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魔女の使い魔  作者: 自動機械鮎
第三章 太陽が開きし港湾
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第十一話 追憶

ちょっと短めかな?と思いつつも更新。主人公の生前について言及するのはここのみの予定です

 それはいつかの記憶。

 此処ではない何処か、今ではない何時かの異なる世界に生きた、一人の夢追い人の記憶。


「人は誰しもが傷つけ合うものだ。それが嫌なら一生独りで生きるといい。傷つけて、苦しめて、痛めつけた先にしか、君の求める本物はないよ?」


 それを聞いてまず最初に思ったことがひとつ。


「いや、大切な人なら傷つけちゃダメじゃないですか?」


 先生はきょとん、としたあと、「それはそうだ」と可笑しげに口を大きく開けて笑った。

 あんまりにも笑うものだから吸い込んで肺に残っていた煙草の煙が、詰まって咳き込んでいたのを今でも覚えている。

 煙草が似合うカッコイイ大人の女性。

 それでいてどこか愛嬌があるからとっつきやすい先生。

 それが俺の印象だ。

 それに倣おうとして煙草を吸ってみたものの、一度吸って「あ、これダメだ」となってその煙草が死ぬまで埃をかぶることになったのは苦い思い出だ。


「それでもきっと君は大切な人を傷つけるさ。だって君は目的のためなら手段を選ばない人種だろう?」


「……………」


 その沈黙は肯定と同義だった。

 確かに、俺は結果さえよければ他は何でもいいというわけではないが、優先順位はハッキリさせておくタチだ。

 必要なら如何な犠牲であろうと払える覚悟はあるし、そうできてしまう人間だと俺自身がよく知っている。

 どれだけ苦悩しても、その結末がどれだけ悲惨なものであったとしても、最後には決断できてしまう人間。

 それが俺と言う人種だ。

 だから自他を傷つけることが理想へとつながるのなら、俺はきっと迷うことなくそうするだろう。


「頑張ったからと言って、君の望んだモノが手に入るとは限らない。それでも、苦しんで、血反吐を吐いて足掻いたその道のりには。君が描いた軌跡は、きっと価値あるもののはずだ」


 そう言って優しく微笑んだ恩師の笑顔を今でも覚えている。

 まあもっとも、と一転して呆れた表情になると、


「君の願いはいささか大それた物ではあるがね。なんせ、歴史上多くの偉人、賢人、聖人といった者たちが追い求め、決して叶わなかった大望。それが君の願う〝永遠に損なわれない物〟だ」


 諭すようにそう言った。

 そう、絶対に壊れない物、永久に不滅の物、世界が滅びても失われない不毀ふかくの物こそを、俺は望んだ。

 別にこれといって大層な理由があったわけじゃない。

 きっかけなんて、小さい頃に大事な物を無くしてしまったぐらいのよくある出来事だったと思う。


「まず、物理的な物ではあり得ない。どんな物でもいずれは風化してしまうのだから」


 滅びることを嘆いたわけではない。

 人はいずれ来る死という終わりがあるからこそ、懸命に今を生きていくのだから。

 そして俺はそれを美しいと思った。

 そのひたむきさも、醜さも、美しさも、穢れも、その全てを尊い物だと思い、悶え苦しみながらも最終的には愛したのだから。

 だから、人間に永遠を求めたわけではない。

 ましてや、人間たち(彼ら)の救済なんて望むはずもない。

 俺はありのままの人間たち(彼ら)が好きなのだから。


「次に概念的なもの。まあ、価値観とか信念だったり、そういったものだが………これも難しいだろう。人の心も、在り方も、何もかも時間と共に変わってしまうものだ。悲しいけど、それはきっと嘆くことじゃない」


 けれどそれとは別に、俺は人として人生を歩んでいく過程で永遠を望んだ。

 ただ漠然と、〝そう在りたい〟あるいは〝そう在って欲しい〟と願った。

 何か確固たる理由も指標もなく、それを願ったのだ。


「まあ結論から言えば、君の願いが叶う可能性はほぼゼロに近い」


 それが俺という人間の最初で最後の願い。

 叶うことは能わず、叶えてもらえるなど期待したわけではない。

 ただ、それが在ったのならどれほど良いかと憧れた夢想のような願望。


「でも、追い求めること自体に意味はあると私は考えているよ」


「………追い続けたその果てに、何もなくても、ですか?」


「たしかに君が辿り着いたその先には何もないのかもしれない。それでも、君が歩んだ道にはきっと意味と価値がある。きっと君が歩んだその道が、後に続く者の一助になるだろうさ」


 それは、たしかに意味あることなのだろう。

 でも違う、違うのだ。

 その時の俺はそう思った。

 意味が欲しいんじゃない、価値を欲したのではない。

 俺はただ、願ったものが、それだけが欲しかったのだから。

 名声も金銭も栄誉も報酬も褒賞も栄達も要らなくて、ただ願ったものが欲しかった。

 何かに意味を求めて願ったんじゃない、俺は()()があると証明したくて永遠を願ったのだから。


 そんな俺の心境を察したのだろうか、先生は優しく、しかし厳しく諭すように溢した。


「諦めなければ夢が叶うんじゃない。夢を叶えたやつが「諦めなかった人」として称賛されるんだ。不屈とは時として妄執にもなり得る。君の場合は特にだ。注意しておきなさい」


 その言葉は不思議なくらいすんなりと俺の胸に落ちた。

 諦めなければ夢が叶うなんてのは理想で幻想だ。

 それが現実ならこの世に敗者なんて人種は存在しない。

 才覚、財産、天運、努力。

 そういったものをすべて集め、かつ己の願いを諦めなかった者だけが「成功者」として讃えられる。

 そしてそう言ったやつに限ってほざくのだ。

 「これまで支えてくれたみんなのお陰です」「ただ運が良かっただけです」「諦めなければ道は開けるのです」などと無責任言葉を。

 それが一体どれだけの人間に絶望を味合わせるだろうか、成功者(彼ら)は考えたことなどないのだろう。


 結局のところ、願いを叶えるにあたって必要なものを全て揃えられなかった者の姿を人は「妄執」と蔑み、罵るのだ。

 そしてそんな人間の姿さえ愛おしいと思ってしまう今の自分には呆れるしかないが。


「ま、今は悩む暇があるなら突っ走れ!若いうちに行動できなくて将来後悔するよりは今できることをやっておけば後悔する量は格段に減る。せめて己の心にままに走り続けろ!燃え尽きるまで、な」


 「そうっすね、せいぜい無様に折れるまで足掻いてみます」と、そう言って笑い合った自分と恩師の姿を傍で見つめる。


 これが俺の青春。

 青くて苦くて甘くて酸っぱくて、そして道の途中のいくつかにタバコの匂いがした懐かしい青春。

 あるはずもないものを追いかけて追いかけて追いかけて、その果てに何も得られなかった青春。

 狂おしいほどに愛おしく、その後に待つものを何も考えることなく、ただただ走り続けて燃え尽きるまで駆け抜けた青春。

 得たものは何もなく、俺にとって意味あるものもまた、何もなかった。

 夢見た理想が虚構であると再認識し、この身を焦がすほどの情動が燃え尽きて、それから先は簡単だった。


 指標もなく、やりたいこともなく、ただ愛おしいものを観ながら命を浪費していくだけの惰性にまみれた日々。

 そうして平坦で、生まれた時から覚えていた息が詰まるような感覚だけがあの頃と変わらぬまま年月だけが過ぎた。

 そして三十路を少し過ぎて、呆気なくその人生に幕を閉じた。


 その人生に意味と価値はなかった。

 むしろ虚構を追い求めるだけの日々になにがあるだろうか。

 だから、人間としての俺は意味も価値も理想も勝ち取れぬまま死んだ、本当に世界にとって要らない人間だったのだ。


 嗚呼、それでも、もしほんのわずかでもこの人生に意味があったのだとしたら、それは理想を夢見たと言う事実そのものだろう。

 かつての俺が描いた夢が、俺とお嬢を繋いだ。

 その無意味な願いが、狂おしいほどの熱が、その身を突き破るほどの情動が、今の俺がお嬢を慕う理由の一つになった。

 だからきっと、完全な無意味ではなかったのだ。

 その結果が揺るぎ得ぬものであったとしても、人生そのものには意味がなかったとしても、きっとその理想には意味があった。


 かつての俺が夢見た理想。

 その情動と激情は既になく、今あるのは「かつて夢に見た理想があった」という事実だけ。

 だからかつての俺よ、いつかの俺よ、喜べ。

 お前の願いはようやく叶う。

 我が親愛なる主人が叶えるのだから。

「先生」は主人公にとってはキーパーソンですが、物語の進行に関しては特に関係ありません。あくまで主人公にもそういう人がいたんだ程度に受け取ってもらえれば充分です。本作では主人公の生前についてはあまり触れない傾向で行こうと思ってます。というか主人公の本質って生前だと読み取りにくいんですよね………泰平の世であったり、人の体だったりすると読み取りにくいですから


そして改めて言っておくと、本作では主要な登場人物にはそれぞれの「願い」があります。というかそれがテーマですからね。ちなみに四人を分類わけするとお嬢とシオンは願いを「持っている」側、ヘカテはこれから願いを「探し続ける」側、主人公はかつて願いを「持っていた」側ですね。


頑張りさえすれば夢が叶うなら世の中には金メダリストが万単位で溢れかえってるわけで。確かに夢を実現するには努力も必須だけどそれだけでどうにかなるなら世の中の少年少女は苦労しねえわな、というお話。だいぶ私情も入ってますが努力すれば夢は叶うとか言えるのは夢を叶えた人間の特権だと思ってる。イイっすねえ!才能ある人は!(※単なる作者の僻みです。存分に嘲笑ってもらって構いません)というのは冗談としておいて。要するに先生が言いたかったのは夢を叶えようと懸命に頑張った先には、夢が叶わなくとも努力したという事実に価値があるんだよ、ということ。ただ、それは主人公からしてみれば無価値なものだったのです。彼にとって欲しかったものは理想だけで、それ以外は満たされていたのですから。まあ、普通は満たされないけどそこが主人公の特異性(特別ではない)ですかねえ


あと今更ではあるんですけど感想とかくれてもいいのよ?普通に感想が欲しいとか評価が欲しいというのもありますが、それ以上に拙作についてどう思っているかとか知りたいし語り合いたい。なんで「ここが嫌い!」とか「ここってどういうこと?」みたいな些細なことでもいいんで感想くれると作者が調子乗って更新頻度増やすかもしれないです

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