーカーじゃないので!
(ストーカー行為にはちょっと片足つっこんでるけど!)
「なんでそこまで…」
「そのご様子ですと知っていらっしゃるんですね? 教えてください!」
「…知ってどうするんだ」
「応援するんです!」
少々食い気味に声を上げた。
「何?」
「お兄様の恋路を全力で応援しようと思っているのです!」
「やめてやれ」
「なぜ!?」
「あんた絶対引っ掻き回すだろ」
「そんなこと!しませ…ん、たぶん」
ほらな、って顔!
でも絶対にしないとは言い切れないからね、状況次第だし。
「お兄様には幸せになってほしいんです! 頑張りが報われてほしいんです! 恋路を邪魔してお兄様を独り占めしたいとかそーいうんじゃないんです!」
だめだ、私は頭が良くない。腹芸もできない。
『ロゼッタ』なら出来たかもしれないけど、『私』は庶民だし!
全部しゃべってしまった!!
「…黙秘する」
「どうしても?」
「……俺が教えるのは、なんか違う気がするから言わねえ」
「むむむ」
友人としての回答は100点満点ですけれど!
妹のわたくしにまで秘密にしなくていいんですよ!
「じゃあヒントください! ヒント!」
「…めげねえな」
またも話は終わりと身をひるがえす彼に体重を掛けて追いすがる。
「髪の色は何色ですか?」
「バカにしてんのか? 二択だろそれ」
「では髪の長さは?」
「言わねえっつってんだろ?」
「得意科目は?」
「知らん」
「女性ですか?」
「むしろそこは疑ってねえよ」
やだもう!いくら私が小柄だからってズルズルと引きずるなんて~!!
レディにする行動じゃなくってよ!!
「何か一つくらい教えてください!」
「断る!」
「ケチ!」
「ケチでけっこう」
んもう、なんてかたくな!
「モブのくせに!」
「はあ???」
「モブAのくせに!!」
「意味が分からん」
「もういいですわ! わたくし自分で探りますから!」
全体重を掛けて引きずられていた私はパッとその手を放す。
モブAのばか! モブBに聞くからいいもん!
「あなたお名前は!?」
「…ロバート」
嫌そうな顔をしてモブは答えた。
そう、モブAはロバートっていうのね!
「お兄様と仲良くしてくださってありがとうございます! ロバート様! これからもよろしくお願いいたしますわ!」
モブのポカンとした顔にべーと舌を出す。
おっとこれはレディとしてはしたなかったかしら。
わたくし、多少暴走してもきちんと守るべきラインはわきまえておりますよ。
お兄様のお友達に悪い印象を植え付けたくありませんしね!
「…変な妹」
なぜか彼のツボに入ったのか、ひとしきり笑われた。
モブAはモブ顔だけれど、笑うとそこそこイケメンだった。
そういやこの世界美形ばっかりだね。
「図書室」
「え?」
「水曜の放課後は図書室に向かうのを見かけるな」
「まあ! ありがとうございます!!」
喉から手が出るほど欲しかった兄の情報だ!!
やったあ!!
あんなにかたくなだったモブAさん、もといロバートさんが情報をくれた!
ド〇ーめに靴下をくださった!!!
やっぱり親しき仲にも礼儀あり。
きちんとした対応をすれば気持ちは伝わるっていうものなのね。
ロバートさんもさっきより少しだけ態度が柔らかくなった気がするし。
ん?…そもそもそれほど親しくはなかったか。
『これ以上は話さないけれど、応援はする』という前向きなお言葉をいただきつつ、モブAさん、もといロバートからの事情聴取は終わった。
【兄は水曜日の放課後は図書室】
こんなに体当たりで頑張ったのに情報少なっ!!
想い人の情報は全く教えてもらえなかった。
私ってもしかしてリサーチど下手なのでは???
その後、無事にモブBさんも捕まえて兄の情報を聞き出しました。
初日の情報量としては、まあまあなのかな。
モブAさんよりもモブBさんの方が優しかったけど、モブBさんも「ジークのことは本人に聞いてね」ってスタイル。
ジークは本当に良い友人を持っているね!
自慢!!
さすがはお兄様!!
ただちょっと、いや、予想よりかなり口が悪いなって思いました。モブA。
ゲームをプレイしていても分からなかった『ジーク・イオリスの交友関係』という新情報に『私』はとてもわくわくしていた。
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