第三十八話 裏門開戦
皆さんボックスガチャは進んでますか?私?もうそろそろ百回行きますわ。オンデマンドって素敵ね、授業受けながら周回できるんだもの。………んなことやってっから単位が危なくなるんでしょうねえ………
それとプロトマーリン実装ってマ?本家でも早く実装しねえかなあ………アーケードはやらん、散財するのが目に見えてるので
「来たね」
そう全員に聞こえるように呟いたのはフレデリカだった。
普段のふざけた表情は鳴りを潜め、そこには一人の狩人がいた。
ピクピクと耳を揺らし、林の奥を見つめている。
森の民と呼ばれるエルフは総じて耳や目がよく、弓の扱い長けており、彼らの固有の魔法である「精霊魔法」を得意とし、さらには千年を生きる長命種だ。
ハイスペックである反面、近接戦に弱い傾向があるが、上記のスペックを鑑みれば帳消しどころかお釣りが出る。
フレデリカもその例に漏れず、弓兵としての技能を駆使して見通しの悪い林の中にいる敵影を捉えた。
「数は11。黒装束が10人にあれは………騎士かな?なんか思いっきり場違いな奴がいるんだけど」
「どんな人なんですか?」
「さっきも言った通り騎士。銀色の全身鎧に赤のマント。腰に剣を掃いてるから剣士だと思う。あんな重装備で隠行する気あるのかな?」
「多分そいつが神聖騎士を引き付けて残りが聖女様を襲おうって腹じゃないか?」
「にしたって囮が1人だけってあり得る?1人だけで神聖騎士団を全員相手取るなんて無理でしょ」
「となると暗殺者の数名とその騎士が囮ってこと?」
「わっかんないなあ………」
フレデリカの報告にミカエラ、エドワーズ、リゼットが自分たちの意見を述べるのを見て、セドリックは少しばかり若さに気圧される。
(想像力豊かというか………いや、冒険者として悪いことじゃないし、むしろいいことなんだが)
いかんせん、この熱量は40を目前にしたおっさんには些か堪えるものがある。
肉体的には全然なのだが、精神的な衰えは如何ともしがたいと思えてくる今日この頃だ。
なお、フレデリカの実年齢は考えないものとする。
「ま、取り敢えず了解だ。フレデリカ、それとリゼット、先制攻撃頼む。命中はしないかもしれんが不意を打って足止めぐらいはできるだろ。ミカエラは支援の魔法を。それとフレデリカ、神聖騎士団への連絡は?」
「もうやっといたよ」
「オッケー、それじゃ、2人とも頼む」
「りょーかい」
「分かったわ」
フレデリカが肩に担いだ長弓を構え、矢を引き絞る。
手に握られた弓は霊樹から作り出されたもの。
故郷に居た顔馴染みの細工師が餞別にと送ってくれたものだ。
その出来はそんじょそこらの魔剣にだって劣るものではない。
「荒れ狂う風、怒り暴れる大いなる大気よ。廻り、巡り、暴虐たる龍となりて我が敵を塵と化せ」
傍らでリゼットが詠唱を始めたのを聴きながら、狙いを定める。
林に隠れる敵の数は十一。
その全て撃ち抜く!!
「尽く撃ち抜いてあげる!!『アローレイン』!!」
「いざ、四つ首の龍よ!!己が本能に従い荒れ狂え!!『ドラゴ・アネモス:四重奏』!!!」
上空へと一条の矢が放たれ、それに追随するようにして虚空に出現した緑色の魔方陣から四頭の風龍が放たれ、天へと駆け昇る。
五つの流星は、林の真上まで来たところでその挙動を変える。
あらゆる敵を撃ち抜くために放たれた矢は、最高点に達したところで分裂し、技の名の通り、雨の如く降り注ぐ。
あらゆる敵を塵にまで消し飛ばすために解き放たれた風の龍は、同じく最高点に達したところで鎌首をもたげるようにして地面を睥睨した後、流星群の如く四つの軌跡を描いて地面へと墜落していった。
矢の雨と風の四つ龍が大地に降り注ぎ、林に紛れた影法師たちは吹き飛ばされ、それを避けた者もただでは済まないだろう。
──そう、そのはずだったのだ
「灼き払え、クラレント」
誰かが呟き、豪、と熱い何かが吹き荒れた。
それは矢の雨を尽く燃やし、風龍をいとも容易く飲み込む。
人は、それを炎と呼ぶ。
ただ、それだけであったなら、セドリックも動じることはあっても呆然とすることはなかっただろう。
──木が無くなっている
カトリス聖遺跡を囲む林。
それは裏門も例外ではなく、入り口のみを残すようにして鬱蒼と生えていた。
その林が、扇を描くようにして刈り取られ、否、焼き尽くされていた。
ただ燃えているだけならば、まだ理解はできた。
だが違う、燃えているのではない。
葉も、幹も、枝も、根さえも。
木を構成する全てが灰すら残さないほどに焼き尽くされて、原型などとっくにわからなくなっている。
「──ふむ。これでようやく鬱陶しい木々が消えた」
何もなくった扇状の大地に一人の男が当然の如く立っていた。
銀色の鎧を身に纏い、真紅のマントをはためかせている。
身長は180cmを越えており、重厚な鎧を身に纏ってなお、その動きは軽く。
焦げ茶の髪がたなびき、その奥に光る真紅の瞳が見晴らしの良くなったあたりを睥睨する。
その手に握られているのは白銀の剣。
長さは160cmほどだろうか。
見るからに業物と思わせる雰囲気を漂わせており、遮るものがなくなったこの地で日輪の光を浴びて銀色に光り輝いている。
「隊長、我々は隠れる場所が無くなってしまったんですが………」
「喧しい、とっとと行け」
「ええー?まあ、了解」
と、彼に目を奪われている不意をつくようにして、黒装束の彼らが軽いノリで脇を潜り抜けるようにして聖遺跡に入っていった。
だが、それを止める者はいなかった。
正確には、止めることなどできなかった。
目の前の男の目が、「止めれば燃やす」と如実に語っていたからだ。
詠唱などなく、ただの一言でこの辺り一帯の林を塵へと変えた男を前にして、無用意に動けば即座にアレが来ると分かっていたから動くことなどできなかった。
そして何より、
「クラレント……………そう言ったな?」
「あ──もう!私の聞き間違いに賭けてたんだけどなあ──!?………やっぱりあの剣ってそういうことだよね?」
諦め半分と言った口調でフレデリカが男の持った白銀の剣に目を向ける。
それは、かつて三神教で秘宝として扱われていた剣。
その剣自体が使い手を選び、選ばれた者が神聖騎士団において四番隊の隊長に就任するという秘宝中の秘宝。
あらゆる物を溶断する魔剣。
数ある魔装の中でも最高の一品として厳重に保管されるべき聖遺物。
「聖剣クラレントか………!」
「その通りだ」
呻くようにしてその剣の銘そ口にしたエドワーズに男が肯定する。
ヒュン、と白銀の聖剣ーークラレントを一振りすると、地面に突き立て真っ直ぐに5人を見据える。
「そしてその担い手こそがこの俺、ブレイズ・ケーニッヒというわけだ」
「叛逆の騎士………!元神聖騎士団四番隊隊長、「不滅」のブレイズか!!」
「後半はともかく前半の異名は正直的外れだが………まあいいか、命が惜しいのならばそこを退け。俺とて不要な戦闘は避けたいのでな」
──だが、
「愚かにも聖女などという悍しい偶像を守りたいというのなら好きにするといい。ただし、愚かさの代価としてその身体の一片たりとも残さず燃え尽きると知れ」
どこまでも苛烈に、それでいて鋼鉄の如き冷たさでそう述べる。
そうであれば逃さぬと、彼が放つ熱拍の意思が告げている。
その言葉を受けて彼らが選んだのは、
「ま、そういうわけにも行かないよねえ?」
「おじさんは守ることしか能がないもんでなあ?」
「いや、そんなことないですよ!?」
「どこまでやれるかは分かりませんが」
「やれるだけやってみないとね!」
果たして抗戦だった。
弓兵が、盾兵が、剣士が、神官が、魔法師が抗戦を告げる。
とても賢いとは言えない、むしろ愚かと言っていいだろう。
それでも彼らは抗戦を選ぶ。
──何故か?
そんなのは決まっている。
「冒険者だからな」
──自分の命をチップにして冒険を楽しむのが冒険者なのであれば、
──かつての神聖騎士団の隊長格相手に引き下がるなど有り得ない
「行くぞ!!」
誰かが、あるいは全員が、不滅と呼ばれた騎士に向かって気魄を上げた。
◇◆◇◆◇◆
最初に動いたのはブレイズだった。
「ハアッ!!」
ブレイズが両手に握った白銀の剣を振り下ろすと、ゴッ、という音を伴って熱波が迫る。
放射状に放たれた熱波は五人を捉え、すべてを燃やさんと上げる咆哮は、皮肉にも彼が先ほど焼き尽くした多頭の龍を思い出させた。
されど、首の量は先ほどの風龍とは比べ物にならず、そこに秘められた熱量もまた、尋常ではない。
「『ファランクス』!!」
立ちはだかるは大楯を構えた盾兵。
「盾術」のアーツである『ファランクス』によって強化された盾を持って熱波を迎え撃つ。
握られた大楯は堅牢にして剛健。
押し寄せる熱波を前に一歩も引かないその姿は正しく守護者だった。
僅かに盾兵と熱波が拮抗し、けれどそれもそう長くは続かなかった。
「オオッ!!」
セドリックが黒鎧の守護者に違わぬ威風を纏って、熱波を突き破る。
それもそのはず、その漆黒の盾と鎧は龍種の中でも特に防御に優れた地龍の鱗を剥ぎ取って作られたものであり、魔法への耐性は相手が聖遺物であろうともそう易々と破れるものではない。
「エド!」
「了解!!」
セドリックの影から飛び出たのはロングソードを携えた剣士。
これ以上ないほどに息の合ったタイミングで、エドワーズがセドリックの前に躍り出る。
「チッ」
ブレイズが白銀の長剣をもって迎え撃──
「『シールドチャージ』!!」
──つよりも早く、セドリックが仕掛けた。
「盾術」のアーツである『シールドチャージ』。
自身の筋力を爆発的に高め、その威力を持って相手を吹き飛ばすアーツ。
この技の特徴は単純に威力に優れているだけでなく──
「オオッ!!」
──脚力も強化するという点である
今まさにエドワーズを迎え撃とうとしていたブレイズにとって、飛び出たエドワーズを追い越して突き進むセドリックは、完全にブレイズの死角をついている。
「破ァ!!!」
にも関わらず、即座に対応できたのは流石としか言いようがない。
瞬時の判断で剣から離した左手で盾に「気功術」で強化した裏拳を叩き込むことで、轟音を立てながらもセドリックの突進をとめる。
鳴り響く轟音。
大楯と剛拳の威力は互いに互角。
「『フォーリング・ブレイド』!!」
すかさずエドワーズがセドリックと時間差で斬りかかる。
見ればアーツと思しき稲妻が剣に走り、それとは違うオーラがエドワーズの身を包んでいる。
(スキル、アーツか?………いや、違う!「付与魔法」か!となれば………)
後ろで控えている面々を見れば、神官のミカエラが魔法を発動しており、魔法使いのリゼットが魔法の準備をしている様が目に入る。
そうこうしているうちに、稲妻を纏った長剣が上段から振り下ろされる。
セドリックが絶えず盾を押し込んでいるせいで、左手は封じられ、迂闊に剣を振りかざすこともできない。
やむなく白銀の剣をエドワーズの長剣と肩の間に滑り込ませ、柄近くの肩当ての部分を肩に当てることで衝撃を右足を伝って地面に逃す。
限られた時間の中で、最善の選択肢を選び取り、それを実行させる思考と技術は流石、元神聖騎士団四番隊隊長と言ったところだろう。
「ヌゥうう!!!」
ズン、と足が地面に沈み込む。
だが、これで前衛2人の武器を封じた。
至近距離からであれば不意打ち気味の溜めを必要としない聖剣の炎でも2人を倒せるだろう。
今、詠唱している魔法使いでは間に合わないし、神官程度が授ける加護に防げるほど聖剣の炎は甘くない。
そう考え、
(待て、弓兵は?)
至った時にはもう遅かった。
「さっき燃やされた恨み、ここで晴らさせて貰う!!「疾風」を舐めるなよ!!『三つ星の曲射』!!」
流星の如き三条の矢が空を裂き、うねりながらブレイズ目掛けて突き進む。
三人が密集した中で、セドリックとエドワーズの間を縫って標的を捉えて逃がさないその技術は超絶技巧としか言いようがない。
加えてその矢には彼女のユニークスキルである「疾風貫穿」が付与されており、今なら鉄板どころか小規模な城壁さえも撃ち抜けるだろう。
それが三本、ブレイズに向けて放たれた。
「ぬっ、ぐぅ!!」
咄嗟に矢の進路状に手を置いて矢を阻もうと試みるが、城壁をも貫く矢を前には人の腕はあまりにも無力だった。
腕を貫いてなお止まらず、風を纏った流星は腹を、足を、肩を貫通し、その勢いを止めることなく、後方へと飛び去っていった。
「セドリックさん!詠唱終わりました!!」
「よし、ぶちかませ!!」
しかし、これで終わりではない。
「疾風」の矢はあくまで本命を撃たせるための前座に過ぎない。
即座にセドリックとエドワーズが退き、強大な魔力を感じて空を見上げれば、そこには浮遊し、稲妻を発する金色の魔方陣が。
古来より人によって神の鉄槌として崇められ、現代魔法技術では再現可能となって今でも信仰され続けているもの。
天より降り注ぎ、宙を裂き、大地を鳴らし、人々を恐怖たらしめるもの。
「墜ちろ大雷霆!!『雷神の鉄槌』!!」
己の魔力の実に8割を消費して完成される上級魔法。
魔法の構成自体は単純であるものの、規模が尋常ではない程に大きいため、必要とされる魔力量が桁違いに多く、単純に魔力量のみで言えば特級魔法にすら匹敵する大魔法が一人の騎士に向けて放たれた。
躱そうにも足を、肩を射抜かれた身体では間に合わない。
故に、取れる行動はただ一つ。
「吼えろ、クラレント」
白銀の聖剣をむけて一言呟くと、突如としてクラレントから膨大な量の白炎が噴き出す。
「オオオオオオッ!!!!」
咆哮をあげて天上へと聖剣を振り抜くと、その剣軌跡をなぞらえるようにして白炎が天へと駆け上っていく。
迫りくる神雷を模した大雷霆、迎え撃つのは聖なる白炎。
打ち勝つのは果たして──
アトランティスをプレイした時からどっかで三つ星を入れたいって思ってたんです………




