22.ドキドキハラハラダブルデート!?③不穏
かっぽかっぽとリズム良く馬車に揺られている私達4人。
自動車とかそういう騒音を発生するものが無いので道中はとても静か。馬の足音と車輪が回る音、鳥のさえずりなんかが主なBGM。
郊外の競馬場ってどのくらいで着くのだろう…遠いのかな?
完全にあてずっぽうの勘だけど、馬車で移動する距離って『自転車を装備した男子高校生の移動範囲くらい』って勝手に思っているので1時間くらいで着くかな~なんて。
「そういえばロバート様のお家の馬がレースに出走するんですよね、名前はなんという馬なのですか?」
何か4人で話せる話題は無いかと思って提供した話題。
今日の目的地の話だし、チョイスは悪くなかったと思う。
「…ナギサ」
ぼうっと窓の外を眺めていたモブAがぼんやりと返事をする。
「可愛い名前ですね。なら応援しなくては!」
「…ああ、頼む」
競馬の事はあんまり詳しくないのだけれど、今日のレースは年に一度の大きなレースで本当は出走するのも名誉あることなんだとか。
そう考えるとモブAのお家って実は一部の人間にとってはすごい有名なのかもしれない。
「ロバート君のお家のお馬さんレースに出場するんですか? 知らなかった!」
キャロル先輩が目を丸くする。
そういえば伝えてなかったけどそうだよね、普通驚くよね。
まるで別世界の出来事みたいだもの。
「何時頃走るんですか?」
「最終レースだから15時ごろかな…」
競馬場では1日中レースが開催されていて、たしか8レースくらい開催されている。
たぶんこの感じだと昼前に到着して、ランチして、ふれあい広場で満喫して、レースを見て帰ってくる~感じになるのかな?
ロイド先輩が思い出したようにつぶやいた。
「最終レース…、そうか。実は飛び入り参加でうちの馬も出場する」
「え!? そうなんですか!?」
キャロル先輩が一人声を上げた。
えっと、あれ? ロイド先輩のお家のお馬さんも?
そうだったっけ? んんん?
「二番目の兄なのだが、馬術をとても得意としていて、今回馬と騎手と双方が飛び入りで出場することになっている」
「そうなんですか!?お兄様が!」
「賑やかなことが好きな兄なので、皆で応援に来いと言われた」
「それで私を誘ってくださったんですね」
ロイド先輩とキャロル先輩の会話で思い出した。
なんでデートが競馬場?っていう問題! 完全に忘れてたけど、ロイド先輩のお家は騎士の一族だから!馬!! 馬に縁があるんだった!!
こちらも実家の都合だった!!
実は私が知らないだけで、学園内にも馬の関係者もっといるんじゃないだろうか。
あ~、でもそういえばそんな話だったかも、さすがに細かい事は忘れているのである。
そして納得!!
だからモブAは今回の件、了承したんだね!!
ロイド先輩のイーズデイル家の馬がライバルだから! 敵情視察ってやつ!
ちらりと様子をうかがうとうっすらと笑みを浮かべてはいるが目が全く笑っていない。もちろんその情報は知ってた的な…あ、これガチなやつですね。
「ロイド様のお家のお馬さんのお名前はなんとおっしゃるんですか?」
「イワシーミスという」
のんびり、ほっこりとした二人に対してモブAの方はどんどんピリピリしていく。
え、なにこの温度差。風邪ひきそう。
「1番人気イワシーミス、2番人気ナギサ。現時点での人気順位だ」
ほっこりとした会話の合間にモブAが最新の情報をぶち込んできた。
え、そうなの?? 人気って賭け事の? あのオッズっていうやつ??
「すごいじゃないですか! お二人の馬が揃って優勝候補だなんて!」
キャロル先輩も驚く。もちろん私も驚いた。
え、モブAの家の馬もすごいけど、ロイド先輩の家のお馬さんそんなに強いの?
本当にガチでライバルだった。
「そうなのか? 知らなかった」
「前評判だけでもすごい噂になってるぞ。『あのイーズデイル家が自信をもって送り込んできた』ってな」
モブAが淡々と現状を説明する。
さすが関係者、めっちゃ詳しい。
「一度も出走していないのに、そんなことがありえるのか?」
「え?」
ロイド先輩が困惑した声を上げる。
「あんた…知らなかったのか?」
ロイド先輩が知らないことに、モブAがまた驚いている。
一度も出走していないのに一番人気??
えっと、デビュー戦ってこと??
「…まじでありえねえ」
モブAが頭を抱えて大きくため息をついた。
あの、なんかごめんね? 今の会話で重要ポイントがちょっと分からなかった。
ゲーム内でもただ一緒に応援したっていう一文しか無かったと思うので、どっちが勝ったか知らないけど…うーん…、優勝…したのかな、しなかったのかな?? ちょっと覚えてない。
でもこれは…双方ライバルってことだよね? ゆとり教育じゃないんだからどっちも応援!ってわけにはいかないし、勝負の世界だもの。
「そっちの調子はどうなんだ? うちは最高の状態で出る予定だが」
一呼吸おいて持ち直したモブAが再びロイド先輩に言葉を投げる。
「頑張るのは馬だが、調子は良いと聞いている」
ロイド先輩もギラギラとした様子はないけれど、先ほどまでの緩い空気はなりをひそめている。
あれ、これもうすでに対決の火花が切って落とされてない?
実は静かに火花散ってない?? ロイド先輩はともかくモブAはもうわりと戦闘モード入ってるよね??
ごくりと唾をのむ。
えーと、これは…どうしよう。だんだんデートって感じじゃなくなってきたぞ。
ちらりとキャロル先輩に視線を投げると、キャロル先輩も私と同様に笑顔が強ばっていた。
「あの、じゃあわたくしはナギサを応援いたしますわ」
「なら私はイワシーミスを応援しますね!」
ほら2対2だし、平等だよね~とアピール!
当人同士はもちろん自分の家の馬を応援するだろうし。
ダブルデートだしこういう流れでいいんじゃないかな。
どうかねロイド先輩!
基本的に普段は穏やかなロイド先輩に向かって笑顔でアピールする。
「そうだな、勝負は時の運もある。どちらが勝っても負けても、良い勝負ができればいいと思っている」
ロイド先輩がきれいにまとめてくれた。
われわれは~スポーツマンシップにのっとり~みたいなあれ。
どう考えても落としどころはここしかない。
よし、これでこの場は収まる…。
「…なるかよ」
…かに見えた。
おさまらぬか。
「む?」
「さすが、いいとこの坊ちゃんはお気楽でいいな。こちとらこれで生計を立てているっていうのに、上級貴族の道楽に振り回されちゃかなわないぜ」
バチバチ終わらんかった。
再び不穏な気配を察して私とキャロル先輩が再びおろおろし始める。
こういう時、馬車という閉鎖空間って困るなあ。
「たしかに、飛び入り参加自体は少々強引だったかもしれないが、年齢や距離、出走条件は同じだし、ハンデも同じ。素直に力比べをするというのであれば問題ないのでは?」
「きれいごとを言ってくれるぜ…」
「何だと?」
「優勝と優勝以外では天と地ほどに差があるんだが!?」
「………」
まってやっぱりこれケンカだ! 本日まだ始まったばかりなのにもうケンカですか!?
もはやデートっていう空気じゃねえ。
私とキャロル先輩はもはや空気を読んで笑顔で黙るしかない。
「しかもうちのナギサと、お前のところは父親が同じシズオだろ」
「…血統までは知らなかった」
「この世代がシズオの最後の産駒なんだぞ?」
もはや何を言っているのか分からないよ??
血統の話???? 父親が同じ、ってことは兄弟ってこと!?
「?」
モブAの言い分、ロイド先輩にもあんまり伝わってないみたい。
もちろん私も分からない。キャロル先輩もそう。
どういうこと?
モブAが何度目か分からないため息を吐く。
すみません素人の集まりで。
「こちとら商売で馬を扱っているんでね、今回のレースはもちろん大事だが、引退後のことまで考えているんだ。出るなら勝敗に絡む闘いをしてほしい。記念参加とかそういう気で出場するならはっきり言って迷惑なんだよ」
意図が伝わらないのを察してか、幾分モブAがトーンダウンする。
あれか? 素人は黙っとれ的な話?
たしかにロイド先輩も競馬には詳しくなさそうだし、対してモブAはガチ関係者っぽい。ルールも分からずうちの縄張りに土足で入ってくるなよ的な?
モブAがこんなにイライラしているのは、つまり話題作りの為だけにコ〇ケにサークル参加する芸能人にイラついちゃうような感じ? 大丈夫だよあれはちゃんとルールを守ってくれればみんな文句言わないし、来るもの拒まずだし、みんな参加者だし。
待った、コ〇ケの話はもういい。
「…たしかに出場を決めたのはうちの家族だが、決してお遊びで出場を決めた訳ではないと思う。イワシーミスの能力が飛びぬけていたので評価の場を与えてやりたいのだと、そう聞いた」
「勘弁してくれ…。騎士道精神は結構だが、飯のタネにもならねえんだわ。権力でねじ込んできたからにはこちらの迷惑にならないレベルで走ってくれ」
「聞き捨てならない発言は控えたまえ」
あーダメ、もう収まらん。
まさかこの二人がこんな風に喧嘩するとは思わなかったよ!!
お兄様とアルフレート王子だけじゃないじゃん対立してるの(?)
私とキャロル先輩は仲裁のきっかけが掴めずに、ただただ状況を見守ることしかできない。まだ始まったばっかりなのに、このダブルデートは失敗なのでは…?
「………」
「………」
黙りこくってしまった二人。
まいったなぁ、この空気。
もう次なんの話題で話せばいいのか分からないよ。
キャロル先輩と私はもう何度目かのアイコンタクトをする。
目と目で通じ合う仲になっちゃったよ!やったね! 歌わないよ!
しかも馬車という個室だから逃げられないね!
そういえば、いつの間にか馬の足音が変わっている。石畳から平らな土の道を歩いている。
だいぶ郊外まで来たんじゃない? もうすぐ着く??
窓の外にはカラフルな上り旗が見えてきた。
「…あれ、」
競馬場では?
一縷の望みを掛けてロイド先輩に目で尋ねると、先輩は小さく頷いてくれた。
着いた!! やった!!
この空気に耐えられなくなる前に馬車が止まる。
着きましたよ、と御者さんの声。
助かった!!
「レースの勝敗がつくまで別行動にしよう」
荷物を持って馬車を降りると突然モブAがそう提案した。
「なんだって?」
「今から敵味方。やっぱり馴れ合いなんて性に合わねえ」
競馬場の入り口は大きな自然公園のような場所だった。
馬車は私たちを公園の入り口で降ろすと、駐車スペースへと向かって行った。
何を突然言い出すんだモブA…。
と思いつつも。たしかにその方がいいかもしれないとも思った。
私達がいるせいで、キャロル先輩とロイド先輩のデートが散々なことになっても悪いし(既に幸先よくないし)。
「勝った方が、敗者に晩飯おごるっていうことでどうだ」
「それはかまわない」
「勝敗が付いたら『鳥』で連絡する」
「分かった」
そう言って二人は魔法の小鳥(手紙)のアドレスを交換した。
仲がいいのか悪いのか…。このノリ全然分からない。
キャロル先輩はちらりと目で問えばうんうんと返される。
話し合うタイミングは無かったけれど、私とキャロル先輩はもうこのまま流れに身を任せることにした。
だってねえ、もうこれは仕方ないよね。
みんなでふれあい広場に行きたかったけどしかたない。帰りはまた一緒に帰るわけだし諍いはなるべく少ないほうがいい。
「ロゼッタ、行くぞ」
「はわわ、はい!」
キャロル先輩に私のにんじんを少し分けようと思ったのに、そんな暇もなくリュックを取り上げられた。重い荷物を持ってくれるのは正直ありがたいけど、行動が早い!
「じゃあ、キャロル先輩! ロイド先輩!また後で!」
そう声を掛けて、わたしは先に歩き出したモブAの後を追う。
あれ、もしかしなくても…今初めて名前で呼ばれた??
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※馬の名前にピンと来たらダビスタ仲間☆彡僕と握手!
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