六十七、広がるアザ
六十七
ヤマタノオロチを封印した晴明は、その場を黒雲に任せて康仁のもとへ走った。まどかも一緒である。
「皇子さま」
しかして、部屋に蹲るのは康仁である。
左手のアザを抑えながら、苦しそうに息をぜえはあしている。
「皇子さま、遅くなり申し訳ありません」
晴明が康仁に近寄って、なにやら呪文を唱える。すると、少しずつではあるが、康仁の呼吸が整っていく。だが、苦しそうであることには変わりない。
「せ、晴明さん。火の九十九神はいないのに、なんで……」
「ヤマタノオロチは災厄の根源。呪いはより深く、不幸はより悲惨に」
つまり、康仁にかけられた呪いが暴発している状況のようだ。
まどかは康仁の傍にしゃがみこみ、そのアザにそっと触れた。
「皇子さま……!」
今までのまどかであれば、康仁の呪いに対して無力であったに違いない。
だが、今は違う。まどかは自分がやるべきことを、考えるより先に感じ取った。
康仁の左手に意識を集中すれば、ぽうっとまどかの手のひらが光った。
かと思えば、康仁のアザの赤みがみるみる引いていき、康仁はパチリと目を開いた。
「オマエ……」
「大丈夫ですか」
「……オマエに助けられる日が来るとは」
起き上がる康仁を晴明が支える。まどかは力なく笑っている。
「アザ。また広がりましたね」
まどかが平安に来たばかりのころは服に隠れていたアザも、今では手の甲、手のひらまで広がっている。
痛々しい傷を撫で付けて、まどかは決意を新たにする。
「あとひと月の辛抱です」
「……別に俺は……」
「期待はしてないかも知れませんが。私は絶対に、呪いを解きます」
ぎゅっと康仁の手を握るまどか。
康仁はなにも言えなくなり、無言で顔を逸らすばかりだった。
ヤマタノオロチに破壊された屋敷の修理のため、まどかの部屋が当分康仁の隣となった。
「……ねむれない……」
ヤマタノオロチのせいなのか、康仁が隣の部屋にいるからか、まどかの目は冴えている。
そもそも、寝ずに三種の神器を見張っている晴明たちへの後ろめたさもあるのかも知れない。
「アザ……広がってた……」
普段康仁はアザをばれないように隠しているつもりだろうが、それがかえってまどかを困惑させる。
なんとかしなければと心ばかりが焦って、まどかにはなにもできそうにない。
「……皇子……さま……」
冴えていたと思っていても、やはり疲労は溜まっていたようだ。
康仁を回復させたあの力は、無意識で使ったものだが、それは思いのほかまどかの体力を奪った。
「……」
やがてまどかは静かに寝入り、そして久しく、未来での夢を見たのだった。
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