五十五、三種の神器
五十五
正盛との件を交わして、部屋にまどかと黒雲が戻ってくる。そのタイミングで、晴明が告げた。
「三種の神器を探しに行きます」
だし抜けに言われ、まどかは目を丸くするばかりだ。しかし、黒雲は知っていたようで、眉ひとつ動かさない。
「三種の神器が、九十九神に関係あるんですか?」
「はい。九十九神を討伐するために、必要になるでしょう」
現状、九十九神はまどかのスマホに封印している。そもそも、九十九神を封印出来るのはまどかのみだ。
三種の神器は、康仁が火の九十九神を封印するために必要なのだが、晴明はそこには触れない。
「三種の神器っていうと、伊勢ですか?」
「まどかどのは、そちらまで明るいのですね」
「や……でも、どれが何処にあるかまでは知らなくて」
未来では、それらを三箇所にまつっている。
八咫鏡はまどかの言った三重県の伊勢神宮に。天叢雲剣、別名・草薙剣は愛知の熱田神宮に、八尺瓊勾玉は皇居にあるとされている。
「伊勢神宮、熱田神宮。このふたつを訪れ、三種の神器を揃えます」
「……それが必要なら、私も行きます」
内心では納得していないのかもしれない。どこか、なにかがおかしい。
晴明と康仁、さらには黒雲はまどかになにかを隠している。そんな思いが拭えないのだ。
だが、それを口にしてしまえば、なにかが壊れそうな気がして、まどかはただ、晴明の言葉を肯定する他になかった。
「まどかさん。いずれ、三種の神器が役立つ日が来ます」
「うん……そうですね」
「はっ。オマエはつべこべ言わずについてくればいい」
励ましなのか、素なのか。康仁の態度がいつも通りなことだけが、妙にまどかを安心させた。
旅支度をする。
要所要所で公家の家に泊まるとして、携帯できる大豆ミートや干した果物は貴重な食料だ。
「まだかかるのか」
「はい、すみません。皇子さまがお好きな食べ物を入れたくて……」
とはいえ、康仁は好き嫌いも少ないため、どれもこれも持っていきたいというのがまどかの本音だ。
しかし、大荷物になれば自分が苦しいだけだと、保存性を重視して、干した野菜と少しの干し肉にした。
「よし」
「なにを悩む必要がある。別に、俺の好物でなくとも 、オマエの作るものなら――」
もごもごと言葉を濁す。
まどかは首を傾げながら、まとめた荷物を手に立ち上がった。
「晴明さんたちをお待たせしてますし、行きましょうか」
「ふんっ」
康仁の態度がコロコロ変わる。怒ってみたり、なにかを言い淀んだり。
それがなにを意味するのか、まどかには分からない。きっと、晴明たちとの秘密があるから、だから後ろめたいのではと、そんな的はずれなことを思ったほどである。
「晴明さん! 黒雲さん!」
荷物を抱えるまどかに、晴明の式神が走りよる。人型をした、紙で出来た式神だ。それがまどかの足元にちょこちょこと走り回るものだから、まどかの頬が緩んでしまう。可愛い式神もいたものだ。
「持ってくれるの?」
紙の人形がコクコクと頷く。まどかは素直に荷物を渡す。紙でできたそれは、見た目に似合わず力強く荷物を背中に担いだ。
荷物を担いだ式神が晴明の元に走る。まどかはそれを目で追い、自然と晴明の馬のような式神が目に入る。
「あれ。式神に乗るんですか?」
「はい。二箇所回るにはそれ相応の時間がかかってしまいますゆえ」
サッと晴明が身をかがめる。まどかを誘うように、式神へと促したのだ。
だが、それより先に康仁を式神に乗せるべきだと、まどかもまた、その場に頭を下げた。
「……いい。頭を下げるな」
少しばかり居心地の悪さを感じた。康仁は特別な存在ゆえ、まどかや晴明、黒雲たちとは相容れないのだと。そんな疎外感すら感じてしまう。
寂しさと妙な腹立たしさを抑えて、康仁が式神に乗る。康仁の後ろに晴明が、もう一体の式神にはまどかと黒雲が乗る。
「では、行きましょう」
晴明の掛け声を合図に、式神が空高く翔け上がった。
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