第三十六話 神殿を彩る紅水に喝采を
相変わらずブクマ件数増えねえなーと思いつつも、減ってもいないから見続けてくれる人が居るんだな〜とニマニマしてる今日この頃。べ、別に感謝なんてしてないんだからね!(男がやっても需要がないツンデレ)
そして第二章がいよいよ四十話で終わらなくなってきた。予定調整ガバガバかよ………
視界の端で、知覚領域内の中で、確かにソレを見た。
イラついたシオンの暴風の如き銀刀が横から入った暗殺者たちの首を、腹を、足を、腕を、胸を輪切りにした。
鮮血が噴水の如く噴き出て、あたり一帯を血の海で染める。
その光景を見て、その惨状を己の目よりも信用している知覚領域で感じ取って。
初めて人が死ぬ光景を見たが故に攻撃の手が止まるーーなんてことはなかった。
半ば自動的に魔法を使う自分をどこか別の誰かのように捉える自分がいた。
「アイツまだ強くなるん?」とか「第二形態あるとか完全にボスキャラじゃん」とかそういう下らない感想はなく、噴き上がる鮮血に、零れ落ちる臓物に、美しく切り取られた骨の断面に、ただただ釘付けになった。
その時俺の心の中をたくさんの言葉が埋め尽くした。
──美しいものを見た
『アハッ』
──地面を染め上げる鮮血が、零れ落ちていく命のように思えて
──「こんなはずじゃなかったのに」とでも言いたげな暗殺者たちの顔が面白くて
──致命傷を負ってなお、生きようとする暗殺者たちの足掻きが愛おしくて
──憎悪に染まった顔を見るのが愉しくて
──人の命が散っていく様を見るのがとてつもなく幸福だった
魔物が死んでいく様とは決定的にナニカが違う。
彼らはこんなに面白くないから。
こんなにも個体によって異なりはしないから。
善性と悪性を理不尽という名のスパイスを入れて鍋で三日三晩煮込んだような人間という種のあり方が見れるのが、これ以上ないほどに嬉しかった。
──次ハ、何ヲ見セテクレル?
◇◆◇◆◇◆
「豪華な食事の最中にゴミみたいな汚物を出されたら誰だって怒る。そうは思わんか?なあ、暗殺者の長よ」
「…………」
足下を鮮血の海が染めていくのを端目に、今は怒りなどないような口調でシオンはそう問いかける。
一瞬に内に十の剣閃を放ち。六つの影法師を血の海に沈めた悪鬼が嗤う。
その嘲笑を見て、過酷な訓練を受けた残りの2人の暗殺者は身震いする。
「今度は自分たちがああなるのか」と。
頬に着いた返り血を拭いながら、白銀の剣光を暗殺者たちに見せつける。
「しかし、変式とは言え我らが御影の奥義を出したのにもかかわらず、今まで通りというのも興醒めだ」
しかし銀光を振るう事はなく、逆にシオンは銀光を背中にくくりつけた鞘に収めた。
「…………なんの真似だ」
「言ったろう、興醒めだと」
チン、と音をたてて銀光を納刀すると、今度は腰に差した大小の内、打刀ーー時雨の鯉口を切った。
スゥーー、と静かに鞘からその美しい刀身が現れる。
「真髄を見せると言っている。御影の奥義を見せた以上、今までと同じようなお遊びでは、我らが御先祖様方に顔向けできんというものだ」
抜き放った時雨の切っ先を暗殺者の長に向け、正眼に構える。
「ふぅううう─────」
長い、長い息をつく。
己の体から酸素を全て吐き出すかというほどに長く、
「すぅう──」
再び息を吸い込み、やがて深呼吸を止めると、
(────っ!!?)
その瞬間、暗殺者の長の背中に怖気が走った。
幾度となく任務を完遂してきた彼をして、これまで感じたことのないほどの恐怖と「逃げたい」という本能的な衝動が襲いかかる。
ギュ、と両手に握り締めた暗器がこれ以上ないほどに頼りなく思えて仕方ない。
あの男が水色の妖刀を振り下ろせば、この距離でも暗器ごと斬り裂かれるのではないか、そう思ってしまう。
(そんな筈はない。そんな筈はない…………のに)
──どうして、自分の首に死神の鎌が掛かっている様が目に浮かぶのだろう
「改めて。御影幻刀流免許皆伝、シオン・ミカゲ。参る」
その言葉とともに正眼に構えた時雨の切っ先が僅かに動き、
──トン
「──っ!!?」
次の瞬間、時雨の切っ先が目の前にあった。
いっそ不可解とすら言える状況に、暗殺者の長は驚く暇すらなかった。
「ぬぁあっ!!」
にも関わらず、死を告げる刺突を避け切れたのは、一重に彼の実力ゆえのものだろう。
後ろに下がりながら首を捻り、それと同時に暗器を刀身の当てて、無理矢理軌道をねじ曲げる。
火花が散り、聴き慣れた金属音が耳に響く。
薄皮一枚、妖刀が斬り裂く音と感触が自分がまだ生きていること告げ、そのことに安堵する。
刹那、
──トン
「づっ!!?」
いつの間にか暗器で逸らしていた時雨が消え、シオンはさらに踏み込み、右斬上げに時雨を振るっていた。
高速起動などと生温い動きではない。
まるで時間でも止めたかの如き、いっそ不自然な動き方。
「っぬ、ぉおお!!!」
だが彼はそれにも反応しきる。
その技量は配下の暗殺者を遥かに上回る。
冒険者で比べるならば、戦闘力ではAランクの戦士に追随し、斥候として能力はSランクにも及ぶだろう。
そんな彼をしても凌ぐので精一杯なシオンの剣戟は、常軌を逸していると言っていい。
咄嗟に両手に握った暗器をクロスすることでなんとか受け止め、その勢いを利用することで飛び退き、シオンから距離を取る。
「チッ」
バキン、と暗器の片方が折れたことに舌打ちし、シオンがまだこちらに向かってこないのを確認して、ポーチにしまっておいた予備の暗器と取り替える。
「いや、見事見事」
なんとか息を整えた暗殺者の長にそんな声が投げかけられる。
見れば、トントンと時雨の峰で肩を叩いているシオンの姿。
「確かに殺ったと思ったのだがなあ。存外しぶとい」
言葉の内容は忌々しいようではあるが、それに反してシオンの顔と声は喜色に彩られていた。
それも束の間、チャキ、と時雨を下段に構え直すと、先ほどまでの押し潰すような圧迫感が戻る。
「では続きだ。せいぜい足掻けよ?」
◇◆◇◆◇◆
──和服の男の姿がぶれ、いつの間にかそこに合った妖刀を黒衣がすんでのところで躱す
よく耐える、そうランデルは思った。
瞬間移動でもしてるのかと思うような剣筋。
Aランク冒険者として名を馳せているランデルでさえ、あの疾風怒涛の剣戟を凌ぎ切るのは難しいだろう。
それをあの暗殺者の長は数十合も凌いでいる。
ただ早いだけであれば対処はできる。
予備動作、呼吸、気配などから相手の次の動きを読み取るのは、武芸において一定以上の実力を持った者であれば当然こなせる技術だ。
暗殺者という人の不意を撃つことに長けた人種であれば尚更に。
その熟練の暗殺者がなぜ凌ぐので精一杯なのか。
答えは単純、シオンがその読み取る情報を極限にまで削ぎ落としているからだ。
無駄というものを徹底的になくし、気配を偽り、殺気に虚実を織り交ぜ、相手の虚をつき、フェイント、ブラフ、ディレイといった「騙し」を合間合間に入れる。
それは武芸に専心した者であるが故の体に染み付いた技術。
紛うことなき達人の妙技だ。
だからこそ疑問に思う。
──なぜこれほどの実力者が在野に埋もれていた?
不可解と言えばあの水色の刀もだ。
名のある名刀だと言うのは見ればわかる、斬れ味は相当だと言うのも。
だが、あまりにも斬れ過ぎだ。
──暗器と時雨が打ち合えば必ず暗器が折れる
──ほんの少しぶつかっただけでも折れる
──時雨の切っ先が触れただけでも折れる
いっそのこと不自然とすら思えるほどに暗器が折れ過ぎている。
実のところ、それが時雨の妖刀としての唯一の機構であったりする。
龐国において武家が切腹をする際、介錯人が刀に水をかける“清め”という儀式がある。
これを行う理由としては、神聖な儀式において“刀を清める”というのもあるが、それと同時に斬りやすくするためというのもある。
水を刀身にかけることで摩擦抵抗を減らし、首を一振りで斬りやすくするのだ。
時雨の妖刀としての機能はただ一つ。
大気中の魔力を時雨が吸収し、それを水に変換して鍔元から流すのだ。
切っ先まで流れた水は大気中の魔力に還り、その魔力を再び時雨が吸収して鍔元から水を流すという仕組みだ。
それによって時雨の刀身には絶えず水が流れ、摩擦抵抗が少なくなっている。
これが暗器がパキパキ折れまくっている理由だ。
もっとも、シオン自身の剣の腕と時雨の斬れ味あってのものだが。
◇◆◇◆◇◆
──無間の剣
かつて大した思い入れのない祖国でそう呼ばれた剣技を振るう。
俺には生まれつきいくつかの非凡の才能が備わっていた。
そのうちの一つが人の虚をつく才だ。
相手を集中して見ればどのタイミングで間合いを詰め、どこに斬りかかり、どのように剣を振るえば相手の虚をつけるのかがなんとなく分かるのだ。
ただ、それはあくまで“そう動けば虚をつける”というだけであって、その“そうすれば”は相当な難題だった。
およそ常軌を逸した速さ、力、挙動。
俺が感じた“そうすれば”はそんな動きを要した。
あまりに無茶な動き、けれど。
そこまできて、ふと思った。
──あらゆる物の“虚”をつく才
──であるならば、形なきモノ、即ち幻のモノの虚もつけるのではないか?
それは御影幻刀流にも通ずる考え。
鍛え上げた人の剣技は岩をも斬る。
──であるならば、
──幻であろうと、確かに其処に在るならば、
──幻であろうと斬ることができるのではないか?
あまりに荒唐無稽な考えだ。
しかし、御影の初代はそう考え、そしてそれを為したという。
………まあ、その代償が肢体爆散では世話ないが。
ともかく、俺が生来持ち合わせた多くの才はそれに通ずるものだった。
父では至れぬ境地へと足を踏み込むことのできる人間だと自覚したのだ。
それを為すことができたのなら、きっと俺を忌子と蔑んだ家族を見返すことができる。
それからは早かった。
元より剣は好きだった。
家族と隣人から疎まれ、友人はおらず、納屋に押し込まれ、唯一まともに話ができる人間と言えば妹だけ。
その妹もだんだん歳を重ねていくにつれ、自分と俺の立場がわかってきたのだろう。
双方に降りかかる災難を危惧したことで会う回数は減り、会うにしても人目につかないところで会うようになった。
それ故、まあ、なんというか………暇だったわけだ。
日夜、素振りをし、実家の道場を覗き見て技を盗んだ。
天は俺に人との良縁を授けなかったが、代わりに戦いの才を授けたようだだった。
剣も弓も槍も、拳の技も。
すべて見れば模倣でき、鍛錬を重ねれば見本を超えることができた。
そして鍛錬を続けていくうちに、いつしか「見返す」ことが目的ではなく、「幻を斬る」ことが目的となっていた。
成人ーー即ち18の頃に土下座をして頼み込んで父と立ち会ってもらい、三合で打ち負かした。
その三年後には妹に頼んで持ってきてもらった御影の奥義書、そこに記されていた“右の奥義”を会得した。
御影の奥義は初代が最期に開眼したとされる左の奥義と、二代目が開眼したとされる右の奥義二つにわけられる。
どちらも既に失伝したものであり、書物にしか残されていないものだった。
それを会得したとき、周囲から向けられたのは感嘆、賛美といった類のものではなく、嫉妬、恐怖、敵愾といったものだった。
もっとも身近にいた妹でさえ、最初に向けたのは未知への恐怖だった。
それでようやく悟った。
──ああ、ここに俺の居場所はないのか
気づくのが遅すぎた、と言われればその通りだ。
酒の席でそれを聞いたルキアなんかは爆笑して「お前、鈍すぎない?」とか言って罵倒してきやがった。
普通にイラっとした反面、下手に同情されなかったのは有り難かった。
不幸話をしたかったわけではなかったのだから。
でもあのクソ蛇絶対許さん。
人の不幸話を肴にして酒を飲むとか悪魔か?いや、それでは悪魔が可哀想か。
閑話休題
気づいてからは早かった。
家族に国を出て武者修行旅に行ってくると言ったら大層喜ばれた。
せめてもの嫌がらせと、家宝である銀光を掻っ払ってきたりしたが、それ以外は普通に出て行った。
冒険者なんてのをボチボチやりながら気の赴くままに放浪して、やがて今に至るわけだが………現実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、まさか魔性の友人ができるとはあの時は思いもしなかった。
今振り返れば、あの故郷での日々もそう悪いものではなかったと思えるのだから人間とは不思議なものである。
あの日々は、屈辱に耐え、反骨心から始まった剣は、今こうして自分の生きる理由になっているのだから。
だから、決して無駄ではなかったのだろう。
ざっくりシオンの過去編。“忌子”に関してはまたいずれ………つってもだいぶ先のお話になりますが。
シオンのステータスを挙げときます
Name:シオン・ミカゲ
Level:291
Phylum :人間種
Species :人族
HP:79,300/79,300
MP:41,100/41,100
Strength :40,200
Vitality :38,000
Dexterity :42,100
Agility :42,600
Stamina:40,000
Luck:68
Skill:
【耐性系】
毒耐性Lv.39
麻痺耐性Lv.36
恐怖耐性Lv.29
混乱耐性Lv.54
魅了耐性Lv.33
呪詛耐性Lv.35
【魔法系】
魔力操作Lv.68
付与魔法Lv.59
【感知系】
心眼Lv.84
気配感知Lv.77
気配遮断Lv.45
危険感知Lv.80
鷹の目Lv.42
空間把握Lv.82
歴戦の勘Lv.68
【身体系】
剣術Lv.90
体術Lv.79
魔力強化Lv.83
気功術Lv.84
縮地Lv.78
剛体Lv.73
豪力Lv.76
抗魔Lv.52
弓術Lv.62
槍術Lv.76
逆境Lv.40
武芸百般Lv.78
剣の境地Lv.--
【その他】
鬼種の血脈Lv.--
Unique Skill:万夫不当Lv.72
童子の狂眼Lv.21
改めて見ると頭おかしいですねえ………
ちなみにSランククラスになるとこんなんばっかです。まあ、シオンとお嬢は色々事情があるので同レベルの人間と比べるとステータスは高いですが。つってもその要因はガッツリステータス欄に書かれてますけど
ちなみに“境地”と名のつくスキルは称号みたいなものなんで対応するスキルに補正はかかるけどそれ以外は特にない。記念スキルみたいな?




