六十一、心の奥底と勾玉
六十一
沈む、沈む。
暗い心の底を抜けたその先の、さらに奥の奥。
真っ暗な心に、康仁はいた。
「ここは、どこだ?」
先程まで、熱田神宮にいたはずだ。もっと言えば、その鳥居をくぐり抜けた。
しかし康仁は今、無重力に漂っている。
「晴明!」
呼んでみるも、やはり返事はない。
ふと、青く光るなにかに気づく。
その光は、まどかを映し出し、あるいは晴明を映し出し、あるいは黒雲を映し出す。
「……!」
風の式神と同調したまどかが映し出された時、康仁の頭がズキンと痛んだ。
やがてまどかと康仁の心が重なって、康仁はまどかがどんな気持ちで九十九神と対峙しているのかを知った。
「馬鹿馬鹿しい……」
一点の曇りもない。まどかはただ、康仁を救いたいだけなのだ。
「!?」
しかし、なだれ込む。まどかと式神が強く強く同調して、まどかの精神が蝕まれていく。
当たり前だ。
まどかはイザナミ、九十九神はその子供。ならば、同調が行き過ぎて同化しても不思議ではない。
そして映し出された映像が消えて、康仁の目の前には勾玉が在る。
「俺は……」
馬鹿馬鹿しい。
まどかのお人好しには辟易する。だが、そんなまどかを救うには、康仁が火の九十九神を討伐しなければならない。
「力を貸せ」
伸ばした手が、しっかりと勾玉を掴み取った。
はっと目を開けた康仁に、まどかたちは驚きの表情を浮かべていた。
「皇子さま。ご無事でなによりです」
「ああ」
「消えてしまったから、もう会えないかと心配しました」
「消えた……?」
聞けば、康仁は急に消えたかと思えば、急に現れたのだという。
康仁が先ほど見たものは、夢だったのだろうか。
「雨の九十九神はどうした?」
「え……皇子さまがなぜそれを……?」
目を丸くするまどかに、康仁は確信する。先ほど見たものはすべて現実だ。
「いや。それより、怪我はないか?」
「あ、私は。晴明さんは少しだけ……」
まどかの視線を追って、康仁は晴明を見やる。服を切り裂かれ、所々出血も見られる。だが、どれも致命傷には至っていない。
「……すまない」
「いえ。皇子さまが謝ることでは」
晴明が笑む。
康仁の神妙な面持ちに、まどかはなにも言えなくなる。
「皇子さま。一先ず今日は、どこかに泊まりましょう」
晴明の提案に、康仁もまどかも黒雲も同意した。




