表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/72

六十八、写真

六十八


 焼けるアスファルトの熱も、忙しい毎日も。今思えば、全てが充実していたに違いない。

 未来での思い出を夢に見たまどかは、ぼうっとくりに立っていた。


「まどか、焦げるぞ」

「あ、あ。はい」


 今朝は栗ご飯に、デザートには栗のぜんざいを作る。

 久々に手に入った魚は、たっぷりのキノコとともに酒蒸しにする。

 味付けはシンプルに酢とひしおだ。


「まどか、悩みか?」

「悩み……まあ、ちょっと」


 正盛はまどかが巫女だということは知っている。しかし、未来から来たことまで知っているとは限らない。だからまどかは、言葉を濁した。


「はー」

「珍しいな、まどかがそんなに悩むなんて!」


 豪快に笑う正盛には悪いが、今日ばかりはひとりにして欲しかった。





 朝からこんな調子であるから、康仁との食事中もため息ばかりであったし、晴明たちに膳を運ぶ時も心ここに在らず、だった。


「――い」

「……」

「おい!」

「わ!? 皇子さま!?」


 部屋にこもり、ぼうっとスマホを見つめるまどかに話しかけたのは康仁である。

 仮にもまどかの部屋なのだから、入る前に断るべきでは。内心でそう思いながらも、そもそもこの屋敷は康仁のものだ。居候のまどかがとやかく言える立場ではないと考え直す。


「どうかしましたか?」

「どうかしたのはオマエだ」


 康仁がまどかの真正面に座る。


「そのスマホとやらを眺めて、なんになる?」

「あー、これ。これはですね」


 ささっと画面を起動して、まどかはそれを康仁に見せた。


「ひと……そなた、人間も封印したのか!?」

「違います。これは写真。ほら、私も写ってる」

「……! オマエがふたりも……いや、三人……四人?」


 不思議そうに目を丸くする康仁に、まどかの表情が緩んだ。


「そうだ。記念写真、撮りませんか」

「とる? 写真? 俺はなにもやらん」

「いや、だから写真は」

「だから、『それ』は九十九神を封印するカラクリであろう?」


 説明しても埒が明かない。まどかは無言でカメラを起動すると、ぱしゃり。


「な、なにをする!?」


 康仁が立ちあがり、自身の体をくまなく見渡す。なにか『盗られた』ものはないかと。ぶわっと汗を吹き出して、康仁はまどかを見た。


「オマエ、俺になにをした?」

「写真に収めただけです。ほら」


 と、まどかは先程撮った康仁の写真を見せる。康仁はスマホを恐る恐る見やる。


「……俺がいる……?」

「はい。写真はそのひとの姿形を写し取る――記録に残す手段です」

「だが、俺の魂はとられてないぞ?」

「ふっ」


 思わずまどかは吹き出した。昔の――江戸時代にカメラが日本に伝わってきたとき、確か日本人は同じような反応をしたと聞く。いつの時代も変わらないのだ。


「魂はとりません」

「ではなにを『とった』のだ?」

「うーん。なんて説明したらいいのかな」


 結局、まどかは写真の仕組みを伝えられなかった。

 ゆえに、その日は一日中康仁に付きまとわれ、あれを撮れこれを撮れとせがまれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ