1.目覚めは怒りの中で
初めて投稿いたします。
更新は不定期になりますがよろしくお願いします!
「お兄様を馬鹿にしないで!」
私のその声は絢爛豪華なこの魔法学園のホールに響き渡った。
観客席から突然響き渡った私の声に、舞台上の演者も観客席の人間も皆一様に静まり返り、全員の視線が私に集中する。
(((え、誰!?)))
ここにいる生徒全員がそう思っただろう。
うん、すごく分かる。
私も今、同じこと思っているから。
突然の大声に驚いているのは私も同じだ。
私の名前はロゼッタ・イオリス!
イオリス伯爵家の令嬢。
けれど心の中にもう一人の人格がある。
何で私は今ここでこんな風に大声を上げたのか。
私はどこにでもいる普通の日本人で、アラサーのオタクの社会人だったはずなのに。
突然もう一人の人格が頭の中にあふれ出して私は色んなことを『思い出した』
この顔ぶれ、この背景、このシチュエーション。
私を囲む人たちはどう見ても日本人じゃない。
記憶のハレーション。
全く初めての場所だというのに、なぜか知っている。
デジャヴというか、なんというか…
そうだ、うん。
これゲームの世界だ。
知っている。私は全部知っている。
だって何度もプレイをしたんだもの。
奥歯がぎりりと鳴る。
これは魔法学園二年目の春。
新入生歓迎パーティーでの出来事だったはず。
私が何度も繰り返してプレイした乙女ゲームの世界、『シャインクリスタル~祈りと魔法の国』のワンシーン。
伝統ある魔法学園、の舞台に立つヒロインと攻略相手、そして脇役たち。
絢爛豪華なホールで新入生歓迎パーティーをしてくれるやつ。
なんでこんなVRゲームみたいになっているのか分からないけれど。
舞台に立っているのはゲームのヒロインとその相手役。
そして『わたくし』のお兄様。
新入生が『わたくし』
上級生が『お兄様』
わたくしは怒りに震えて舞台上のお兄様を見上げている。
でもね、私このイベント好きじゃなかった!!
『ロゼッタ』の怒りと『私』の怒りがみるみるうちにシンクロしていく。
基本的にビビリな私はこんなに大勢の人間の視線を浴びて発表なんてできる方じゃないけれど、今はぐらぐらと煮え立つ様な怒りに支配されていた。
だってこれはね、私の一押しキャラの『ジーク・イオリス』がね、登場キャラクター全員からプークス!って失笑されるイベントなんだよね!許せん!
舞台上には、お姫様役のヒロインと「本当は王子の役をやるはずだったのに、遅刻してラストシーンだけ登場して代役のお兄様を押しのけた」攻略者と「押しのけられてみっともなく尻もちをついた」お兄様がいる。
その構図を目にしたとたん私の脳内は瞬間的に沸騰した。
『私』と『わたくし』は別人格??
そんなこと知るか
そんなこと知りません。
怒りが私の背中を押す。
なんで今自分がこんな状況になっているのか、という至極当たり前な混乱を強引にねじ伏せて私は軽やかに舞台に飛び上がった。
『私』と『わたくし』の目的はただ一つ。
ヘタレお兄様の幸せを守ること!
「貴方は、わたくしの大切な騎士なのですから、こちらの姫様に求愛なぞしてはなりません!」
一様にぽかんとする主要人物を前に、即興でアドリブを入れて兄の手を掴む。
舞台で腰を抜かしていた『お兄様』は目をまんまるにして私を見上げた。
「ロゼッタ…!?」
緩くウエーブのかかった柔らかなブルーの髪に垂れ目がちな三白眼。
決して不細工ではないのに、どこはかとなく漂う負け犬感。
ああ、やっぱりそうだ。
私の一押しキャラ、
わたくしの大好きなお兄様、
『ジーク・イオリス』に間違いない。
ヒロイン二人とその6人の主役級キャラとの恋路を邪魔するお邪魔キャラ。
でもその全てのルートで恋は実らずに振られてしまうの。
ゲーム随一の不憫キャラ。
何の因果か分からないけれど、君が困っているのならば全力で私が助けよう!
「こうしてはいられません、『わたくしの騎士』! ここは逃げますわよ!」
私はその妹のロゼッタ・イオリス!!
公式の設定にもしっかり書かれているぱっつん前髪に縦ロール! 大きなお目めとリボンが特徴のお兄ちゃん大好きっ娘だ。
全校生徒にプークスされて、いたたまれずにすごすご退散するお兄様なんて認めない!
隣国のお姫様(?)っていうか求愛者に奪還された方がましだ!
私は兄の手を引いて舞台から飛び降り、一目散にホールから逃走した。
舞台をメチャメチャにした責任なんて取らないし、ぶっちゃけ知るもんか!
これっておきまりのシーンみたいだなって走りながら思った。
…男女逆だけれどね。
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