第五話 終結
村正…………マジっすか
『お嬢やお嬢。なんかクソ強い魔力反応がうじゃうじゃしてるんだけど気のせいだったりしない?』
「残念ながら私の「探知魔法」でも同じ結果だ。諦めろ」
デスヨネー。
いや、強敵と闘うのはいいんだけどこうも立て続けにやられると流石にキツい。
あっはっはっは、行きたくねえ。
というわけで俺たちは今正門を潜った控室のような場所で息を潜めている。
え?なんで突入しないのかって?
だって見てごらんよ。
今絶賛混戦ですぜ?無策で突入したら混乱すること間違いなし。
そして俺はまだ死にたくないしお嬢も死なせたくないので無策で突っ込むなんて無謀は犯しません。
っちゅーわけでハイ、作戦会議。
『で?どうするよ?お嬢』
「とりあえず方針としては私がおまえに乗って移動砲台として駆け回る。魔法をぶっ放しながらな。ルキア、おまえは流れ弾を防ぐことに専念しろ」
『オッケー。俺は魔法とか使わずにお嬢の指示に従って被弾を防ぐ、と。一応、領域支配の「呪術」あるけど使っとく?』
「は?領域支配の「呪術」?」
『え、そうだけど』
あ、言ってなかったか。
イージアに居た時は完全に構想のみの段階だったし、さっき成功したのってぶっちゃけノリと勢いでやってみたら成功した、みたいな感じだもんな。
まあ、さっきのでコツは掴んだからよっぽど油断しない限り失敗はしないだろうけど、強いて問題を挙げるとすれば〝園〟の維持かなあ。
アレ展開するのもそうだけど維持するのも割と疲れるんだよなあ………さっきはマジでテンションが上がりまくってできた勢いと簡易的な魔方陣を使うことでなんとか他の「呪術」や魔法と併用できたけど流石に今はキツいだろう。
「色々聞きたいことはあるが………それの効果は?」
『微小ではあるけど確率、因果への干渉。敵に呪いを蔓延させることでの継続ダメージ、魔法及びアーツの妨害。味方に呪いをかけることによる状況好転。あとはほんの少しの物理的な干渉もできる。つっても本当の少しだけどな?』
ちなみの「呪術」において人体に害を為すものを呪い、人体に善い影響を及ぼすものを呪いと呼ぶ。
ぶっちゃけ【裏返】の技法でも使わない限り呪いはほとんど使えないから「呪術」って言ったらほとんど呪いを指すことが多い。
「それを展開しながらでも動きに問題はないのか?」
『感知系スキルの起動に関しては領域支配の範疇で行えるから問題ない。流石に魔法やらの展開は厳しいかな』
「十分だ。状況の把握とその伝達、「呪術」の展開だけやってくれ。あとは私がやる」
そう言って九頭の龍が象られた杖を握りしめて好戦的な笑みを浮かべるお嬢の目には気迫が篭っていた。
え、やだカッコいいんですけどウチのご主人様………そろそろ抱かれとく?
──なんて、ね?
「よっと、じゃあルキア。頼むぞ。私も万が一の時は防御系の魔法を使ったりもするが基本的にはおまえに任せる」
『了解した。ご期待に添えるよう善処するよ』
◇◆◇◆◇◆
ふう、と息を一つ。
目の前の乱戦を観て、足と心がすくむ。
どんなに平静を装っても波打つ心までは騙せなかった。
アリシア・ローレライは魔法使いであっても戦士ではない。
戦闘に参加することはあるが、あくまで後方支援が主だ。
乱戦に自ら進んで足を踏み入れることなど殆どないし、ダンジョンの探索にしても壁役を用意してから臨む。
それ故に今回のような乱戦に切り込むといった経験はない。
それでもそうしようと思ったのは乱戦の中であれば足を止めて固定砲台に徹する方が危険が大きいという戦略的な理由と、自分の使い魔が楽しそうだったからだ。
聖剣イペタムを相手に集中砲火されて無傷で済む自信はないし、ならばあえて渦中に飛び込んで神聖騎士たちと協力した方が安全性は増すだろう。
そもそも自分は防御系の魔法はあまり得意ではないしな、そう思いながら使い魔に目を向ける。
気怠げにしてはいるが、黄金の蛇眼は爛々と輝いている。
喜悦に歪んだ瞳が殺し合う人々と私を見つめている。
きっと、コレに私が覚えるような恐怖はないのだろう。
その本性までは分からないが、それでもコレの中に意味不明な無神経さに救われているのは事実だ。
だからこれ以上コレに気を遣わせまいと虚勢を張る。
逃げ出したくても、怯えたくても、なけなしの矜持が立ち止まることを許さない。
それにコレの主人という以上に最高傑作の魔女という自負がある限り、憎らしくとも誇らしい最強の魔女の後を追いかけ続ける限り、どんなに恐ろしくとも立ち止まるわけにはいかないのだ。
これからいく先に困難が待ち受けていようとも、申し訳程度の虚勢を張って進み続ける。
──だから、
「行くぞ」
『御了解!我が園をその目に焼き付けるがいい!!開園だ!『祝い呪う禍福の園』!!』
身体に突き刺した杭から溢れ出す血を触媒にその「呪術」は完成する。
氾濫する呪詛が蛇の血を介して調律され、洗練された呪詛が地を飲み込む津波の如く石畳を舐める。
「なんだ!?」
呪詛によって穢された石畳に残ったのは黒き花。
悍ましくも美しい花々が礼拝堂内いっぱいに咲き乱れる。
突然の以上事態にヨハンナとタイガ以外の人間が慌てる中、騎士に祝福を、暗殺者に呪いを呪花が振りまく。
(──起動。選出:第一の龍頭。魔方陣投射)
未知の「呪術」に驚きながらもアリシアが自分のやるべきことを見失うことはない。
電源を入れ、用途を選択し、回路を投影する。
詠唱いらず、魔方陣は最初から完成しているために「詠唱簡略」のスキルすら使う必要がない。
魔法使いの持つ杖は基本的に魔力を増幅させるための装置だ。
上級魔法ともなれば魔方陣を形成するだけで自身の魔力の半分以上を消費することも少なくなく、それ故にどれほど魔法を効率化させても人間の魔力量では限界がある。
魔法使いの杖は少量の魔力を呼び水として大気中の魔力を杖によって掌握し、魔方陣の形成に用いることができる。
これが魔法使いの杖の一般的な使用方法。
アリシア・ローレライにとって魔力増幅置としての魔法使いの杖はあまり意味がない。
最高傑作の魔女として生み出された彼女の保有魔力量は人間が到達しうる限界を超えており、魔力を補充するという行為は全くというわけではないが、それほど重要というわけでもない。
ならば、彼女の持っている九頭龍の杖に意味がないのかと言われれば、そうではない。
九頭龍の杖の機構は二つある。
一つは一般的な魔法使いの杖と同じように魔力増幅置としての機構。
凡百の杖と比べても数十倍の倍率を誇る魔力増幅炉はアリシアから魔力切れという事態からさらに遠ざけている。
そして二つ目、こちらが九頭龍の杖の主機構。
魔法の即時展開である。
杖の上方に象られている宝玉を咥えた九頭の龍はただの装飾ではなく、むしろこちらが本体といってもいい。
龍の顎門が戴いている宝玉は魔石を磨き、調律された魔玉であり、その内部には魔方陣が刻まれている。
そして目には見えない杖の内部には起動、選択、投射のプロセスを実行するための魔方陣が円筒状に織り込まれている。
ここまで言えば大体わかるだろうか。
この九頭龍の杖は魔玉内に刻印された魔方陣を魔玉内の魔力を用いて空中に投影し、投影された魔方陣を起動することで魔法をほぼノータイムで発動できる魔法発動体だ。
空中に投影された時点で魔方陣は完成しているため、詠唱をする必要がないから発動者が行う作業は実質魔法を選択するだけで、あとは魔法名を唱えることで魔方陣を起動させれば魔法が発動される。
スキルなしでの完全無詠唱化。
歴史に名が残るほどの偉業であり、この九頭龍の杖こそが稀代の錬金術師、「名匠」アルチザン・アルキーミアの作品。
「死ね『天を灼く噴火』」
石畳に投射された九つの赤銅色の魔方陣。
それらが魔法名を唱えられると同時に輝き、天井に向けて豪火を発した。
それは正しく噴火。
古来より人々が恐れる天災の一つ。
地の底より出で、天を焦がし、地表を灰で覆い尽くす厄災。
原点たる災害のそれよりも規模は小さいとは言え、何の予兆もなく溢れ出す高熱と燃え盛る炎は原本と比較しても遜色は見られない。
「あ」
「に」
「し」
黒き花園の呪いによって増幅され、逃げ出すことはおろか悲鳴をあげることすら許さぬ山の怒りは愚かな侵入者たちを焼き焦がし、物言わぬ黒い標本へと姿を変えさせた。
黒焦げの彫像は全部で七つ。
十一人いた襲撃者たちはその数を一気に半分以下に減らした。
「キハッ!キハハハハ!!危ない危ない、危なかったねえ!!」
残りの四人のうち二人はただ狙われなかったために炎禍を逃れ、もう一人はアリシアからもっとも遠いところにいたために目測を誤ったことによって直撃を避けたが、最後の一人は違った。
寸前までヨハンナと打ちあっていたにもかかわらず、超人的な五感と未来余地を思わせる第六感によって吹き上がる大火を避け切ったのはタイガ・ロベリア。
獣人というだけでは説明がつかない、もはや異常とすら言える身体能力。
そのあまりの速さにアリシアとルキアは瞠目する。
(躱すのか!?アレを!?)
(完全な不意打ちだったぞ?!獣人とは言え人間の反応速度でどうにかなるものじゃない)
明らかに異常だ。
そう思いかけたところで二人ともとある事実に行き着く。
──身内に似たようなことができる化物おるやんけ
正直な話、あの男なら焦りはするだろうがなんとかして躱すであろうと予想がつくし、それを他の人間ができないと決めつけるのは早計に過ぎる。
というかアイツの場合魔方陣ごと叩き斬るんじゃないだろうか。
「キッ、ヒヒッ。エルク、撤退を。もう十分でしょ」
「ロベリア様!しかし………」
「あたしらが襲撃したっていう事実さえあれば十分なんだから、これ以上陛下の駒を減らしても意味ないでしょ。ほら、分かったらさっさと帰るよ」
「………了解しました!」
「逃すと思いますか?」
タイガの言葉に少し違和感を覚えるも、それは後で考えればいいと思考を打ち切り、タイガに十字剣の切っ先を向ける。
「逃げるよぉ?」
その言葉とともに血刀が一斉に雨霰と神聖騎士たち目掛けて降り注ぐ。
「チッ!総員散開!」
「穿ち、貫け!『ボルティック・レイ』!」
『いやああああ!?一応補助はするが自分で頑張って避けろよ!?騎士さん方ぁ!こっちも余裕ねえわ!!いや割とシャレにならんくらい死ぬわ!?』
聖具ということを考えれば純粋な火力では他の聖具より見劣りするものの、血刀の切れ味はそんじょそこらの妖刀などとは比べ物にならない。
加えて常に呪詛をまとっているために、必殺ではなくとも当たれば重症は免れない。
それらが実に千本飛び交うのであれば、足止めとしては十分に過ぎる。
神聖騎士が剣技や「神聖魔法」で迎撃し、アリシアも砲雷で迎え撃つも血刀を破壊し尽くすには至らない。
「じゃあ、ねヨハンナ。次会う時は死ぬまでやろうね?茈虔戦闘術『荒悉波』!!」
嬉しそうに言うと、タイガはイペタムを地面に叩きつけた──というよりは殴りつけた。
地面から吹き出すは魔力の奔流。
それが津波の如く礼拝堂内を埋め尽くし、椅子を粉砕しながらヨハンナたちに向かって押し寄せる。
(──選出:第三の龍頭。魔方陣投射)
「『雷神の鉄槌!』
「『堅大なる要塞』!」
豪雷が轟き、巨大な要塞が魔力の津波を押し止め消しとばす。
しかしその後には獣人と暗殺者たちの姿はなかった。
やーっと聖遺跡編戦闘が終わりです。なんで三章まで続いてんの………
お嬢ってどっちかと言うと研究畑の人なんですよね。実践もそれなりにやるけど基本的に理論を組み立てるのに時間をかけるのであんまり危険とは近しくない。安全マージンはきちんと取るタイプの人。危機管理意識に関してはシオンや主人公よりもよっぽど常識的な見識を持ってます。魔法が絡むとぶっ壊れるけど
九頭龍の杖は起動にちょっと手間かかるけどそこさえクリアすれば連続魔法使用できる。ただ魔方陣の投射座標を毎回マニュアルで決めなきゃいけないのでそこそこ面倒
第一の龍頭:『天を灼く噴火』
第三の龍頭:『雷神の鉄槌』
第五の龍頭:『圧壊する重力圏』
第八の龍頭:『時を綾取る隔絶結界』
他の魔法はそのうち




