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魔女の使い魔  作者: 自動機械鮎
第三章 太陽が開きし港湾
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第七話 錬鉄の魔女と凍土の魔導師 前

「オーホッホッホッホッホ!呼びましたわね!呼びましたわね!?そう!わたくしこそが「錬鉄の魔女」こそガーベラ・アルキーミ──ってにょわああああああ!??グローツラング!?グローツラングナンデ!?衛兵!衛兵は何をしているのかしら?!職務怠慢ですわよ!?今すぐ鉄塊に変えて差し上げて──にゃああああ!!!なんで寄ってくるんですの!?」


 ええ………登場からこんな面白い人いる?

 周りの人も俺よりこの女の子の方に驚いてるじゃん。

 もうリアクション芸人としてやっていけるんじゃないかと思わせる女の子はオレンジ色の髪に黄色い瞳をしている。

 背後には眠たそうな顔をした白髪紅眼のメイド服の女性が一人………うん?コイツ人間じゃないか?

 魔力の質が人間のものとは少し異なる。

 どちらかと言うと()()()()に近いか………?

 というかなんか見覚えが。

 この人(?)ではないんだがなんか覚えのある気配………どこだ?


「お嬢様、落ち着いてくださいッス。初対面の方にあったらどうするんッスか?」


「え、ああ、そうですわね。わたくしとしたことが、取り乱してしまいましたわ。改めまして、わたくしがかの有名なアルキーミア家次期当主、「錬鉄の魔女」ことガーベラ・アルキーミアでしてよ?この名前には聞き覚えがあるのではなくて?」


「知らんな」


「申し訳ございません。存じ上げませんでした」


『アルキーミア家は知ってるがアンタのことまでは知らないなあ』


 アルキーミア家は「錬金術」の大家であるし、お嬢の九頭龍の杖を作成したのもアルキーミア家現当主だったから記憶には残っているが、流石に一人一人の名前までは覚えてない。

 いやしかしこんな面白………じゃなかった、クソ面白い人材がいるならもっと個人個人を記憶するべきなのだろうか。


「ゔわ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁーーーーん!!ヅヴァイ゛ーーー!!ごの方々がわたぐじのごどじらないっで虐めるんでずのーー!!」


「おーよちよち、かなちかったでちゅねー。でもあのローレライ家に比べたらアルキーミア家(ウチ)なんて木端も同然ですから仕方ないんじゃないッスかねー。ましてやそんな木端の娘っ子一人なんて覚えてないッスよー」


「ぞん゛な゛ごどな゛い゛も゛ん゛!!」


 公衆の面前でメイドに縋り付いて引くくらい思いっきり泣き喚く推定二十歳過ぎの魔女………


『お嬢、映像記録の魔道具持ってない?』


「残念ながら持ってないな」


 それは残念、とても残念だ。


『で?お嬢とあの嬢ちゃん………ガーベラさんとはどういう関係で?』


「ヤツ曰く、「同年代で同じ魔女の家系………つまりライバルですわね!」とのことだ。私はアレをライバルと認めた覚えはないが」


「ちょっとそこぉ!なんか大変不本意は言葉が聞こえましてよ!?」


 なるほど、つまり一方的なライバル視というわけか。

 ああ、思い出した。

 聖遺跡に向かう前、魔法協会の前であったアインスというホムンクルス。

 アレが確かアルキーミア家に仕えているとかなんとか言っていたはずだ。

 アインス(1)ツヴァイ(2)ね、らしいと言えばらしい。


「で?何の用だ?私はさっさと宿に戻って寝たいんだが」


「ふっふっふ、わたくしが貴女を呼び止めたのは他でもありません。即ち!宣戦布告ですわ!!」


「宣戦布告?なんの?」


「やべえ、ウチのご主人様すっげアホくさく見えるんッスけど………」


「まあ、実際アホっぽいしな」


 シオン、シッ!


「再来月に港湾都市ハッフェンスタッドで行われる魔法競技祭!そこで勝負ですわ!」


「いや、私は出ないぞ?」


「…………はえ?」


「すみません、魔法競技祭とはなんですか?」


『5年に一度ラニア王国で開かれる魔法使い同士の腕の競い合い。いくつか競技種目があって出ようと思えば全種目出ることができる。出場資格は魔法協会に所属している魔法士、又は魔法師であること。会場はその回ごとに違うけど選定基準は魔法協会に寄付した金額がもっとも多い都市らしいぞ?本当かどうかは知らんけど』


 お嬢の書斎で「呪術」に関する本を探しているときにこの国の歴史書を見つけてその事実を知った。

 三千年続くラニア王国の中では割と新しい行事らしく、開催当時はエルデア帝国も参加していたらしいが今は国家間の関係が思わしくないため王国内だけでの行事となったらしい。

 このお祭りという名の魔法の披露会は王侯貴族も注目しているらしく、大抵五個くらいの競技があり、各種目の優勝者はラニア王国国王に謁見する名誉があたら得られるとかなんとか。


「って、いやいやいやいや!騙されませんわよ!!」


「いや騙すもなにも毎年出てないし………」


「だってだって!貴女の名前出場名簿にありましたわよ!?」


「………なに?」


 スッ、とお嬢が目を細めてガーベラを見据えた直後、


「ええ、私が出場名簿に名前を書いておきました」


 心臓が凍る幻覚を観た。

 身体の芯から末端に至るまで凍てつき、止められるような錯覚。

 息ができなくて、身動きが取れなくて、脳が思考を停止した。


「──母様」


 怯えるような、それでいて僅かな歓喜を含んだお嬢の掠れた声と共に思考が戻り、遅れて息と身動きができるようになった。

 お嬢の視線を辿るとそこには顔立ちだけがお嬢と瓜二つの女性がいた。

 その女性を一言で言い表すなら氷。

 冷たく、厳しく、震え上がるような鋭さを孕んだ氷河のごとき女性。

 お嬢の目と同じ青空を思わせる青い髪を靡かせて毅然と歩くその姿はどこかお嬢に似ていて、だがお嬢よりもどこか寒々しさを感じた。

 目に宿すは蒼穹の如き蒼ではなく、どこまでも凍えるような氷色。

 手に長杖を携えて彼女はこちらに来る。

 これまでにないほどに「危険感知」が警鐘をジャンジャカと頭が痛いほどに鳴らしている。

 

(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!これはヤバいってマジで!!おそらくお嬢の口ぶりからして敵ではないんだろうが………いやあ、今すぐ逃げたい)


 横を見ればシオンは鯉口に手を当てているものの、切るまでには至っておらず手は震え、顔は引き攣っていて苦笑いを浮かべている。

 ヘカテに至っては完全に硬直している。

 それも仕方ないだろう。

 弱肉強食に生きる魔物であるがために種族に刻まれた本能が教えてくれる、歴然とした戦力差。

 比べるなど烏滸がましい、挑もうとすること自体不遜であるとすら思える絶対的な力の存在。

 それは俺たちに恐怖という感情を与える。


 「魔力感知」からわかることは膨大な量の魔力を持ってはいるが、総量は()()()()()()()()ということ。

 単純な魔力比べで言ったらお嬢が二倍、とはいかないだろうが1.5倍くらいの差で上回っている。


 だが、これは確信だ。

 お嬢では絶対にこの女には勝てない。

 魔力の洗練され具合もそうだが、おそらく魔法の力量において隔絶した差がある。

 今のお嬢の膨大という言葉すらバカバカしいと思える魔力をもってしてもこの女には勝てないだろう。


 俺、シオン、ヘカテを睥睨した後にお嬢を見つめて、ふ、と女が微笑った。

 凍てついた大地が溶けるように、しかし溶けたのは地表だけで地中は未だ凍土のままであるように。


「久しぶりですね、アリシア。私の娘、可愛い可愛い娘。会いたかったですよ?」


「………母様、なぜここに」


「あら、私はこの国の魔導師ですよ?魔法協会本部にいるのはなんらおかしいことではありませんよ?ここの会長も務めているのですし」


「そう、です、ね。ご無沙汰しております、母様」


「ええ、本当に久しぶりですね。たまには顔を見せにきてください。寂しいのですよ?それで、アリシア。後ろの方々も紹介してはくれませんか?」


 す、と氷色の瞳がこちらに向く。

 お嬢に視線がいって少し持ち直したのだろう、シオンは鯉口から手を離しており、ヘカテはなんとかお嬢の母親をまともに見れるようにまで回復している。

 なお、こちらに視線が戻ったとき、シオンの左手がピクッと持ち上がったのは観なかったことにしておこう。


「ああ、はい。この男がシオン・ミカゲ。鵬国出身で、今私がパーティを組んでいる相手です」


「シオン・ミカゲです。以後、お見知り置きを」


 シオンが一歩前に出て一礼する。

 礼をするときも流石に無防備というのはいささか不安らしく、左手で時雨の鞘を掴みながらお辞儀をする。

 いつもならここぞとばかりに煽るんだが、正直今のシオンの立場を考えると同情しか湧かん。


「ミカゲ、ミカゲ、ミカゲ………なるほど。たしか二十年くらい前に鵬国のミカゲ家に鬼子が生まれたという噂を耳にしましたが………貴方のことだったのですね?先祖返りとは」


「は?先祖返り、ですか?」


「あら、余計なことを言ってしまいましたね。忘れてください、と言っても難しいでしょうか。まあ、いずれわかることでしょうし」


「は、はあ………」


「それで、こちらが今私のメイドをやっているヘカテです。シオンから武術を、私からは魔法を教えています。彼女も一応パーティの一員です」


「お初にお目にかかります、グレイシア様。ヘカテと申します。アリシア様の身の回りのお世話をさせて頂いております。以後、お見知り置きを」


 優雅ではなくとも、従者らしい主人や相手をたてるような控えめなカーテシーで腰を折る。

 すると、お嬢の母親はスウッ、と目を細めてヘカテを見つめる。

 ギシリ、とヘカテの体が強張る。

 ヘカテのとっては永遠にも感じられる一秒が過ぎて、お嬢の母親は視線を緩めた。


「なるほど、エキドナですか」


「──っ!」


 ヘカテの身体が固まる。


「ああ、警戒しないでください。貴女を魔物という理由で処断するのであればそこの()の首を真っ先に刎ねていますから」


 チラリ、とこちらを見ながら軽い口調で告げる。

 たしかにこの人ならば俺を殺すことなど赤子の手を捻るよりも容易いだろう。


「しかしパスが繋がっているのはそこの彼ということは主人が彼ですか。中々面白い関係ですね。アリシア、そこの彼も紹介していただけませんか?」


「はい。コイツはルキアといって、私の使い魔です。彼らの中では最も古い付き合いとなります」


『お初にお目にかかります、御母堂。我が名はルキア。僭越ながら御息女の使い魔をしているものです。以後、お見知り置きを』


 頭を垂れ、誠意を見せる。

 そんな俺の挨拶に対し、彼女の瞳に宿ったのは驚愕と好機。

 形だけ作られていた笑みが深いものになり、氷の瞳が細まる。


「ほう?グローツラングなのに確固たる知性がある。亜人や幻想種ファンタズマの因子を保有していないのに?非常に興味深いですねえ。………魔物なのに霊核の格が高い?」


 最後の言葉はボソリと呟いたようで聞き取りにくかったが強化された五感が拾い上げた。

 霊核?よくわからんが、あとでお嬢に聞いてみるか。

当たり前の権利であるかの如く種族情報を獲得しているお母様。お母様は王国内だと魔法使い最強です。剣聖相手だとちょい厳しい。だって剣聖はヤバいもん。人の身で神剣扱えてるって時点で相当ヤバい

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