2.一度は言ってみよう「ステータス!」
一晩、寝て起きたけれど私は『ロゼッタ』のままだった。
「夢じゃないのか…」
わたくしは、ロゼッタ・イオリス。
ぱっつん前髪に縦ロール、大きなお目めとリボンが特徴のお兄ちゃん大好きっ娘です。
今日は魔法学園に入学して三日目の朝です。
新入生歓迎パーティーで演劇の舞台に乱入していじめられていた『お姫様』をさらって逃げました~なんて…記憶もちゃんとあります。
寝たら元に戻るかと思ったのだけれど違ったみたい。
昨日は早めに就寝したので今朝はとても早く目が覚めた。
身支度を整えつつ、備え付けの鏡台でまじまじと己の姿を確認する。
兄と同じ柔らかな淡いブルーの髪、きれいに切りそろえられたぱっつん前髪。縦ロールの髪をきっちりとポニーテールにしてアクセントの紫のリボン。
ぱっちりとした黒目がちのアメジストの瞳が自分を見返していた。
「かわいい…」
『え、あのウザジークにこんなに可愛い妹が!?!?』
とゲーム中盤でプレイヤーの度肝を抜いたロゼッタだ。
本物だ。ちなみに声もかわいい。
いや、こんなに可愛い子になれるなんてそりゃーもう人生楽しくなるだろうけども。
…ちょっと待ってほしい。
これはラノベで浴びるほど読んだ異世界転生? トリップ? 的な状況なのだろうか。覚醒(?)した時にあった二重人格っぽい感覚はすでになく、私とわたくしは綺麗さっぱり一つの人格に収まっていた。
(まったく記憶はないのだけれど…私ってば不慮の事故なんかにあったのかしら???)
ほんと今ってどんな状態??
転生ものの悪役令嬢シリーズが大好きでよく読んでいたけれど、ロゼッタは悪役令嬢という立ち位置としてはちょっと弱いし、ライバルキャラでもない。いいとこ後半でストーリーの進行を邪魔するお邪魔キャラってとこだったと思う。
…お邪魔令嬢…、か。
この名称ぎりぎり可愛くないな。
「はあ…」
考えても分からないのはしかたない。
学生の朝は忙しいのだ。ひとまず落ち着いて現状を整理しよう。
昨日のあの時、あの瞬間まで自分は100%ロゼッタ・イオリスだった。
いや、いまでもちゃんと記憶はあるので100%ロゼッタ・イオリス+『私』、である。
というか若干『私』の自意識の方が強い気がする。
『私』の記憶が確かならば私は日本人で、オタクの社会人。
ゲームが好きで、学生時代は同人活動もしていた。
…社会人になってからは仕事が忙しくてしばらく二次創作からは離れていたのだけれど。
そして何の二次創作をしていたかっていうと
『シャインクリスタル~祈りと魔法の国』まさにこれ。
私は『ジーク・イオリス』つまり私の『お兄様』を激推ししていた。
…うん。
マイナーキャラを応援したい病なんだ、私は。
分かってくれるだろうか。
同志諸君いらっしゃるだろう?
不憫キャラを幸せにしてあげたいって使命に燃えたりするだろう?
それが私だ。
ジークのことは大好きだったし一押しだったけれど、攻略対象として見ていたわけではなかった。このゲームの登場人物の中で誰が一番解釈が合うか、って考えたら確かにブラコンの『ロゼッタ』だ。
むしろ一択しかないわ。
私はジークを幸せにしたいんだもの。
ていうか、そこんところちょっとだけ熱く説明させてもらってもいいかな!!!!?
ごめんね!
ほんと聞いて!!! お願い!!
なるべく簡潔に話すから!!!
ジーク・イオリスはね、公式さんの斜め上の愛情をこれでもかというほど受けて誕生したサブキャラクターなの!!
しかもそんじょそこらの愛じゃない!
ヒロイン2人×攻略対象者6人=12パターンを超えるルートでそれぞれに違ったパターンのフラれるシナリオが別に用意されているんだけど逆に凄くない????
てか振られるパターン多すぎじゃね!?!?
シナリオ全部書き下ろしてるんだよ!?
そこ、そんなにバリエーション必要なくね!?
どうせ振られるんだしワンパターンでよくね??(ファンの悲痛な声)
むしろ攻略キャラの誰よりもシナリオ書かれてない? 愛され過ぎじゃない????
酷っ! 愛し方が酷っ! むしろ非道!!
「「「 お兄様お可哀そう!!! 」」」
でも愛があるの分かる!! ほんと分かるの!!!
だって、設定が、展開が、悲嘆が細かいんだもの!
徹底してるの! 良いやつなの! でも報われないの! 空回りしてるの!
シナリオは勝手に増えるわけじゃないんだよね! 知ってる!!
(どうしてそこまでの労力をパラメーター【不憫】に全振りしたのか!!!)
それなりに人気があって追加ディスクやファンディスク、リメイク版なんかもガンガン出たけどジークの恋が成就するようなフラグは一個も立たなかったからね!いっつも不憫!もう徹底してたね!!
グッズも出たけど「どうしてそれチョイスした!?」ってキャラデザも多くってランダム商品では毎度外れ扱いされてギリィ…!!ってしてました!!
同志諸君分かってくれるか??!!
だから私は汝を愛そう…(イケボ)
みたいな気持ちになるわけなのさー。
でもホントプレイをすればするほどジークを嫌う人減っていった感あるよ…。
共感してくれた同志諸君握手しようぜ!
…熱く語ってしまった。
すまない。
『私』に引きずられると口調がオタクになってしまうので、お貴族様であるロゼッタのイメージを傷つけないようにしなければ…。
こほん、ええと…。
つまりそういうわけで、私はジークを後押ししてあげたいって心から思うのです。
無謀だと思う?
うん、そうかもしれない。
でもそうじゃないかもしれない。
なぜならこのゲームの最大の特徴は『どれだけあるか分からないほどエンディングが用意されている』ということ。
いわゆるマルチエンディング。
パラメーターの調整でどんな職業、どんなエンディングを迎えるか分からない。
私も推しの主要スチルは全て回収したけれど、完全に全部のルートを回れたかって言うと正直自信はない。
同じセーブデータから枝葉スタートしてもまったく同じエンディングにはならなかったことあったし。攻略本や攻略サイトもあったけど、ルートは一本じゃ無かったしね。
何回プレイしても「え?こんなシナリオあったっけ???」「え、このスチル知らないんですけど…」ってことがある攻略班泣かせの一生遊べるゲームだった。
つまり私が頑張れば、この【不憫】が約束されたお兄様の恋にも成就する未来があるかもしれないじゃない???あるかもしれないよね!!
これは、ほんともうやるしかない。
俄然力が湧いてくる。
『私』と『ロゼッタ』の力があれば、できるかもしれないじゃないか!!
ていうか、もうすでに昨日の新入生歓迎パーティーだって少しだけ変えてしまったし。
ゲームでは舞台上に王子役が二人登場してしまって、完全に位負けしたジークを観客がプークス!と笑い、「お兄様を馬鹿にしないで!」ってロゼッタが泣き出したことによって慌てたジークが妹を連れて退場→劇はそのまま続行、という流れだったはず。
私がいるのに、そんな後味の悪い展開にしてたまるか。
とっさの事だったけれど、自分グッジョブ!って褒めてあげたい。
強引に舞台から引きずり下ろし、逃亡したわたくしをお兄様は笑って許してくれたけれど、
(ジークもロゼッタのことを可愛がってくれている、ブラコン・シスコン設定は公式)
私が乱入して引っ掻き回したことで展開は変わってないけれど、空気は変わったんじゃない?? あんまり変わってない??
でもね、気づいてしまったのさ。
私の力を。
『ステータス』
異世界に来たら、ひとまず言っておいて損はない魔法の言葉。
【 名 前 】 ロゼッタ・イオリス
【 年 齢 】 15歳
【 体 力 】 35
【 知 力 】 70
【 敏 捷 】 21
【 幸 運 】 16
【 魔 力 】 60
【 火 】 -----
【 水 】 70
【 風 】 28
【 土 】 34
【 空 】 18
【 聖 】 -----
【 魔 】 5
…見れたじゃない。
鏡に映った自分の左下にパラメーターの表が現れた。
ゲームを通してこのパラメーターってやつはとても意味がある。
ロゼッタの記憶を探してもこの世界ではこのパラメーターの表示は【一般的にありえない】ということが分かった。
『見る』ことしかできないけれど、
これならだいぶストーリーを有利に運べるのではないかしら…?
しばらくゲームから離れていたから記憶が曖昧なところがあるんだけれども、なるべく思い出してジークの恋が有利になるような展開に持っていこうと、私は気合をいれるのだった。
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