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魔女の使い魔  作者: 自動機械鮎
第三章 太陽が開きし港湾
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第十話 慢心の代償

前話で書き忘れたので進化先の説明をば。


バジリスク

 ファンタジーにおいてかなりの知名度を誇る蛇。他の作品だとニワトリっぽくなったり、キメラになったりすることもあるけど本作においてはドラゴンルート(純ドラゴンルートではなく蛇龍っぽい感じのヤツ)。これ引いとけば余程のことがない限り、今後ハズレの進化先に当たる危険性はほぼゼロとなるルート。何気に「石化の魔眼」はユニークスキルだけど、これに関しては魔眼がユニークスキルとして分類されるため


ザルティス

 精霊種エスプリルート。バジリスク同様、これを選んでおけば後々に出る進化先でハズレが出ることはほぼないアタリルート。魔力特化である代わりに近接戦闘はほぼ諦めたほうがいい。というかコイツの場合、常時霊体化状態になるためにそもそも肉弾戦ができない。また、肉体が全て魔力に置換されてしまうため、毒の生成が出来なくなる主人公泣かせの種族


コカトリス

 バジリスクの雌雄体とか言われることが多いけど、本作では完全に別物。バジリスクは亜竜でコカトリスは混合獣キメラです。三つの進化先の中で唯一ハズレルート。というか混合獣キメラルートってまずアタリではないので。「石化の吐息」という当たれば身体が石に変えられるスキルを持っているが、実質「石化の魔眼」の劣化バージョン。アレ、防御不可能なので

『へえ………魔女の家系、それに幻想種ファンタズマ、ね。本当に、これだから人間という生き物は愛おしい。よくもまあそこまで狂えるものよなあ?』


 盗み聞きはあんまり褒められたものじゃないが、お嬢に関わることであれば聞いておく必要があるだろう。

 というか本当に駄目なら御母堂が結界を張るなりして盗聴を禁止するはずだし、あの人も俺のことは気付いているようだったから特に問題はないのだろう。

 ま、それはともかくとして。


 今俺はローレライ本邸の書庫に居る。

 ローレライ本邸の書庫はそれこそ図書館のような構造になっており、地下三階から上階四階までを本棚で埋め尽くしている。

 地下三階に浮遊板が二十枚置いてあり、書庫利用者はそれに乗ってアホみたく高い本棚の中を浮遊しながら見回る。

 中々に圧迫感のある部屋、というか空間だが、ここは完全に書物を収納するためだけに設計された空間なのだろう。

 もう樹海の中を探索しているような気分だが。


 浮遊板は人が数人一緒に乗っても問題ないくらいに大きいために俺が乗っても特に支障はなく、大体どこへ行きたいかを思い浮かべるだけで自動で動く仕組みとなっている。

 ふよふよと適当に彷徨っていると、目隠しをズラして本を読んでいるシオンが居た。

 つーか流石に本を読むときは邪魔なのね、その包帯。

 今更だけどその包帯って明らかに魔道具だよね。

 相当強い魔力が込められてるし、裏側には古代魔法文字とは少し違うのたうつような文字がびっしり書き連ねられてることから明らかにただの包帯じゃないし。


『よう、シオン』


「おう、お前さんも文献探しか?」


『まあな、魔法関連のやつ』


 探すのはおもに「呪術」関連の書物だが、それ以外の書物も探そうと思っている。

 『祝い呪う禍福の園』なんかは「呪術」関連の書物を見ていても開発できないものだったし、ほかの魔法関連の書物からなにかヒントが得られるかもしれない。


「魔法関連ならあっちだな。きちんとジャンル別に分けてあるから探しやすいぞ?魔法は魔法で固まっていたはずだ。その分量が多かったがな」


『だろうな、総量とか考えたくもねえわ。ま、サンキュ』


「おう」


 礼を言ってからふよふよとシオンが指し示した方へと向かう。

 一応本棚に名札がふってあり、それなりに見分け易くはなっている。

 ただ、魔法の属性ごとに分けているのではなく、攻性魔法か汎用魔法かなどといった魔法の使い方で分けられており、一つ一つのコーナーがかなり広い。

 それでも一つの分野に絞れなかった本は多いようで、例えば魔法実践(その他)というコーナーは本棚十個くらい占領するくらいに広い。

 まあ、適当に探して行きますか。


 魔法史、電動機械への魔法応用、魔法構築理論、神代に存在したと思われる古式魔法、属性魔法の分類およびその定義内容考察…………また随分と細々した内容の書物があるなあ。


『ん?「進化における肉体改変実験の報告と考察」?』


 ふと、目に入った本のタイトルを読み上げる。

 「進化」

 先程俺の悩み事の案件であり、そして解決した案件だ。

 この本はいわゆる参考書のようなものではなく、レポート、あるいは報告書のようなものを一冊の本に綴じただけのもののようだ。

 分野としては「錬金術」の類らしく、内容は「死霊魔法」で従えたスケルトンの進化時に「錬金術」を使用して体の部位を増やすというもの。


 ただ単純にくっつけたものから骨の構造上、できる限り無理のないようにくっつけたもの、明らかに邪魔な位置にくっつけたもの、骨の材質そのものから変質させたものなど、かなりの数、実験を繰り返していたようで、それによるとほとんどの実験で成功したとのことだ。

 それこそ骨の一部を金属や木材に変換しても問題はなく、もう原型を留めないほど姿を変えない限り失敗はしなかったようだ。

 考察として、魔物の進化とはその存在を再定義するものであり、そこに予定していなかった要素が入り込んだとしても再定義内容によっぽどの矛盾がなければ意図的な肉体改変は成功する。


 これが全600ページ強に及ぶこの本の概要だ。

 中々専門的な用語もあったりして読みにくかったは読みにくかったが、大体の内容は把握できた。

 まあ、肉体の再定義というのはいい線いってると思う。

 進化の時に味わった自分の中で何かが()()()()()()()()()感覚。

 あれが肉体の情報を再定義している感覚だったと言われても不思議はない。


 ……………これ、俺にも適用できるか?




◇◆◇◆◇◆




 はい、場所は変わってローレライ本邸中庭、時刻は午後四時過ぎ。


『はーい!それではこれより実験名「生体再定義実験」を行いまーす!』


「いぇーいどんどんぱちぱちー」


「馬鹿だ、馬鹿がいる………」


「でもちょっと面白そう、と思ってしまうアリシアなのであった」


「喧しい!」


「ぬがっ!?」


 ゴッ!となかなかに重い音を立ててお嬢の振るった杖がシオンの後頭部に命中、おおシオンよ死んでしまうとは情けない………死んでないが。

 まったく、お嬢はもっと貞淑さを身につけるべきだ。

 ヘカテを見てみろ、言ってることはウェイ系のそれなのにテンションは正反対でもはや温度がゼロだぞ。

 こう、ものすごい適当にやってる感が凄い。

 ………まあ、少し無理してる感は拭えないが、まあそれも一興か。


 それはともかくとして、今からやるのは先ほど見た文献を参考にした()()()()()()だ。

 もちろん、そんなことは普通はできないし、方法もわからない。

 だが、この世界の魔物には理由は分からないが「進化」というものがある。

 今回はそれを利用した実験ないし俺を強化するための試行だ。


『進化とは即ち肉体の改造であり、それを行なっている間は肉体の存在が曖昧になる、という仮説のもと今回の実験を行う』


「それ一歩間違えれば肉体が崩壊しないか?」


『そこは俺の「呪術」の腕にお任せってわけよ。触媒としてはお嬢から提供してもらったSランク災厄級カラミティである仙狐の魔石を使用して呪詛を世界を〝騙す〟ベクトルに向けることで肉体の情報強度を高める』


「結局お前も気になってんじゃねえか」


「………黙秘権を行使する」


 まあ、進化を利用した肉体改変実験なんてそうそうできるものでもあるまいし、研究者として興味をそそられるのは当然だろう。


「で?なにを付け加えるんだ?」


『万里の堅鎖。強度強化の魔法はもう上限にまで達したからな。あと少し付け加えたい効果もあるからそれも加えて身体の一部に再定義しようかと』


 万里の堅鎖には大気中のマナを自動で吸収することで強度が上がる効果があるのだが、それも無限に上昇するというわけではなく、限界はある。

 んでもってついこの間、具体的にはカトリス聖遺跡から帰る途中で強化上限に達したため、これ以上の強度の向上は見込めない。

 これ以上の強化はできないのだから身体の一部にして更なる能力向上を試みようというわけだ。

 身体の一部になって仕舞えば俺のレベルアップに応じてまた強度も上がるかも知れないし。


「付け加えるのは?」


『腐食効果。俺特製の腐食毒を触媒として「呪術」を発動し、万里の堅鎖に定着。その後に「呪術」が付与された万里の堅鎖ごと俺の身体に再定義する』


 毒と呪詛の扱いに関してはもはやスペシャリストと言ってもらって構わない。

 今回は蠱毒ではなく単純に毒を調合したものを使い、毒液の原材料は腐食に特化した魔物の毒液を使用、調整した。


「まあ、問題はないのか?おまえの「呪術」の腕は信頼しているしな」


『ありがと、じゃあぼちぼち始めるから。お嬢、結界お願いしていい?一応最大限気をつけるけど、何が起こるかはわからないから』


 それなりに自信があるとは言え、肉体改変なんて俺としても初めての試みなのだ。

 どうなるかは正直予想がつかない。


「分かった。一応、気をつけろよ。隔て、囲み、封じる囲い。内と外とを分け隔てる籠は不毀。剛殻なりし時空の壁よ、我が望みし領域を隔離せよ。『空間隔てる(パーティショナル)隔絶結界(・プロヒビション)』」


 詠唱と共に俺の足下に魔方陣が出現し、不可視の結界が張り巡らされる。

 効果は中と外との断絶。

 これで万が一呪詛の制御が効かなくなったとしても外に影響は出ないだろう。


『じゃ、始めますか』


 腐食毒を準備した後、冥界から呪詛を汲み上げ腐食毒を用いてその性質を変質させる。


『まずは『蝕み侵す腐毒』っと』


 『蝕み侵す腐毒』が発する起点は万里の堅鎖。

 その際に万里の堅鎖に腐食の効果が及ばないように気をつける。


 さて、次に仙狐の魔石を用意して、っと。

 ここからが本番。

 まずは進化先の決定だ。



 種族選択欄

 ・バジリスク

 亜竜の一種であり、人を石に変える魔眼を持つ凶悪な蛇の魔物。魔眼もさることながら20mを越す巨体から繰り出される攻撃と、自由自在に操る毒液は人間のみならず魔物すらをも恐怖させる


 ・コカトリス

 雄鶏の頭部と下肢、亜竜の胴と翼、蛇の尾を持つ混合獣キメラ。生物のみならず無機物も石化させるブレスを吐く。また、触れたものを毒で汚染する能力を持ち、不吉の象徴として恐れられてきた魔物


 ・ザルティス

 下位の精霊であり、人々に幸福をもたらすと言われる。毒を生成する機関こそ持たないが、炎を操り大地に豊穣の恵みを授ける。また僅かではあるが神聖な力を保有し、古来より神の使いとして崇められてきた蛇



 事前に決めていた通り、種族選択欄からバジリスクを選択する。


『っづ、がぁああああああ!!』


 <<対象の規定レベル突破、及び進化先の決定を確認。これより個体名:ルキアの種族進化を開始します>>


 突如、身体を襲う激痛、灼熱、凍土、雷撃、それらを幻視するほどの混沌とした感覚が身体の中を駆け巡る。


 ──だが、来ると分かって覚悟をすれば耐えきれない痛みじゃない


 気合と根性で再び呪詛を汲み上げ、呪詛を変質させる。

 さっきは〝腐らせる〟ことにベクトルを向けたが、今回は対象を世界そのものに指定し、己の肉体情報を改竄する。


『必要なのは「呪術」の腕と気合と根性!!っしゃあ!行くぞ!!『偽典上書式呪』!!』


 っし、これで後は進化が終わるのを待つだけ───


(──ヤバい)


 呪詛の供給が止まらない。

 変質させ続けても、止まることを知らない呪詛の奔流。

 変質させて、供給されて、変質させて、供給されて、変質させて、供給されて、変質させて、供給されて、変質させて、供給されて──いつまでもそのループが終わらない!


(クソッ!災厄級カラミティナメてた!!)


 「呪術」において術の行使難易度と効果の程は魔法と違い、術者の腕と触媒の品質の良否で決まる。

 より質の良い触媒を用いれば術の効果は格段に跳ね上がるが、その分行使難易度は飛び上がる。

 それはひとえに触媒の格が高ければ、それによって汲み上げられる呪詛の量も多くなるからだ。

 より多くの呪詛を変質させようとすれば、それだけ術者の呪術師としての力量が問われる。


 今まで俺は格の高い触媒というものを使ってこなかった。

 『祝い呪う禍福の園』もたしかに行使難易度は、それこそ半端な上級の「呪術」よりも高いが、それは単純に呪詛が向かうベクトルを曲げるのが難しいというだけの話だ。

 呪詛の量どうこうというわけではない。

 『祝い呪う禍福の園』だって触媒は俺の血液だったわけで、所詮はCランクの魔物であるグローツラングの血液なのだ。

 それに比べて仙狐はSランク災厄級カラミティ

 魔物として俺より数段階進化を重ねなければ同じステージに立つことすら許されない頂きに座す、お嬢やシオンと同類のモノ。

 文字通り、存在としての格が違う!


「おい!ルキア!?」


(クソッ!処理しきれない!!)

 

 <<──対象の体内に有害物質、および不確定要素を発見。進化の続行は対象に大きな害を及ぼすと推定>>


 無機質な声が頭の中に響く。

 まずい、このままだと身体の方が保たない!

 いや、これ死──


 <<対星敵個体撃滅獣育成プログラムの規定に従い、進化プログラムの緊急停止を実こ──


 あ?


 <<──死神権限アズライールより提言を受諾。………………………精査中、精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中精査中──精査完了>>


 なに?


 <<当該術式は固形物とマナを自身の身体の一部に再定義するものと判断。既ベクトル固定化魔力──通称呪詛の安定化と異能の強制発現、名称万里の堅鎖の体組織への置換、および対象の存在確立を補助することにより進化プログラム遂行の達成可能確率87.738%──問題なし>>


 いや、ちょっと待、


 <<進化プログラムの再開を実行>>


 ──今回だけですよ、ルキア。可哀想な子、不幸にも生まれ違えた子。一度だけ特別に助力をしてあげます。あまり母を困らせないでくださいね?


 誰?

 そう疑問を呈する間もなく意識が落ちた。

要するに進化とか原理はよくわからんけど肉体が変異していってるのは確かなんだから、必然的に自分の肉体の定義も曖昧になるはずなんで、その隙に固形の物体を自分の肉体の一つとして刷り込ませようぜ!とかいう大概頭のおかしい実験。残念ながら主人公が成功させるには研鑽と施行、あと詰めも足りなかったんや………というわけで今回に限ってお助けキャラ登場。アズライールさんが主人公に手助けしたのは転生者だから、というのは合ってるけど間違っているというかなんというか。それも理由の一部ではあるんだけど根本的な理由ではない。手助けした理由は強いて言うなら「同情」と「称賛」でしょうかね?

アズライールさんの「生まれ違えた子」ってのが主人公の6割くらい説明してる。そもそもなんで前世と今世で種族が違うんでしょうねって話。


ちなみにアズライールさんと主人公は血は繋がっていないです。でも母。というかアズライールさんからしてみれば一部を除いてほぼ全ての生物は子とみなせる。うーーーん、この新しいサイコパス勢の予感。


アズライール

ユダヤ教、キリスト教、およびイスラム教において死を司る天使で、片手には全ての生者の名を記した書物を持ち、人が死ねばそこから名前が消える。姿形は非常に恐ろしく、全身に無数の目、口、舌を持ち、人の罪を見、語り、裁くのだと伝えられる

(Wikipedia より抜粋)


やったねルキア!世界でも一、二を争うくらいにヤベーヤツに目をつけられたぞ!本作ではそんなおどろおどろしい外見じゃないけど中身は大概サイコパスだよ!みんなのママンでこの世の裏側から子供たちを見守っているよ!特技は星の外側からやってきた侵略者を傷一つ付けずに殺すことだよ!

なお、「アズライール」は個体名で種族名は他にある

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