四十八、まどかの右腕
四十八
「ご無事ですか、まどかどの」
晴明がまどかに駆け寄る。しかし、まどかの右腕はだらりと下がり、動く様子はない。
先程は無我夢中でスマホを操作していたが、火事場のバカ力といったところであろう。まどかの右腕は、動かない。
「右手に傷を……?」
「いえ……式神のなかにいるときに、右腕を千切られて……」
脂汗もひどい。顔は真っ青だ。
晴明の危惧していた事が起こった。まどかの同調の能力の弱点は、同調しすぎるところである。
最悪の場合、このまま右腕が動かなくなるかもしれない。
「ひとまず、部屋に上がりましょう」
晴明に促され、まどかは立ち上がる。そのはずだったのだが、かくん、と膝が折れてしまう。
「あれ? おかしいな」
何度も何度も立ち上がろうと体に力を入れるのだが、まどかの体は言うことをきかない。
見かねた康仁が、まどかを抱き上げた。
「や! 皇子さま!?」
「もたもたするな。屋敷のものに、オマエが巫女だとばれるだろうが」
康仁の威圧にまどかは負けた。大人しく担がれ、まどかに宛てがわれた部屋へと移動する。
部屋につき、布団に寝かされる。晴明と黒雲は神妙な面持ちだ。
「まどかどの。その右腕ですが」
晴明が切り出すも、まどかはわかっているように、
「もしかしたら、このままかもしれない。そうですよね?」
晴明は小さく頷いた。まどかも馬鹿ではない。自分のことくらい自分でわかる。
しかし、康仁は声を荒らげる。
「そんなことは聞いてないぞ!」
「皇子さま。まどかどののお体に触ります。お静かに」
ぐっと言葉を飲み込んで、康仁はまどかを睨みおろした。
まどかは力なく笑っている。なにをへらへらと。
「オマエ、わかってるのか」
「わかってます。でも、まだ動かないと決まったわけじゃない」
希望は捨てていないようだ。康仁はほっとする反面、まどかを危険に晒した自分を恨んだ。
いつだってそうだ。康仁は呪いのせいで多くを失ってきた。それが家臣や地位であったり、或いは友であったり。だが、それは仕方ないと諦めていた。諦める他なかった。
しかし、ここに来て康仁は、心の底から呪いを解きたいと思った。
「オマエの腕が治るまで、晴明にはこの屋敷にいてもらう。いいな?」
「皇子さま……? でも……」
「わたしなら構いませんよ。もとより、そうするつもりでいましたので」
かくして、康仁の御殿に同居人が増えた。晴明と黒雲がそばに居ると思うと、まどかも心強かった。




