第六話 個人的には小さいのもいいと思います
「んで?今度は何やらかしたんだ?」
渋々座ったお嬢におっさんが聞いた。
聞かれてもお嬢は俯いたまま。
やれやれ、仕方がない。
首をにゅっと動かし、俯いたお嬢の顔を下から見つめる。じーっと見つめる。
そうすると、流石に居心地が悪くなったのか顔を上げて、
「…城門の近くで魔法を使った」
嫌そうに、本っ当に嫌そうにそう答えた。
…だが、
『それだけじゃ無いだろうが』
そう、コイツは一番大事なことを言ってないのだ。
「………あと、城門前まで飛んで来た」
これだけは言いたくなかった、とでも言いたげな顔をして絞り出すように言った。
んな顔してもだめだぞ。
「またえらいぶっ飛んだことしたなぁ。まあ、夜中に宿屋の天井裏吹っ飛ばした時に比べればまだマシか」
一瞬耳を疑った。
はあ!?天井裏吹っ飛ばしただあ!?アンタ何やってんだ!!
「し、仕方ないだろう!新しい魔法の試射してたんだから…」
「時と場所を考えろってことだ。死人が出なかったからよかったものの……。今回のことだって城門から離れたところで降りれば別に責めねえさ」
呆れたようにそう言った。
はあ……、ひっどい。何がひどいってこれに加えてまだ前科があるって事だ。しかも多分二桁は確実に。
「はあ……。まあ、今回は被害が出なかったから罰金だけで済ませてやる。2万デルだ」
渋々と、銀貨を2枚渡す。
「ん?そういやその白蛇は?」
今気づいたのか、それとも話がひと段落したから聞いたのか、おそらく後者だろう。
「……ん、ああ。私の使い魔だ、今日コルテカの迷宮で見つけた。名前はルキアだ」
『どーも』
ぺこりとお辞儀をする。
「なあ、コイツ言葉がわかるのか?」
「……ああ。ついでに私にだけなら「念話」ができる」
「……そうかい。さっきはありがとな。オーフェン・ディートリヒだ。この街の警備隊副隊長をしている。このバカとは数年来の付き合いでなぁ。お前さんには迷惑をかける」
この人……、見かけによらず苦労人か?
と言うか思ったよりも大物だったわ。地位的にも人柄的にも。
敬意と感謝を込めてもう一度ぺこりとお辞儀をする。
それを見ておっさん……オーフェンはにっと笑った。
「ああそうだ。お前さんこれから従魔登録に行くのか?」
「……そうだが」
「なら、さっきお前さんを連れてきたセンドを同伴させる。従魔の証がついていないんじゃあ住民も不安がるかもしれないしな」
「……助かる」
「何、どうせ冒険者ギルドに遣いを出すところだったんだ。ついでだし、丁度いい」
「……そうか」
ぶっきらぼうに答えるお嬢をオーフェンは微笑ましそうな目で見つめていた。
「それじゃあ、失礼する」
「おう、もう来るなよ」
笑いながらそう言って手を振るオーフェンに主従揃ってお辞儀をした。
◇◆◇◆◇◆
「ああ、先程のあれはそう言うことでしたか」
従魔登録をしに行く道中、俺の「念話」のことについて困惑した表情が印象的な優男…センドにお嬢が説明した。
「…ああ、先程は失礼した」
に、してもこの街は随分と活気に溢れている。
もう、日が暮れていて街にはランプがあちらこちらに吊るされている。
よく見ればランプの光は炎によるものではなく、どちらかと言えば蛍光灯のそれに近い。
しかし、周囲に電柱はないし、電線と思しき物もない。
『なあ、お嬢。あの灯りはなんだ?火じゃないよな?』
「ん?ああ、あれは魔力灯だ。『ライト』の魔法陣が彫られた魔道具に魔石を埋め込むことで魔石に蓄えられた魔力が尽きるまで光を放つことができる」
『ほお…。魔石ってのは?』
「魔物が体内に保有しているもので、魔物の核たる部分とされている。魔物を魔物たらしめる物で、これを体内に有しているもののことを総じて魔物と呼ぶ。魔石には魔力が蓄えることができて、高位の魔物のものであればあるほど魔力の貯蔵量は多くなると言われている。一説には魔物はステータス欄に表示されるMPとは別に、魔石に魔力を溜め込み、それが限界量を超えた際にこれまで蓄えた魔力を使用して進化するとされていてー」
『ストップだ、お嬢。ほら、ゼンドさんが困惑してるだろうが』
いや、まあ。デフォルトな気がしないでもないが。
「あの………どうかしたのですか?」
「………ああ、いや。ルキアに魔石の説明をしていた」
「ああ、そうでしたか。急に喋り出したので何事かと」
『言葉が通じないってのは不便だなぁ』
つくづくそう思う。
◇◆◇◆◇◆
「さ、着いたぞ」
そうこう言っている内に冒険者ギルドに着いたようで。
一見かなり広めの宿屋。二階建ての建物で、看板には剣と槍と杖をそれぞれの端が正六角形を描くように、盾の上に置かれているシンボルが象られている。
さも「私達は武闘派集団です!」と言わんばかりのシンボルだ…。
誰だよこれ考えたの……。
ガチャリ、とゼンドが先導して扉を開けるとそこはーーー
酒の匂いがした。
生前は余り酒は飲まなかったので、酒の種類には詳しくないんだが…。
エールか?この香りは。
それにしても…
「蒼天の魔女だ…」
「オーガジェネラルを消し済みにしたって言う?」
「ああ、灰しか残らなかったらしいぞ?」
「てか、首に巻いてる蛇は何だ?」
「さあ?新手のファッションじゃない?」
じーーー。
ふいっ。
おう、無視してんじゃねえよ。
あと最後のはツッコまんぞ。
…に、しても
『蒼天の魔女?』
「………私の二つ名」
「ああ、「蒼天の魔女」というのはアリシアさんの二つ名ですね。一昨年のスタンピードでオーガジェネラルを倒した際に付けられたものです」
俺の声が聞こえていないはずのゼンドさんが話に入ってきたことに驚いて主従揃って驚く。
「……ルキアの声は聞こえてないんだよな?」
「ええ。ですが、周りの声とアリシアさんの反応を見ればルキアが何を言ったのかは大体察しがつきます」
え、やだ何この人。
察しよすぎじゃない?
教えてくれてありがとうという意味を込めてぺこりとお辞儀をすると一瞬驚いたものの、
「どういたしまして」
そう言って微笑んだ。
…やっぱ察しいいなこの人。
ギルドの中を進んでいく。
入り口から向かって左斜め前に受付がある。あそこで依頼の発注や受注、パーティーの申請、依頼達成の可否の報告や討伐したモンスターから剥ぎ取った素材や魔石の鑑定をするのだと。因みに受付嬢は美人さんだらけ。大変目の保養になります、はい。
受付の向かい側には酒場兼食堂がある。理由をお嬢経由でゼンドさんに尋ねてみると、あそこではだいたい新しく結成されたパーティーが親睦を深める為だとか、依頼を達成した後にパーティーで揃って飲んだりするらしい。
現代日本でいう飲みニュケーションと言うやつだろうか。断らないよな?と半強制的に言ってくる同僚の林田は死ねばいいのに。
いや、酒が親交を深めるアイテムだっていうのは理解できるが、それは双方が「仲良くしたい」という共通意識持った時の話だ。
そうじゃなきゃうざったいだけということに何故気付かない?
二階は主にギルド職員の休憩室や事務室などがあるらしい。あとは素材や魔石の鑑定をする際にあまりに量が多すぎる場合にも二階の部屋は使われるとのこと。
お嬢が進んでいくと人が道を開ける。
お嬢はその中をさも当然の如く歩いて行くが…、ゼンドさんが居心地悪そうだな。
壁にかけられている時計を見るに今は午後8時。
ちょうど夕飯の時間なのは異世界でもあまり変わらないのか、酒場で飲み食いしている人が多い。
一方、酒場と比較して受付前はあまり人がいない。
ピークは過ぎたというところだろうか?
「ようこそ冒険者ギルドへ!本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢のお姉さんがハキハキとした口調で尋ねる。
やだ、美人さん!そして何より目を吸い寄せられるのは二つの果実だ。
…メロンぐらいあるんじゃないの?おっと、お嬢の魔力がちょっと怖い気配を漂わせているので見るのはやめておこう。
しかし、見るのをやめてもお嬢は黙ったままだ。視線を追うとやっぱり大きな果実。そしてその視線にこめられた感情はというと…。
あ、察したわ。
お嬢もお年頃だしね。
黙っているお嬢を訝しんだのか、隣の茶髪のお姉さんが「どうかしましたか?」と尋ねる前に、
「警備隊副隊長のオーフェン・ディートリヒよりギルドマスターへの手紙を預かって参りました」
ゼンドさんが少し強引に差し込んだ。
見ればゼンドさんの顔は苦笑で彩られている。
ああ。察しいいもんね、あなた。
手紙を受け取ったメロンちゃ…受付嬢はお嬢の相手をすべきか手紙を優先すべきか迷ったのか、
「え、あ、えっと…」
と、ワタワタしている。
いやはや随分と初々しい反応にほっこりしてしまう。
そこで手を差し伸べたのは先ほどの茶髪のお姉さん。
「リリーちゃん、あなたはギルドマスターに手紙を届けてきて。後は私が対応するから」
「は、はい!」
そう言ってメロンちゃん改めリリーちゃんを送り出す。
「申し訳ございません。あの子はこの職に就いてからまだ日が浅く…」
「ああ、いえ。大丈夫ですよ。ね、アリシアさん?」
「…ああ」
リリーちゃんが居なくなっていくらか険が取れたお嬢がそうかえす。
「それでは改めまして。本日はどのようなご用件でしょうか?」
ちなみに貨幣ついてですが、1デル=1円と思っていただいて問題ないです
貨幣の価値はそれぞれ以下のようになります
石貨=1デル
鉄貨=100デル
銅貨=1000デル
銀貨=10000デル
金貨=10万デル
白金貨=100万デル




