至りし極点、其は万壊を為すもの
前のお話が少し短かったんで二話目更新ですわよ
──天霊の山脈
そこは3000m級の山々が連なる連峰であり、同時に魑魅魍魎が跋扈する魔境である。
冒険者ギルドが正式に魔境と指定した三つの魔境のうちの一つ。
──アルフの樹海は虫と食虫植物と獣達で構成された蠱毒の坩堝
──宵闇の古城を中枢とする腐敗の荒野は不死者達で溢れ返る暗黒郷
ならば天霊の山脈は如何にして魔境となったのだろうか。
正解は気候である。
夏は茹だるように暑く、冬は凍えるように寒い。
人界を追われた魔物達がたどり着いた先にはそんな気候しかなく、さりとて他に行ける場所もない。
故に、それ等はその気候に適応した。
神代が終わった直後、魔物という生命体は現在ほど繁殖しておらず、大陸の覇権は人類が握っていた。
故に人が住めない場所に魔物達は追いやられ、厳しい環境で生存競争を強いられる羽目になった。
──アルフの樹海は元より神々が魔の巣窟として定めた魔境
──腐敗の荒野は女帝が己の領域と定めた魔境
──そして、天霊の山脈は人が期せずして生み出した魔境である
それを知るものは、人も獣もほとんどいない。
言えることは一つだけ。
前人未到に領域に追いやられた哀れな魔物達は繁殖と進化を遂げ、彼らの領域に人の脚が踏み入る前に引きちぎるほどに強くなったということだ。
「フゥウウ──」
そんな天霊の山脈でのとある一つの山にソレはいた。
馬ほどの巨躯をもち、漆黒の毛並みと銀色の瞳が対照的に映える。
四足獣独特の体格に、目に映るもの全てを狩り尽くさんとする鋭い爪と牙。
人はその姿を巨狼と称するだろう。
しかし、天霊の山脈に住うにしてはその身体は余りにも小さい。
食物が少ないがために自分の体を大地として食物を育成する者もすらいるこの天霊の山脈に住う魔物達は、皆一様に大きな身体を持つ。
者によっては聳え立つ高山に匹敵するほどの身体を持つものすらいるこの地にて、馬ほどの身体はあまりにも頼りない。
そう、頼りないはずだ。
頼りないはずの、しかしなぜか誰も勝てないと思わせる身体を持ったソレは山の中にいた。
──そこをなんと表するべきだろうか
例えるなら、山の形に整えた豆腐を上の尖った部分からすりこぎ棒で垂直に押しつぶしたような、と言えばなんとなく分かるだろうか。
その山………否、その山だったものには山頂から地下までを円柱状の巨大な穴が一直線に貫いている。
明らかに自然にできたものではない。
さりとて人工で山に3000mの穴を開けるなど不可能だろう。
しかしそれが可能であることを、その巨狼がいる場所が示していた。
天霊の山脈の山はものによって違いはあるが、そのほとんどが活火山だ。
そして穴が開いた山だったものも例外ではない。
本来であれば吹き出るであろうマグマは、しかし日の目を浴びることはなかった。
何故か?
既に固まってしまっているからだ。
天を灼くマグマは地中にて既に冷え、溶岩と化している。
急速に冷やされたが故にところどころにひび割れが入り、そこから新たなマグマが噴き出そうとするも、この状態を成したものによってまた冷やされ、蓋となった。
そんなあまりに無理やり作られた岩盤に埋まっているモノがある。
「フン、つまらん」
それは、言うなれば巨大な猫だろう。
地中から覗く頭だけでも体高が数十mはあると予想される大きな猫。
「やはり罪に呑まれた魔王などこの程度か」
それはかつて魔王だったモノ。
「嫉妬」の罪を冠し、星に二つ名スキルを与えられた幻想の獣──即ち幻獣の一体。
名を「災禍十顕」ハトゥール。
Sランクの中でも上から二番目である伝承級にまで達するその種族の名前は災厄呼ぶ禍猫。
強さ順で言うならば、世界でも十指に入るとはいかないまでも、二十までには入るでろうソレは、無様に屍を晒していた。
「目覚めは近いと言うのに未だ埋まらぬか………」
それを成したのは漆黒の巨狼。
ただの一撃で大山に穴を開け、その風圧でマグマを冷やし固めた張本人である。
人界にて災厄を招くとされている巨猫を赤子をあしらうかの如く一蹴した月瞳の狼王が憂うように呟く。
「「憤怒」「怠惰」「強欲」「色欲」は埋まっている。「暴食」は呑まれ、次の「嫉妬」は………ダメか。残り二席が空白と言うのはいささか不安が残るな」
此処にいるものは誰も理解できない、そもそもその呟きを捕らえることができるものなどそこにはいない。
──もしいるとすれば、それは彼と同じく神代に縁を持つものだけであろう
「殺してええんかったの?あちらさんかて同じ魔王やろ?」
限りなく音速に近く、しかし音速には至らないという絶妙な速度で空を踏んで地上に出た黒狼を出迎えたのは軽やかな声だ。
黒狼が声を発した方に目を向けると、そこには人のようなナニカがいた。
鵬国特有の着物と呼ばれる衣服に身を包み、高下駄を履き、背中には長刀を背負っている。
濡れ烏のような黒髪と血色の双眸が放つ妖しげな雰囲気は熟練の娼婦と言っても納得してしまいそうなほどだ。
姿形は妖艶な女性のそれであるが一箇所、明らかに人とは違うものがある。
それは頭から緩やかな曲線を描いて生えている二本の黒い角だ。
禍々しく、それでいて雄々しい双角は見る者に畏怖と恐怖を抱かせる。
そんな相反する凄絶な空気を纏った鬼がくぴくぴと徳利に直に口をつけて呑み、プハア、と美味しそうに息を漏らすと井戸端会議でもするかのように問いかけた。
「ぬ?誰かと思えば酒呑か。久しいな、何百年ぶりだ?」
「お久やねえ……ってそんなん覚えとるわけないやろ?」
「それもそうか。して、「強欲」の様子は?」
「あいも変わらず女子の心臓ばっかり食べとるよお。なにがええのかウチにはわからんのやけどねえ」
呆れたように彼女ーー酒呑と呼ばれた女性は答える。
「ふむ、あの趣味は相変わらずか。国を堕としてはや数千年、ヤツも少しは変わったかと思ったのだがなあ」
「あないな腐った性根が早々変わるわけないやろ。そう言うあんさんかて、あの頃と変わっとらんようやけど?」
「ぬぅ、そうは言っても俺は「そうあれかし」と願われて生み出されたモノだからな………高々数千年で変わるものではない」
「それ言うたらあちらさんかてそうやろ?欲深であれと願われて生み出された■■■■こそがあの方や」
神代において神々と星が生み出した幻獣こそが■■■■であり、それらは何らかの願いを背負って生まれる。
それ故に彼らは何千年経とうとも、はたまた死して尚その在り方を変えることはない。
「アレと同じというのは中々不愉快ではあるが……まあ、致し方あるまい。あの頃覚えているモノも減った。あんなでも同胞なのだからな」
「せやねえ………あの時代に生きとったモノは大体死んでもうたしなあ。そう考えると侘しいもんやわあ」
「今となっては俺が最強などと呼ばれようとは……ヴェルメリオあたりが聞けば笑いそうな話だ。もっとも、アレに笑うなどという機能があるかどうかは甚だ疑問ではあるが」
寂しがるように、しかし愛おしむように黒狼が呟く。
「ああ、あんさん、最弱として生を受けたんやったか。成長することを望まれたとは言え、成長しすぎやない?」
「それこそが彼のお方の願いであり、そして俺の願いだ」
「ふぅん………せやったらどれだけ強うなったか、試して見る?」
ひゅっ、と呑み終わった徳利を投げ捨てて立てて割れる音と共に、先ほどまで再開を喜んでいた緩やかな空気が一変した。
和やかな表情とは打って変わって、戦意を漲らせた笑みを浮かべて酒呑が挑発する。
酒呑が発した闘気によって空気がぐにゃり、と陽炎のごとく揺らめいた。
ただでさえ遠くで様子を伺っていた魔物たちが雲の子を散らすように離れていくのを端目に、酒呑は背中に背負った長刀に手を掛ける。
すらりと引き抜かれた長刀の刀身は、鎬から切先まで真紅に彩られていた。
「赤耀」
どこまでも鮮烈に色を放つ赤の刀身は闘争の気配を察したように、今か今かと血に飢えた獣の如く妖しく切っ先を光らせ、その興奮を表すかのように赤雷を発している。
「いいだろう。久々に歯応えのある相手だ。この俺を楽しませるがいい」
鬼神が凄絶な笑みを浮かべ、狼王が吠える。
その日、幾重にも連なる天霊の山脈の山々のうち、実に五分の一が吹き飛び、あるいは半壊した。
──人のあずかり知らぬ魔境にて、人外の戦いが幕を開ける
──それは神話の再現
──それは同胞との再会の喜びを謳った宴
──それは「兆戦練磨」と「慕剣慕人」の戯れあいである
Name:ハトゥール
Phylum:災厄呼ぶ禍猫
Species:幻獣
ランク:Sランク伝承級
基幹:分身・切断
生息地:天霊の山脈
二つ名:災禍十顕
ランクとしては上から二番目であるSランク伝承級と割と強かったりする今代の「嫉妬」の魔王。二つ名スキルである「災禍十顕」は自身の二つ名スキルを除く全てのスキルとステータスをフルコピーした分身体を九体出現させるというもの。分身体を倒されても相当な魔力こそ消費するものの、ほぼタイムラグなしで分身体の補充が可能という結構なチートスキルを持ってらっしゃった………んだけどいかんせん相手が悪かった模様。外見はデカイ猫で眷属もそこそこいる。ノヴィシアに全部消し飛ばされたけど
なお、ノヴィシアvsハトゥールの内約としては大体以下の通り
ハトゥールが「災禍十顕」を使用して仕掛ける
↓
ノヴィシアが分身体二体まとめてぶっ飛ばす
↓
ハトゥールが分身体を補充して再度仕掛ける
↓
ノヴィシアが分身体を倒しても意味がないと判断
↓
分身体と本体が一直線になるように誘導する
↓
そこそこ強めの猫パンチならぬ狼パンチで分身体と本体まとめて上から粉砕
ノヴィシアからしてみれば所詮はデカイだけの猫がいくら群れても別に……となる悲しみの歌。兎にも角にも相手が悪すぎたんや……なお、「暴食」と「色欲」を除く他の四体(ノヴィシア除いて)にも程度の差はあれど大体秒殺される模様。だって所詮は玉座についてない魔王だもの
というか名前からして分かる通り、コイツの設定は結構適当。ぶっちゃけノヴィシアを登場させるためだけに作ったキャラなのでスキルに関しては「災禍十顕」以外はまともに考えてないです
ちなみにノヴィシアはマジモンの最強。作者が調子乗って設定を詰め込んだ挙句、強くなりすぎたキャラその一。主人公?一秒すらかからずに死にますわ。なんなら戦闘にすらならない。シオンでギリギリ〝戦闘〟に辛うじてなるというレベル。詳細は伏せるけど身体能力がぶっ飛んでおり、普通に音速を超える速度で走りつつ、その反動によるダメージを全く受けないとかいうクソみたいな肉体をしてらっしゃる作中随一のチート。これから出てくる強者たちの中でも〝最強〟をあげろと言われたら作者はまず一番にコイツを出します。物理特化なため遠距離攻撃に乏しいのが唯一の救い。まあすぐ詰められるんですけどね
え?万が一遭遇したら?………祈れ




