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魔女の使い魔  作者: 自動機械鮎
第三章 太陽が開きし港湾
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第四話 不敗の騎士

新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。と、堅苦しい挨拶はここまでにして普通に更新です。新年なんで景気良く連日投稿したいと思います。というかペース早めないと完結するのがいつになるかマジで分からん………週一で毎回更新すると普通に大学卒業しても終わらないんですけど。


ところで新年ピックアップで景清実装される可能性ってある?

「んえあ?」


 結論から言えば、タイガの放った血刀はヨハンナには当たらなかった。

 所謂重装騎士と呼ばれるヨハンナは今は脱いだ兜の他にも分厚い全身鎧で身を包んでいる。

 それ故に耐久力こそ高いが機動力においてはアーネストはおろか、一般の騎士にすら劣っている。

 だから高速で飛来して来る血刀を躱すことなどできないはずだった。


 ──そう、本来なら


(当たらない?いや、血刀の方が避けてる?それも違う。何か特殊な力?)


 だというのにまったく当たらない。

 いや、まったく当たっていないというのは間違いだろう。

 彼女の分厚いブレストプレートには血刀によって付けられたであろう、いくつもの刀傷が刻まれている。

 だがその傷跡も鎧と円盾だけだ。

 彼女の身体にダメージは一切入っていない。


 数百の血刀を浴びせかけられたにしてはあまりに不自然な現象。

 しかしその原因を考えるよりも早く、ヨハンナが接近する。


「シッ!」


「っと、危ない危ないねえ」


 振るわれた横薙ぎ一閃。

 鋭く振るわれたそれをタイガはバックステップで容易く躱す。

 獣人とのハーフであるが故の驚異的な身体能力。

 魔法適性こそ低いが、生来持ち合わせた素質と積み上げた研鑽によって高めあげられた身体能力はヨハンナのそれを凌駕している。


(──獲ったっ)


 しかし単純なスペックで負けているなら技術でその差を詰めるのが人間の戦い方である。

 単調な横薙ぎはあくまでブラフ。

 本命は横薙ぎによって捻られた腰を利用して放たれる折り返しの一閃。


「キハっ、避けるのは間に合わない?間に合わないねえ」


 十字剣に魔力が収束する。

 右足を踏み込む音が重厚に響く。

 重ねた修練が放たれる技をより強く、鋭くする。

 たとえ聖具に選ばれなかったとしても、それは隊長格に相応しくないこととイコールではない。

 それを証明する一撃。

 より強く、より早く。

 極限まで無駄を削ぎ落としたヨハンナらしい堅実な一撃。


「──『至高の(エクスクウィジ)剣線(ットライン)』!」


 放たれた美しい剣線が吸い込まれるようにして頸筋へと向かい、


「甘い、よ!」


 振り上げられたイペタムによって阻まれた。

 避けきれないなら止める。

 至極当然の対応であり、しかしタイガのそれはあまりに上手すぎた。

 単純な身体能力だけではない、熟達した技術が為せる技。

 身体の使い方においてタイガはヨハンナの予想の一歩先を行っていた。

 それを読めていたからこその罠。

 決して演技ではない絶対絶命の窮地に保険を掛けて飛び込むことでピンチをチャンスに変える。

 ただ残虐非道なわけではない。

 それだけであったのであれば帝国軍は彼女を捕縛するまでに5年もの月日を要しなかっただろう。

 悪辣にして狡猾。

 その在り方は正しく瑠璃蝶草(ロベリア)の如し。


「終わり、かな?」


「ええ、終わりですね」


 ヨハンナに向けられた血刀の切っ先。

 血に飢えた凶刃は戦乙女のかぐわしき鮮血を求めてやまない。


「終わるのは貴女の方ですが」


「ギッ!?」


 ──もっとも、その凶刃が血に濡れることもなかったが


 高潔なる神聖騎士に代わって噴きこぼれたのは残虐なる殺人鬼の血。

 見れば五つの斬り傷が深々とタイガの玉のような肌を汚している。


「しかし──本当に厄介ですね、その身体能力。急所は避けましたか」


「キ、ヒヒッ。これでも「狂刃」だからねえ?」


 しかしそれでもタイガは避けた。


(──にしても妙。完全に避けたと思ったんだけどなあ?………そういえば少し足場が悪かったかな?)


 咄嗟に後方へと跳躍して、傷は深いが致命傷ではなく戦闘に支障は出ないことを確認したタイガは改めて状況を確認する。

 おそらく血刀を放った際に血刀が礼拝堂の椅子に当たり、飛び散った破片がタイガの足元に転がったのだろう。

 それを人外じみた五感が察知し、無意識のうちに避けながら後退したために余計な動きが生まれ、ヨハンナの攻撃が届いたのだろうとタイガは予測する。


(運が良いのか、それともなにかの力によるものか。今はまだ情報が少なすぎて分からないねえ)


「──キヒヒッ、楽しくなってきたねえ?」


「私としては早いところお帰り願いたいのですが」


「釣れない釣れない、釣れないねえ?もっと遊ぼう、よ!!」


 唐竹一閃。

 目にも止まらぬ速さで踏み込み、その勢いのまま強烈な斬撃を見舞うもヨハンナはラウンドシールドの真ん中で受け止める。

 体幹は揺らがず、聖剣相手でも微動だにしない様は堅牢と呼ぶに相応しい。


「『剛壁突進ウォールディストラクション』!!」


「うわあっ!?」


 踏みしめた両足に一層力を込めてラウンドシールドに体重をかける。

 突進の体勢でラウンドシールドから放たれたのは強烈な衝撃波。

 タイガはその衝撃波から避けられないと判断し、突き飛ばされた勢いに逆らわずに後方へと跳躍し、


「んあ?」


 着地に失敗した。

 足下に転がっていた椅子の残骸。

 少し大きいこと以外なんてことはない木片だが、運悪く彼女の着地場所に転がっていた。

 ガクン、と足を挫きながら体勢を崩すもなんとか受け身を取って起き上がった彼女の眼前には突き出された十字剣の切っ先が。


「んにゃあ!?」


「え、嘘でしょう!?」


 流石にマズイと判断した後のタイガの動きは見事という他なかった。

 顔を後ろに逸らし、その勢いのまま頭部のみで後転。

 足が頂点に届いたところで身体を捻りながらあらん限りの力を込めてイペタムの柄頭を地面に叩きつけ、その反動で大跳躍した後に血刀を操作してヨハンナの追撃を阻む。


 周りにいた神聖騎士たちに被害を出させないためにも、後退を余儀なくされたヨハンナを確認してからタイガは着地する。

 四肢を使って四足獣のように着地するも、衝撃によって挫いた足の激痛が走る。

 つー、と額から嗅ぎ慣れた滑り気のある液体が鼻筋を伝って流れていくのを感じて、初めて彼女は自分の額が破れていることに気がついた。

 恐らくは十字剣を突き出された時についた傷だろう。


(たしかに避けたと思ったんだけどなあ………?って、これデジャブ?)


 紙一重ではなくたしかに避けたと思った、しかしヨハンナの攻撃はタイガに届いた。


(そう言えば………切羽詰まっててあんまりよく見えなかったけど。ヨハンナの十字剣を握る手、少し滑ってたかな?)


 脳裏に焼きついた僅かな記憶から負傷の原因を推理する。

 ヨハンナの握る十字剣は所謂バスターソードと言われるもので、片手でも両手でもどちらでも握って使うことのできる剣だ。

 その重さ、長さから両手剣ほどの威力はだせず、片手剣ほどの取り回しもできないために悪く言って仕舞えば器用貧乏だが、片手剣以上の威力を持ち、両手剣以上の取り回しができる万能型とも言える。

 それ故に柄部分は片手剣よりも長く設計されており、万が一に手を滑らせて突きを放ったのなら相手は避ける間合いを測り損ねるだろう。

 ──もっとも、


(手をわざと滑らせる予兆なんて私が見逃すはずがないから多分偶然なんだろうけどねえ?)


 身体能力に優れた獣人の動体視力は人間のそれを遥かに上回る。

 命の危険が差し迫っているときでも──否、命の危険がすぐそこまで迫っている時だからこそ、タイガの集中力は過剰なまでに高まり、ヨハンナの動きを完全に把握する。

 だからこそヨハンナが手をわざと滑らせるなどという小技を使う素振りがあれば見逃すはずがなかった。

 だから完全に偶然だと判断したのだが、


(なあんか引っかかるんだよなあ………これで偶然は()()()だしねえ)


 運悪く木片が足元に転がってきた一回目、運悪く──ヨハンナにとっては運よくだが──十字剣を握る手が滑った二回目。

 不信者が神聖な礼拝堂で狼藉をはたらいた天罰と言われればそれまでだが、タイガの勘はそれとは違う何かだと告げていた。


(ま、それも含めて探ってみるかな)


「キヒッ!」


「ふっ!」


 激突する十字剣と血濡れの聖剣。

 双方が激突によって生じた反発力を利用して剣を振るい、礼拝堂に快音が数度、鳴り響く。

 ともに隙を狙って打ち込むがヨハンナは上半身を覆い隠すラウンドシールドが聖剣の行手を遮り、タイガは浮遊する血刀が邪魔をする。

 先ほどまでの目まぐるしい戦いとは打って変わって、互いの手の内を探り合う長期戦が始まった。




◇◆◇◆◇◆




(──戦いにくい!)


 打ち合いが始まって数分、改めてヨハンナはそう思う。

 タイガの剣術は言って仕舞えば粗雑だ。

 型などあってないようなもので剣筋は乱雑、足運びも「とりあえず気の赴くままに動かしている」とでも言わんばかりの不規則さ。

 合理性などかけらもないような戦い方だから当然そこには隙がある。

 しかしそこを突こうとすると今度は先ほどまでの乱雑な剣筋が嘘のような鋭い一撃が飛んでくる。

 緩急が大きすぎていつまたあの鋭い剣閃が飛んでくるか分からないために思い切って攻撃に集中することができない。

 加えてあの聖剣イペタムには呪いが常に付いている。

 「呪術」によって指向性を定められた呪詛ではないが、それでも呪詛はただそこにあるだけで生物に害を及ぼす。

 故にそう易々と触ることもできない。


 そうやって攻めあぐねていると、


「キヒッ!」


「ぐうっ!」


 なんの前触れもなく思い切り放たれた蹴り。

 足裏がヨハンナのラウンドシールドにぶつかりけたたましい音を立ててヨハンナの体が吹き飛ばされる。

 途中、礼拝堂の椅子にぶつからなかったのは単純に運がよかったのだろう。

 だが、それに安堵する暇もない。


「まだまだいくよお!茈虔じゃけん戦闘術『うねり』!!」


「チッ、『ファランクス・エクステンド』!」


 地を這うようにして下方から放たれた蛇の如き曲線。

 剣筋が全く掴めなく、それゆえにヨハンナが選択したのは盾による防御体勢。

 「心眼」を発動し、スローになった視界の中でイペタムの剣筋を追う。

 衝突する妖刀と円盾。

 盛大な金属音が鳴り響き、ビリビリと礼拝堂を揺らす。


 果たして、衝突に勝ったのは呪いの聖剣だった。

 いかに洗練されたアーツで防御を固めても、それと同じくらいに洗練されたアーツにずば抜けた身体能力、さらには呪詛による後押しときた。

 いくらヨハンナでもそれら相手に防ぎ切ることは難しく、ヨハンナの身体が再び吹き飛ばされる。

 ギャリッ、と耳障りな音を立てながら踏ん張り、椅子や周りにいる部下に当たっていないことに安堵し、しかしその顔はまたすぐに強張った。


「【真名解放】!──「千刀躙喰イペタム」!!躱せるかな!躱せるかな!?頑張って避けないと死んじゃうぞ!?」


 先ほどまでの展開されていた血刀が霧散し、ヨハンナに上空に出現するのは先ほどと全く同じ千本の血刀。

 戦いの中で傷ついたりしていた先程の血刀とは違い、再展開されたことで一切刃毀れのない血刀が出現する。

 千本の血刀の切っ先は皆同じくヨハンナへと向けられている。


「避ける必要はありませんよ。『剛壁投影』『堅大なる要塞(ギガフォートレス)』」


 発動したアーツは堅牢な魔力の壁を形成する『剛壁投影』と自身を中心として魔力の要塞を形成する『フォートレス』の上位アーツである『堅大なる要塞(ギガフォートレス)』。

 それらが各()()()()発動される。

 巨壁と剛砦によって自身とその周囲を覆い隠された防御は下手な城砦よりも堅固だろう。


 【真名解放】による特殊能力はその武器によって様々だ。

 クラレントのように広範囲かつ局所的な火力にも優れているものもあれば、神聖騎士団団長リリアーナ・アイゼンシュタインが保有する聖剣デュランダルや副団長アイリス・アイゼンシュタインが保有する聖盾エヴァラックには全く攻撃性能がない。

 今は手元にないが、アーネストの聖具である聖槍ロンギヌスは攻撃性能がないわけではないが、本質は全く異なる。

 そうかと言って攻撃性能がないものが大半かと言われればそれも違う。

 の元王国騎士団団長であり、剣聖として名を上げていた()()()()()()・ディートリヒが持つ()()ナーゲルリングの【真名解放】はあらゆる物を断ち切る能力だと言われているし、鵬国における名家、ミカゲ家が所有権を主張する二振りの姉妹刀の【真名解放】は広範囲かそうでないかという違いこそあれど、どちらも攻撃特化の能力だ。


 ではイペタムの【真名解放】はどのようなものか?

 答えは簡単で投影、複写といった所謂コピーだ。

 イペタム自身の【真名解放】能力以外の全てが寸分違わぬ血刀を千本作り出し、それを自在に操る。

 言ってしまえばそれだけの能力だが、クラレントの【真名解放】のようにほぼ溜めることなく千本の刀を作りだせるという能力は十分すぎるほどに脅威的だ。

 面制圧に関しては範囲だけで言えばクラレント以上のスペックを持ち、刀の一本一本も素材となったものを考えれば、余程の業物でない限り折ることは叶わないだろう。


 ──だがそれでは「不敗」は落とせなかった


「ウッソでしょう………」


 神聖騎士団五番隊隊長ヨハンナ・フローレンス。

 「不敗」の異名を持ち、聖具を所有する他の隊長たちと同格に語られる彼女が持ちうる戦闘能力に突出したものはほとんどない。

 だが、ある一点において彼女はずば抜けたものを持っている。

 ──それが、


「ホント、()()()()んだね」


 ただ運がいいということである。


「私はそれくらいしか取り柄がありませんので」


 ユニークスキル「不落の幻花」

 常時発動型の異能であり、発動者の周囲に存在する不確定要素を発動者の有利に働くように確率を操作する異能の力だ。

 彼女が「相手が体勢を崩せばいいな」と思えば周囲に転がっていた木片は戦いの中で起きた風圧によってタイガの足下へと転がるし、剣を振るう時にほんの少し握る手を緩めればすっぽ抜けることなく柄が滑る。

 そして彼女を集中的に狙った血刀の雨であれば、障壁にぶつかった角度、血刀同士のぶつかり合い、凄まじい戦闘によって生じた風圧。

 それらが全てヨハンナに味方し、彼女を無傷という結果へと導く。


 相手がどんなに強大であろうと、自分が優っているものが何一つなくとも、決して負けることだけはない彼女の「不敗」たる所以。


 ──不落の花は常に咲き続けるが故に

タイガ「ところでその運って恋愛に向いたりしないの?」

ヨハンナ「………聞くな」


アーネストはアレよ。なんか知らんけど恋愛方面にだけクソ鈍感な主人公タイプ。そのくせ思ったことはオブラートに包みつつも素直に言うので天然ジゴロと化している


ヨハンナの「不落の幻花」は主人公の〝園〟とちょっと似てる。あっちは自分が指定した範囲内を自分の支配領域にして色々自分の都合の良いように領域内を操作するけど、こっちはそもそも都合の良い状況が向こうからやってくる。ヨハンナが無茶して勝とうとしなければ物理的に無理のない範囲で〝運〟が守ってくれるのでまず負けない。門番とかやらせたらクソ強い。対抗策としては主人公の〝園〟が一番手っ取り早いけど今の主人公だとせいぜい二割減くらいが関の山です。隊長格舐めんなよ?


ブレイズ含めた三神教内の聖具持ちは以下の通り


一番隊隊長リリアーナ・アイゼンシュタイン

聖具:聖剣デュランダル


二番隊隊長アイリス・アイゼンシュタイン

聖具:聖盾エヴァラック


三番隊隊長アーネスト・ディートリヒ

聖具:聖槍ロンギヌス


四番隊隊長ブレイズ・ケーニッヒ

聖具:聖剣クラレント


三神教教皇ナイチンゲール・アークライト

聖具:聖杖???????


なお、一番最初に【真名解放】持ちの武具を登場させたくせに未だに【真名解放】を使っていない馬鹿が一人いる模様。聖具ではない

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