六十八、写真
六十八
焼けるアスファルトの熱も、忙しい毎日も。今思えば、全てが充実していたに違いない。
未来での思い出を夢に見たまどかは、ぼうっとくりに立っていた。
「まどか、焦げるぞ」
「あ、あ。はい」
今朝は栗ご飯に、デザートには栗のぜんざいを作る。
久々に手に入った魚は、たっぷりのキノコとともに酒蒸しにする。
味付けはシンプルに酢とひしおだ。
「まどか、悩みか?」
「悩み……まあ、ちょっと」
正盛はまどかが巫女だということは知っている。しかし、未来から来たことまで知っているとは限らない。だからまどかは、言葉を濁した。
「はー」
「珍しいな、まどかがそんなに悩むなんて!」
豪快に笑う正盛には悪いが、今日ばかりはひとりにして欲しかった。
朝からこんな調子であるから、康仁との食事中もため息ばかりであったし、晴明たちに膳を運ぶ時も心ここに在らず、だった。
「――い」
「……」
「おい!」
「わ!? 皇子さま!?」
部屋にこもり、ぼうっとスマホを見つめるまどかに話しかけたのは康仁である。
仮にもまどかの部屋なのだから、入る前に断るべきでは。内心でそう思いながらも、そもそもこの屋敷は康仁のものだ。居候のまどかがとやかく言える立場ではないと考え直す。
「どうかしましたか?」
「どうかしたのはオマエだ」
康仁がまどかの真正面に座る。
「そのスマホとやらを眺めて、なんになる?」
「あー、これ。これはですね」
ささっと画面を起動して、まどかはそれを康仁に見せた。
「ひと……そなた、人間も封印したのか!?」
「違います。これは写真。ほら、私も写ってる」
「……! オマエがふたりも……いや、三人……四人?」
不思議そうに目を丸くする康仁に、まどかの表情が緩んだ。
「そうだ。記念写真、撮りませんか」
「とる? 写真? 俺はなにもやらん」
「いや、だから写真は」
「だから、『それ』は九十九神を封印するカラクリであろう?」
説明しても埒が明かない。まどかは無言でカメラを起動すると、ぱしゃり。
「な、なにをする!?」
康仁が立ちあがり、自身の体をくまなく見渡す。なにか『盗られた』ものはないかと。ぶわっと汗を吹き出して、康仁はまどかを見た。
「オマエ、俺になにをした?」
「写真に収めただけです。ほら」
と、まどかは先程撮った康仁の写真を見せる。康仁はスマホを恐る恐る見やる。
「……俺がいる……?」
「はい。写真はそのひとの姿形を写し取る――記録に残す手段です」
「だが、俺の魂はとられてないぞ?」
「ふっ」
思わずまどかは吹き出した。昔の――江戸時代にカメラが日本に伝わってきたとき、確か日本人は同じような反応をしたと聞く。いつの時代も変わらないのだ。
「魂はとりません」
「ではなにを『とった』のだ?」
「うーん。なんて説明したらいいのかな」
結局、まどかは写真の仕組みを伝えられなかった。
ゆえに、その日は一日中康仁に付きまとわれ、あれを撮れこれを撮れとせがまれたのだった。




