10.妄想するのは得意なんですけど、交渉事は苦手なんです!
よかったらツイッターでも
小ネタつぶやいていますのでフォローお気軽に☆彡
@sibainumaru11
生徒会室に連行されました。
…まじ、何で連行されたのか分かりません。
ストーキング調査中の私の行動が怪しかったのは認めるけれど、でもそれって王子様自ら腹心の従者二人を放って捕まえるほどじゃなくない? 私の認識が甘い??
「まずは生徒会室へようこそ、そう固くならずにくつろいでいいよ」
そう言ってキラキラ王子様は微笑みました。
いや、この展開でくつろげるほどわたくし肝が太くはないんですけれど…。あ、安心してください。手首の拘束はすでに解かれました(大事)。
生徒会室の応接セットに通された私は今、目の前の光景に圧倒されています。
にこやかな笑顔でソファに座る王子様とその後ろに立つ二人の従者(副会長コンビ)の圧が凄い。
とくにインテリ眼鏡の顔がやばい。めっちゃ眉間にしわ寄ってる。手前と奥との温度差で風邪ひきそう。
「まずは、ごめんね。ユージンが君を問いつめるような事をしてしまって」
「あ、ええと、はい」
たしかにカチンと来たことは確かなんだけれども、王子様が謝ることはないのではないかしら。ていうかぶっちゃけ困る。
「私が、君にコンタクトを取りたいと言ったせいで、『まずは不審人物じゃないか確かめてから』って生真面目に業務を全うしただけなんだ。許してやってくれないだろうか」
はあ…まあ、そういうことなら。
でもそもそも後ろの二人、私と王子が話すことすらあんまり賛成してなさそうだけれど…特にメガネの方。
あらためて説明すると、メガネの方は火魔法の攻略者、副会長のユージン・メイナード。
もうひとりの脳筋の騎士の方は水魔法の攻略者、同じく副会長のロイド = イーズデイル。
生徒会長、副会長、という役職に就いてはいるものの、それはそのまま王子とお付き&護衛ということは公然の秘密だったりする。
彼らは卒業後も王宮に勤めて第二王子アルフレートのお付き兼護衛になるし、元々幼いころから決まっていた王子のご学友っていうこと。
うん、知ってた。設定資料集読んだし。
「事情は理解いたしました」
ちらりと当人を見れば憮然とした顔をしている。
まあ、守るべき主が前線に出てきてしまって自ら交渉始めたらお付きは困るよね…。
「ありがとう。はいユージンも、ほら謝って」
「……失礼な事をしたと反省している。すまなかった」
アルフレートに促されてユージンは、苦虫を噛み潰したような顔で謝罪を口にした。
うわー、めっちゃ言いたくなさそう。でも王子の事は守るべき大切な主君としてちゃんと尊敬してるから言うこと聞くんだよね、偉いね!
(それはそうと苦虫ってそもそも何の虫なんだろう、噛み潰すって気持ち悪い表現だね)
「分かりました。謝罪を受け入れます」
って言うしかない。王子様の仲裁だしね。
私とユージン先輩のバトルは決着が付かなかった時点で引き分けだし、ほんと王子様の一人勝ちで間違いないねこれ。
ユージン先輩はめっちゃ不満気な顔しているけれど、まあ彼の年齢でこんな風に自制をできるのは十分立派だと思う。
私? 私はもちろんできますよ、なんせ脳内はアラサーですから。
推しの事でなければ素直に水に流します。(推しは別)
彼らとは一回り以上違うし、仕事で辛酸舐めつつ和解したり承諾したりすることなんかはよくあることだからね!
あ、ちなみに私はユージン先輩嫌いではないですよ、萌えポイントもしっかり存じておりますし! デレた時が貴重なんだよね!
なんせ私の推しはジークだったからユージン推しのオタク仲間とも交流があってね! トゥイッターで人の萌え語りを見るの好きだったので、ちゃあんと把握してます!
「よかった、ではこれで仲直りとしよう。二人とも異論はないね」
「はい」
「はい」
渋い顔をしたユージンと、苦笑したままのロイドを従えて一人勝ちしたご本人様は後ろに立つ二人にそう声をかける。
おお、すごい。
忠犬わんこを2頭従えてるボスって感じ。なのにめっちゃ優雅!
これが本物のロイヤルスマイル。
ていうか、アルフレートってこんなキャラだったっけ。
ゲームプレイしていた時はこんなボスみたいに部下を使ってたイメージ無いんだけど…。普通に責任感が強いキラキラ王子様だったと思うんだけど…?
ヒロインか!? ヒロイン相手じゃないからか!?
ならば仕方がない。
ヒロインの【格】というものがあるのなら、ロゼッタではあの二人には敵わない。
【可愛い妹】としてなら十分いけると思うんだけどヒロイン力と言われるとね…。
ピンチになればヒーローが現れ、天に祈れば奇跡が起きる、そんなミラクルな力は私にはない。ゲーム後半で起こるいろんな事件を解決するメインキャラと違ってロゼッタは不穏なストーリーの序章に医務室に運ばれる系の配置なので…。
というか、ちょっとまって。
そうなるとアルフレートの情報を急ぎで修正しないといけない。
ヒロインとヒロイン以外とでは若干ニュアンスが違うなら対応とかにも気を付けなくちゃいけないんじゃない?
うーむ、まいった。実はアルフレートはメインの推しじゃなかったから実はあんまり修練を積んでいないんだ…。
何の修練って?
キャラの心理を理解する掘り下げのことですが。
「このキャラだったら、こういう時、こんな風に考えてこう対応する」っていうキャラの把握。オタク同士で使われる言葉でいえば『解釈』。よく『解釈違い地雷です』とか聞いたことない? あ、ないです?
二次創作をする上でそのキャラの心情・行動心理なんかを自分なりに噛み砕いて再構築して物語を作るよね。その作業のことなんだけど。
…え、普通はしない? え?? そうなの?
私、骨の髄からオタクなのでちょっと分からないですね~。
と、脳内会議、方向性が迷子になっていた。すまない!
でもたぶん現実時間にして10秒ほどだったと思うので許してほしい。
目の前の出来事に集中しよう、集中!
そう、私がここでこうして連れてこられた件について。
「単刀直入に話すとね、君のリサーチ能力を買ってるんだよ」
「…はい?」
そうアルフレートが口火を切った。
何だって? リサーチ能力??
「君は私達の情報をかなり正確に把握している。違う?」
「……」
違いません。
いや、でもヒロインズと違って攻略者の皆さんの事はゲームで仕入れた内容です。
でもそれは私が自分で調べたわけじゃないし、リサーチ能力と言われても違うのでは。
まあ、ぶっちゃけ知識量はすごいと思う。
だってオタクだし。
王子の質問に、YESともNOとも答えづらい。
全キャラのルートをクリアしたし、スチルもコンプリートした。攻略本によって、キャラの紹介イラストの絵師さんが違ったりしたから、攻略本もたくさん買ったし、ドラマCDも聞いたしキャラソンも集めた。
だってオタクだからね。とことんまで知識と情報を集めるよね。
なんなら王子の後ろで立っている脳筋騎士のロイドの乳首の色だって知っている。
スチルでみたからね! 剣の訓練の後に上半身裸の状態で出会ってしまった! うっかりドッキリ! お色気ときめきスチル! きゃっ!ごめんなさい!ってやつ。
ごめんなさいオバサンくさかった! 許して。
でも逆に言えばゲームの主要メンバー以外の事は何一つ知らない。
頭が特別良いわけではないし、運動ができるわけではない。普通の一般人だ。買い被りにもほどがある。たとえばもし万が一王子の密偵(?)なんかに起用されたとしても無理だ。
どうしよう。
なんて答えればいい? ゲームのことは説明できないし。
「…ええと、私はどこにでもいる普通のお兄ちゃんが大好きな妹なので、リサーチとかそういうことはよく分かりません」
っあああああ、腹芸のできない私!!!!!
話せないことを伏せたらこんな変な回答がでてきちゃったよ!!!
あってる? これあってる????
「それはもちろん、知っているよ。この間の新入生歓迎会で見たからね」
ぎゃー! やっぱりそこに注目しちゃうの!?
第一話参照。(メタ)
「度胸も行動力もある、おまけに集中力もあるね」
なに、なになんなの? 褒められてるの???
(頭かくして尻隠さず、だがな)
おい! ちょっとそこのメガネ! 小さい声でつぶやいただろ聞こえたぞ!!
(ユージン、その事実は今じゃない)
今までずっと無言を貫いていたロイド先輩まで何か言ってる!!?? 今じゃないってどういうこと!?!?
「そんなに難しく考えることじゃない」
後ろの二人のつぶやきは無視ですか、王子様!
なにこれ多勢に無勢。私の顔面の筋肉がけいれん起しそうです。
笑顔を固定って難しいね!
「実は、うちの生徒会が人手不足でね、人材を補充したいんだ」
は? 生徒会?
なんか思ったより普通の話を聞いた気がする。
いや懐かしいフレーズ??
「ちょうど会計職が足りないので君をスカウトしたいんだよね」
なんだって?? 会計??
嘘だろ。
生前でもスカウトとか受けたこと無かったのに!?
(エクセルとかネット環境が無いと無理ですーーー!そろばんとか使えないですし!)
私はどうやら今、ヘッドハンティングを受けています!
むしろ日本社会で受けたかったよ! 転職世知辛いからね!
いやでも困るし、待って、私超忙しいし、いろいろ他にも調べなくちゃいけないこととかあるし…、ある、し????
まてよ???
調べなくちゃいけない相手ってむしろ『ここ(生徒会)』に揃ってないか??
心の中でゲンドウポーズを決める。
自分と全く接点のない上級生と、『ここ(生徒会)』で接点が作れるのでは?
キャロル先輩は生徒会に在籍していないけれど、この間の大釜事件でキャロル先輩を助けたロイド先輩は副会長だし、ナターリア先輩、ユージン先輩も生徒会メンバーだ。
だが迷う。
私は基本的にまじめなんだ。
社会人として、一度引き受けた仕事はちゃんとしなくてはいけないと思っちゃう。
正直兄のことがなかったら、生徒会の仕事なんてあまり興味がない。
むしろ重圧過ぎていやだ。
あと会計職なんて数字苦手なのであんまりやりたくない。
「………」
沈黙。
さっきの脳内長文演説の倍以上の時間を使ったきれいな沈黙です。
王子のスカウトだぞ、何を黙っている、みたいな無言の圧をメガネから受けてます。うるせえ黙ってろ。
「もちろん、見返りも用意しよう」
「!」
まって、やめて。情報増やさないで。
いやでも気になる。
脳内で情報を絶賛修正中のアルフレートが何を見返りとして出してくるのか興味ある。私は交渉事とかへっぽこだから、負ける気しかしないけど。
いやでもわたくしの望みはお兄様の恋愛成就に全振りしているので、生半可なものでは釣られなくってよ???
「私に協力を求める権利」
え、と。なに…それ。
「アルフレート!?」
「殿下っ!」
慌てるお付きの二人に『待て』のハンドサインと笑顔で黙らせる王子様。
いやお付きの二人めっちゃ焦ってるじゃん、しかも軽く怒ってない? あれ。
「どういう意味ですか?」
いやもうどういう意味なのほんと怖い。
「言葉の通りさ、君が必要だと思った時に『私が協力してあげる』っていう権利だよ。そうだね…期間はこの学園に在学中、範囲は学園内。回数は一年に1度にしようか」
あ、よかった。わりと絞られた。
いや嘘です、よくない。
「何にでも…?」
「うん、何にでも使っていい」
はああ?
なにそれ、まじでヤベエやつじゃん! むしろ怖い。
何をやっても【王子のお墨付き】がもらえるってこと? すごい有利になるんじゃない、いろいろ。
「もちろん限度はあるけどね」
あ、はい。それはそうですよね。
人殺しとかは無理だし、国庫を傾けるほどの出費、とか。いやそもそもそんなことを頼んだりしないけど
いや、でも、うーーーん。
じゃあたとえば私が『アイス買ってきて』って言ったら買ってきてくれるの? 王子様が?? そんなことある??
そもそも、この王子様が私にそこまでしてくれる理由って無くない?
うまい話には裏があるんじゃない?
私騙されてない?
「少し、考えさせてもらってもいいですか」
時間が、時間がほしい。
一度持ち帰って社で検討してからお答えしちゃダメ???
「できれば、今答えがほしいんだけど」
そう言って食えない王子さまはにっこりと笑った。
えええ、困る。
困った。どうしよう。
****
本作を面白いな、続きを読みたいな、と
思ってくださった方はぜひ、この下にある広告の下の★★★で評価をお願いします!
執筆の励みにさせていただきます!
よろしくお願いします╰(*´︶`*)╯




