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三十六、巫女の舞と陰と陽の気

三十六


 本格的な修行が開始される。

 まずまどかは、黒雲に舞を教わることとなった。

 舞は巫女にとって最重要なことなのだと黒雲は言う。


「え、と」

「こうです」

「こう……?」


 ぎこちなく体を動かすまどかたちを、遠目から晴明と康仁が見ている。


「黒雲の舞はいつ見ても美しいな。それに引きかえ、アイツときたら……」


 康仁の嫌味を、晴明は笑って受け流す。


「皇子さまは、まどかどのが気になりますか?」

「気になる? まさか……」


 とは言いつつも、康仁の視線の全てはまどかに注がれている。先ほど黒雲を誉めていたときでさえ、まどかを見ていた。


「まどかどのは素直ゆえ、なかなか鈍い所もあります」

「ああ。確かに鈍いな」

「皇子さまは、少しはまどかどのを見習って、素直におなりになるとよいかと」

「俺はそんなにひねていない」


 晴明は「そうですか」と微笑むだけだった。





「うまくいかない!」


 黒雲に指南さてから約一時間、しかしまどかは一向にうまくならない。

 休憩がてら黒雲に愚痴を零せば、黒雲はうーん、とうなった。


「私も最初はそんなものでしたよ」

「そっかぁ。一朝一夕にはいかないですよね」

「はい。ただ、晴明さまに助言をいただいたことを思い出しました」


 その言葉に、まどかは前のめりになる。黒雲の一言一句を聞き逃さんと、耳を傾けた。


「陰陽道は陰と陽の調和故、その力の流れを感じ取る……」

「陰と陽の調和……」


 スっと胸に染み込むようだ。

 まどかは目を閉じた。目を閉じたのに意味は無い。無いのだが、もしかすると本能で閉じたのかもしれない。

 余計な情報を除外して、耳でも目でもなく、感覚で――五感で陰と陽の気を感じ取る。

 ビリビリ。チリチリチリ。

 霊力の流れだ、きっとこれが、陰と陽の気に違いない。

 ばっと目を開ける。


「まどかさん……」


 先程までまるで出来なかった舞が形になっていく。

 気の流れに身を任せ、まどかは舞った。

 蝶のように、木の葉のように、風のように、空のように、凪いだ湖面のように。


「ほう……まどかどのは、もうコツを掴みましたね」

「……ああ……」


 黒雲の舞とはまた違う、康仁はまどかの舞に釘付けである。


「まどかさん、きれい……」


 ほうっと黒雲が息を吐き出す。晴明はほほ笑み、康仁は惚けている。

 教わった一通りを舞うと、不思議とまどかの心は研ぎ澄まされた。今なら、どんなに遠くにいる九十九神でも感知できそうだ。


「黒雲さん、晴明さん、皇子さま……?」


 まどかを注視し固まる三人に、まどかは不安になる。なにか粗相でもあっただろうか。


「まどかどの。さすがは特別な巫女ですね」


 晴明が立ち上がり、まどかの元へと歩く。そして自身の懐から呪符を取り出し、式神を顕現させると、


「では、次の段階です。式神を使って実践に移りましょう」


 まどかもまた、スマホを取り出すと、式神を顕現した。

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