七十一、分け御魂
七十一
立ち上がったまどかがスマホを構える。そのままカメラで九十九神たちを写真に収めていく。
「……早く、早く!」
一体、二体。
……十体、二十体。
火の九十九神からのダメージが回復しきる前に、まどかは九十九神のすべてをスマホに封印しきった。
「はぁ、は。やった……の?」
ヒュッと風が吹く。いつの間ににか日は暮れていて、そうして。
「イザナミさま。お待ちしておりました」
最後に現れたのは、あの神主である。まどかを導くように右手を差し出され、まどかは思わずその手に自分の手を伸ばしていた。
「ならぬ!」
しかし、まどかを引き止めたのは康仁である。康仁はまどかの左手を掴み引き寄せ、背中に庇うように隠す。
「オマエはあちら側の人間ではない」
「皇子さま……私今、無意識に……」
康仁の言葉にようやくまどかは我に返る。
神主がふっと笑った。
「イザナミさま。貴女はご自分が『分け御魂』だと気づいているのでは?」
つまり、まどかは未来の世界と平安の世界の両方に魂が存在している。あるいは。
「今の貴女さまは人間ではない、魂だけの存在。違いますか」
「私……そんな……」
言われてみれば、平安に来てから約四ヶ月、まどかの体に『変化がない』。一番分かりやすいのは髪の毛だ。
まどかの髪の毛は桜色に染められている。だというのに、根元の髪の毛が黒く生えてくることがなかった。
つまりそれは、まどかの体が『普通ではない』ことを示すには十分だ。
「さあ、イザナミさま」
神主が今一度まどかをいざなう。
迷いを見せるまどかに、康仁はまどかの手をぎゅっと握った。
「オマエが例えなんであろうと、俺たちの絆は変わらん。違うか」
「皇子さま……」
康仁の奥で晴明が詠唱を唱える。黒雲がそれを補佐し、康仁が時間稼ぎをする。
「皇子さま! 準備が整いました!」
晴明が叫ぶ。
康仁はまどかの手を引き走った。向かうは鳥居である。出雲大社の鳥居だ。
「お、皇子さま、なにが……?」
「今日は新月」
それだけで、まどかは全てを悟った。晴明たちはこのまままどかを未来に帰すつもりだ。
出雲大社の鳥居を見やる。鳥居の向こう側には見慣れた景色。未来の世界が広がっている。
「待っ、待って。私、まだ……」
「あとは俺たちがなんとかする」
「でも」
「あの神主の狙いはオマエだけだ。オマエが未来に帰れば、手は出せまい」
走る、走る。
神主が追いかける、晴明と黒雲が足止めする。
九十九神は本当に全てを封印できたのだろうか。
そもそも、こんな別れかたは急すぎる。
「皇子さま、私まだ帰れません!」
「いいや。オマエはここで帰るんだ」
ぎゅっと手を引っ張られて、鳥居の前に
立たされる。
あと一歩踏み出せば、まどかは未来に帰れる。
あれ程焦がれた瞬間だというのに、その一歩が踏み出せない。
康仁が笑う。
「見ろ」
捲りあげた左腕に、あのアザはない。
「呪い……解け――」
まどかが安堵から油断した一瞬である。
康仁はまどかの肩を目いっぱい押し、まどかは背中から鳥居をくぐった。
なんで?
まどかが口にするまでもなく、康仁が笑って答えた。
「好きだからだ。まどか」
康仁がまどかの名を呼んだのは、これが初めてである。
そうしてまどかの体に電気が走る。
バリバリっと響いたのが、雷鳴だったのか霊力だったのか、まどかにはついぞわからない。
気づいた時には、まどかは『そこにいた』。
道の真ん中、あの日、あの梅雨の散歩道に、まどかは佇んでいた。
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次でラストになります。本日中に更新予定です。
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