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魔女の使い魔  作者: 自動機械鮎
第二章 戦火舞い散るは古の神殿
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第三十五話 戦況変動

 ──世界の事象を偽ろう


 ──此処に在るべきものはなく、


 ──其処に在り得ざるべきものが在る


 ──人を偽り、神を欺き、獣を計り、星すらをも騙ろう


 ──しかして世界に矛盾はなく、


 ──それこそが刹那、あるいは六徳よりも短き時の後、


 ──世界の在るべき姿である


 ──座標転移(テレポート)


 魔法にはいくつかのランク分けがある。

 下から順に初級、中級、上級、そして特級。

 この『座標転移(テレポート)』は「時空間魔法」における特級魔法だ。

 効果としては単純で、対象の座標を書き換えるだけの魔法。

 ただし、それに使われる労力は他の魔法と比べても段違いに多い。


 まず、X、Y、Z軸の3次元での座標展開に加え、対象が現時点いる場所と転移した後の座標指定。

 次に転移前と後の距離を計算し、その距離に応じた魔法の要魔力量の計算。

 そして対象の存在規模に比例して魔力量も変動するため、そちらの計算もしなければならない。

 このタイミングで魔方陣を形成し、魔方陣を起動することで転移を実行する。

 ここまでが特級魔法『座標転移(テレポート)』のプロセスである。

 同じ「時空間魔法」に属する『転移門(テレポートゲート)』であればもっと手順も違うのだが、そもそもあちらは魔導の領域だ。

 加えていうなら転移のアプローチも違う。


 『転移門(テレポートゲート)』は言わば、寄り道だ。

 現実空間に2箇所の次元の狭間に通じる()を開け、次元の狭間を経由して目的地へと辿り着く手法だ。

 次元の狭間において時間の流れ、そして距離の概念もないため、タイムロスなしで目的地にたどり着くことができる。

 もっとも、それを行うにはそれ相応の魔力と干渉力が必要な訳だが。

 なにせ、()()()()()()()()などという、まさしく神の御業だ。

 生半可な存在ができるもにではない。


 一方、『座標転移(テレポート)』は座標の書き換えだ。

 自身が設定した座標軸で、例えば座標(a, b, c)に存在する物体Aを座標(d, e, f)にいると()()()()()()()()のが『座標転移(テレポート)』だ。

 『転移門(テレポートゲート)』がショートカットだと言うのであれば、『座標転移(テレポート)』は差し詰めデータの改竄だろうか。

 世界の情報そのものに干渉するため、要求される魔力量もそれに応じて大きくなるし、演算に至っては常人がやろうとすれば発狂するレベルだ。

 もし要魔力量の計算が間違っていれば、魔方陣は即座に破綻し、転移対象がどうなるかなど見当もつかない。


 面倒、危険、不確定要素が多すぎる。

 それが『座標転移(テレポート)』という魔法だ。

 もっとも、「時空間魔法」自体、世界そのものに干渉する魔法が多いため、計算量が多いという欠点は大体似通ってくるのだが、『座標転移(テレポート)』はその中でも突き抜けている。


 だが、「蒼天の魔女」ならば。

 いや、()()()()()()()()()()ならば、そんな絶技も可能だ。

 原始魔法を除いたあらゆる魔法に適性を持ち、魔力量において魔物の中でも随一を誇る精霊種、その高位の個体にも引けをとらない至高の魔女(アリシア)ならば。

 全ての魔法を極めることのできる素質を持ち、潜在能力のみの話であれば「凍土の魔導師」すら比べ物にならない彼女であれば、()()()時間をかければ『座標転移(テレポート)』を()()()()で発動することが可能だ。




◇◆◇◆◇◆




「なっ………キースさん!?」


『この時を!待っていた!!』


 一生に一度は言ってみたかったランキング第5位のセリフを叫びながら万里の堅鎖を4本、ヒューゴ………ではなくエマに向けて射出する。

 流石お嬢だ。

 『座標転移(テレポート)』の基礎理論を聞いたときには思わず「頭おかしくなったのかな?」という目で見てしまったが、それはそれ。

 荒唐無稽な理論であろうとお嬢は成し遂げた。

 であればこちらもやるべきことを果たさねばなるまいよ。


 最大の障害であるキース・ファロンテッサがお嬢と共に消え、シオンが暗殺者(アサシン)の長を仕留め、ランデルが暗殺者(アサシン)たちを潰し、俺とヘカテがヒューゴとエマを無力化する。

 それが本作戦の大まかな概要であり、キースが消えた今、迅速にこの2人を処理しなければならないのだが………。


「『フラッシュスラッシュ:四重奏(カルテット)』!!」


 合間に滑り込んだヒューゴが閃光のような剣舞を四度、見舞うことで万里の堅鎖を叩き落とす。

 

「クソ蛇が!!その素っ首叩き落とす!!『バーチカルドライブ』!!」


「御影幻刀流『墜天』」


 疾走しながらの斬り上げが俺の首を捉え、その軌道をヘカテの唐竹が阻む。


「クソッ!退──んオッ!?」


「煩いです」


『ヘカテェ!!?』


 無理やり押し切ろうとしたヒューゴの腹ーーというより股間にヘカテの強烈な蹴りが突き刺さる。

 Oh………ヘカテよ、それはアカン。

 見てるこっちが痛々しくなってくるってばよ。

 あと悲鳴クッソ面白すぎんだけど。

 まあ、それはそれとして万里の堅鎖をヒューゴの背後から──


「天にまします我らが神よ。今、この者に聖なる鉄槌を!!『ホーリー・レイ』!!」


 ──突き刺そうとして、俺の真上に展開された魔方陣から聖なる光が降り注ぐ。

 その数、5つほどの光柱が俺とヘカテ目掛けて落ちてくる、

 前に逃げるにはヒューゴと打ち合っていたヘカテへの数が俺より1つ多いため少しばかり難しく、であれば後退するのが得策だ。


 ──そう思うだろう?


『侮るなよ神官(ビショップ)!『アクアレイ』!!』


 ならばこちらも砲撃をもって迎え撃てばいいだけのこと!!

 感知系スキルを総動員して光柱の落下予測地点を算出!

 それをなぞるようにして『アクアレイ』を五重詠唱で展開し迎え撃つ!!


「ヒューゴ君!今のうちに!!」


「させません!」


「づおっ!?」


 ヘカテが真上で激突している光柱と水柱には目もくれず、小太刀と宝物庫から取り出したダガーで即席の二刀流でヒューゴに追い討ちをかける。

 しかし、一瞬とは言えなんとかショックから持ち直したようで、双剣でヘカテの二刀流に食らいつく。

 彼にとっては幸いだったのは、ヘカテが剣を持ち始めてまだ一年も経っていなかったということか。

 未だ荒削りであるヘカテの剣術は、どうしてもステータスに頼ったものになってしまう。

 アーツを放つのにもそれなりに時間がかかるし、その上即席の二刀流だ。

 本業の双剣士(デュアルウィールダー)である彼から見れば未熟とすら呼べないお粗末なものだ。


 だが、ここで先程の金的への強烈な蹴りが効いてくる。

 蹴り上げられた男の象徴に負った傷が未だに響くようで、動きに精彩さが欠けている。


「天にまします我らが神よ。今、この者に一時の安らぎを。『グレイス・ヒ──!?」


『やらせんよ。ほれ、追加だ。『ガンド』』


 恐らくはヒューゴに向けて治癒系統の魔法を唱えようとしていたエマに、急所には当たらないように万里の堅鎖を打ち込み、それを回避するであろう場所に向けて『ガンド』を放つ。


「くっ、のぉ!!『撲杖』!!」


 杖──「杖術」のアーツだろうか。

 横なぎに杖を振り回して『ガンド』を打ち消す。

 『ガンド』って速攻で放てるのはいいんだけど、ただ呪詛を弾丸状に押しかためたのを撃ち出してるだけだからどうしても脆くなってしまうんだよなあ。

 ま、それそれとして。


『ならこっちか。『ポイズンジャベリン』』


「天にまします我らが神よ。今、迷える我らに一時の加護を!!『セイント・ヴェール』!!」


 聖なる加護が神官(ビショップ)双剣士(デュアルウィールダー)を包む。

 放たれた毒の槍は聖なる加護を受けた杖によって弾かれ、双剣は苛烈さを増して乱舞する。

 

「ハアアアァァアアア!!!」


(チッ。あれ、回復能力もあるのか………厄介だな。ヒューゴも万全ではないが、徐々に調子を取り戻しつつある。ーーここで()()か?)


 今持っている手札の中で、切り札(エース)に該当するものは、「毒魔法」のスキルレベルが60になった時点で覚えた『伏毒(インパクショナル)蝕毒(・ハーム)』だ。

 だが、この状況をひっくり返す物ではない。

 即効性があるわけではなく、むしろ長期戦でこそ活躍する遅効性の毒だ。


 ならば、この状況を丸ごとひっくり返するのは()()だろうが………『伏毒蝕毒イナパクショナル・ハーム』が切り札(エース)だとすれば()()は間違いなく鬼札(ジョーカー)だ。

 だがなあ………アレ、成功するかわっかんないんだよなあ………。

 いや、勝算はある。

 多分、やれば成功する確率が高いという自信もある。

 ただ、『呪術』としては前代未聞もいいところだからなあ………不安の方が大きい。

 地道に万里の堅鎖と魔法で詰めていくのが賢明か?


 ──そんな時だった


 ──視界の端で、夥しいほどの血が噴き上がったのは




◇◆◇◆◇◆




「ふう、アリシアはことを為したか」


 今まで拮抗していた()が消失したのを名残惜しげに、シオンは呟く。

 ふと、周りを見渡せば、辺りは陥没し、絶戦の跡が残っている。

 そこから吹き飛ばされたのだろうか、暗殺者(アサシン)たちがそこらにゴミのように転がっているのが見て取れた。

 そこから更に後ろでは、親友(ルキア)弟子(ヘカテ)が冒険者らしき2人組とやりあっているのが目に入る。


「おい、シオン!!手が空いたんならこっち手伝え!!流石にもう持たん!!!」


 あの蛇楽しんでんなあ、と思いつつ眺めていると、横あいから悲鳴に近しい声が上がる。

 なんぞや、と視線を向ければ其処には暗殺者(アサシン)の長と渡り合っている、と言うよりはなんとか食らいついていると言う方が正しいランデル姿が。

 フードを目深に被り、暗器を次から次へと繰り出していく暗殺者(アサシン)の長を見て、思わず口角が上がるのを他人事のように感じながら、銀光を持つ手に力を込める。


「まだ、楽しめそうじゃねえか。なあ!!」


 無邪気な子供のような笑みを浮かべ、暗殺者(アサシン)の長へと一歩を踏み出したその時だった。

 地べたに這いつくばっていた暗殺者(アサシン)たちが一斉に襲いかかってきたのは。

 その数は6人。

 いまだに回復していないのが2人であるから、その2人と暗殺者(アサシン)の長、ヒューゴとエマ、そしてキースを除いた全員がこちらにかかってきたということになる。


 ──そんなことはどうでもいい


 ナイフが、ダガーが、クロスボウが、ありとあらゆる暗記の類が一斉にシオン目掛けて降り注ぐが、シオンの頭には怒りしかなかった。


 ──なぜ汚す?


 ──なぜ邪魔をする?


 ──折角、御馳走(好敵手)にありつけると思ったのに


 ──なぜ、貴様ら有象無象が割って入る?


「塵芥風情が、その愚行、死をもって贖うがいい」


 ──嗚呼、だが


 ──その蛮勇は讃えよう


 ──愚かで、浅ましく、空気の読めない阿呆どもだが


 ──せめて貴様らの長の礎となって死ぬ栄誉をくれてやる


 ──それが、せめてもの慈悲と知れ


「御影幻刀流、変式『右契奥義・十華とおか』」


 瞬間、世界から音が消えた。

 それは刹那より短い間に十の剣閃を紡ぐ絶技。

 余人には知覚すら許さない神速のきらめき。

 御影の奥義、その片割れ。

 左の奥義を【究極の一】とするならば、この右の奥義は【神速の十】である。

 自らが斬られたと言う事実すら認識できないまま、暗殺者(アサシン)たちが血飛沫を上げる。

 本来であればただ一点に集中して放たれる剣閃は、型を崩したことで六の人影を撫で斬りにした。

御影幻刀流『右契奥義・十華』

十の剣閃を正二十角形を描くようにして放つ、御影幻刀流の右の奥義。今回シオンがやったのは一点集中ではなく、走りながら十の剣閃を紡ぐことで対多数用に仕上げたもの。本来のものよりもスピードは落ちるものの、そもそもが速すぎるのでちょっとスピードが落ちたぐらいで反応できるものではなかったりする。要するにどっちもクソ速い十。オリジナル方がもっと速い。

ちなみに左はもっとヤバい。

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