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三十四、神話の続き

三十四


 早急に晴明を呼び出して、対応策が練られることとなった。


「火の九十九神も、焦っているのかと」


 晴明の所見に、だが康仁は本当のことが言えない。

 九十九神は康仁を『イザナギ』だと言った。それがもしかすると、今後の役に立つかも知れないとわかっていながら、言い出せなかった。


「皇子さま、どうかなさいましたか?」


 いち早く異変に気づいたのはまどかである。康仁が今朝から妙な雰囲気であることを、なんとなくは感じていた。その違和感が、この話し合いで確信に変わった。康仁はなにかを隠している。


「別になにも……」

「なにもないにしては、挙動がおかしいですよね?」

「オマエ、誰に向かって……」

「火の九十九神となにかありましたか」


 図星を突かれ、康仁が一瞬だけたじろぐ。それみたことかとまどかがため息をつくと、康仁はまどかを睨み見た。


「俺がないと言ってるのだから、なにもない」


 明らかに声音が上ずっていた。加えて、視線もそらしているとなれば、康仁がおかしいことは晴明にも、黒雲にも明らかである。

 一拍おいて、晴明が口を開いた。


「もしや、『なにか言われましたか』?」

「……なにか、とは……」

「例えば、イザナギに関する情報です」


 康仁はばっと晴明を見る。穏やかに微笑む様子は普段とかわりないはずなのに、どこか恐怖を覚える。

 一体この男はどこまで知っているのだろうか。


「まどかどのも。聞いてください」


 やがてゆっくりと、晴明はそれを口にした。

 康仁が何者で、なぜ火の九十九神に狙われるのか。


「皇子さまはイザナギの生まれ変わり。ゆえに火の九十九神に呪われています」

「え。っと、晴明さん?」


 まどかだけが飲み込めない。黒雲はまるで最初から知っていたかのように微動だにしない。


「神話の続きをご存知ですか」

「神話の……?」


 語る。

 イザナミの死後、イザナギは黄泉の国までイザナミを迎えにいった。しかし、イザナミの変わり果てた姿を見て、イザナギは逃げ帰る。

 そうして黄泉とうつしよの別ができて、イザナミの呪いにより一日に三千の人間が死する世界が成り立った。

 ただし、イザナギはそれに抗うために、一日に三千の人間が生まれる世界をつくったと言われている。


「喧嘩別れしたイザナミに、なぜ近寄るのか。火の九十九神のいわんとしているところは、そこです」


 晴明の声に一切動揺はない。あわれみも。

 まどかは頭が混乱した。まどかと康仁には目には見えない因縁があるようだ。

 ふたりともあの神話の神の生まれ変わり。しかも喧嘩別れした。


「まどかどの……黒雲、まどかどのを別室で休ませてください」

「はい。晴明さま」


 黒雲に連れられて、まどかは康仁と距離をとる。

 康仁は自分をどう思っているのだろうか。

 康仁の心が、わからない。

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