五十三、生贄
五十三
「時に晴明」
康仁が晴明に話しかける。
「なんでしょう」
食事も終わり、まどかが膳をくりに運び出したところを見計らい、康仁は口を開いた。
「九十九神は……火の九十九神は本当に俺に封印できるのか?」
康仁にしか出来ないこと、それは唯一、火の九十九神を封印することである。
まどかは火の九十九神の前では無力だ。体から力が抜け、なにも出来なくなる。
「はい。間違いありません」
「……そうか……しかし、どうやって封印するのだ?」
覚悟は決めたはずだった。まどかを未来に帰すためにも、康仁は九十九神を封印しなければならない。そして、その身に受けた呪いが解けてこそ、まどかは自由を手に入れる。
「最近は体調もいい」
「……それは、まどかどのがこの世界に来たからでしょう」
「……と言うと?」
晴明の顔は相変わらず微笑んでいる。晴明は普段、表情をあまり変えない。いつも微笑を携えて、まるで考えが読めないのだ。
「まどかどのがこの世界に存在することで、九十九神――いえ。霊力そのものがまどかどのに縛られ、また、まどかどのを縛るのです」
よく分からない。
晴明の言いかただと、まどかに全ての霊力を操る権限がありながら、その実まどか自身が霊力に操られている、と取れる。
「アイツは一体なんなんだ?」
「……生贄」
「……は?」
「九十九神――いえ。神に選ばれた生贄。わたしはそう解釈しています」
がたた、と康仁は立ち上がる。
「詳しく説明しろ! 生贄!? なんだそれは!」
声をあららげる康仁に、しかし晴明は冷静なままだ。
「生まれ変わりという時点で、まどかどのの運命は決まっていました。九十九神のために生きる」
「だったら……今すぐアイツを未来に帰せ!」
「それはまどかどのが決めることです」
ふうふうと康仁の息が荒くなる。
「そもそも、イザナミへの罰は、終わるものなのでしょうか」
「なにを……」
「犯した罪は、未来永劫許されない。そう言われてる気がしませんか」
「馬鹿を言うな!」
そんなこと、あってたまるか。
まどかは九十九神の封印を成し遂げられない。しかし、九十九神を封印出来るのはまどかだけ。故にまどかは、生涯をかけて罪を償う。九十九神を討伐するという罪だ。
一日に三千の人間が死する世界を作ったイザナミの罪は、未来永劫許されない。イザナミの呪いにより人間が死んで、さらには九十九神という異形までもが世にはびこるようになってしまった。
「だからって……!」
生まれ変わりに罪はない。だが、九十九神を封印出来るのもまた、生まれ変わり以外に存在しない。
晴明はそれを、『生贄』と称した。
「俺が火の九十九神を封印する。アイツが残りを。それでアイツは未来に帰る。晴明、アイツには今の話はするな。いいな?」
念を押す。
念を押さなくとも晴明が康仁との会話をまどかに話したことはない。
それでも、康仁は不安をかき消すために、晴明にキツく言いつけてしまったのだ。




