第五話 そうだ!詰め所へ行こう!
最初は大分怖かったが慣れてくるとそうでもない。
あと、お嬢の奇声にも大分慣れた。ジェットコースターとか好きそうだな、この人。
人間慣れる生き物と言うが蛇も慣れる生き物だった様だ。
お嬢は今魔法の制御に集中しているので邪魔しない様にしている。主に俺の安全のために。
ぐるりと見渡せば、真下から相当広くまで森が広がっている。
前方に目を向ければ森が途切れた先にのいくらか先に街が見える。恐らくあれがお嬢の言っていたイージアだろう。その奥には街道の様なものが見え、町が点々と。その先は見えん。
左手には前方よりも森が続き、その先には海がひろがっている。海岸線に沿って前方に目を見遣ると、イージアよりも奥に海岸線に隣接して街がある。恐らく漁港街だろう。
反対に右手はと言うと、左手よりもさらに森が広くまで続き、そこから先はグラデーションのように草原が敷いてある。
後方に目を見遣ればコルテカの迷宮がアルフの森の中にポツンとたっており、そこから先はひたすら森、森、森だ。何なら地平線まで森が続いている。
…森、広過ぎじゃね?
お嬢の言った「辺境」と言う言葉に深く納得した。
◇◆◇◆◇◆
………暇だ。
景色を見るのも見飽きたので何となーくステータスを見て時間を潰す。
Name:ルキア
Level:6
Phylum :魔物
Species :ホワイトスネーク
HP:43/43
MP:24/24
Strength :12
Vitality :10
Dexterity :14
Agility :16
Stamina :14
Luck :7
Skill:
【耐性系】
精神苦痛耐性Lv.100
【魔法系】
毒魔法Lv.3
魔力操作Lv.7
【感知系】
暗視Lv.5
熱源感知Lv.7
魔力感知Lv.14
【身体系】
尾撃Lv.2
【その他】
念話Lv.3
……うわあ。
魔力を常時体内でこねているせいか「魔力操作」の上がりがいい。
「暗視」は暗い場所でのみ効果を発動するだろうから少し伸びが悪い。
対照的に「熱源感知」はよく伸びている。
「尾撃」は変化なしで「念話」はさっきからよく使っていたのでそれなりに伸びている。
ただ……。
「魔力感知」の伸びがすごい。
原因はわかっている。終始奇声を上げて飛び回ってやがる我が主だ。
何せ常時半ば暴力じみた魔力の「圧」に晒されているのだ。これで上がっていなかったら完全に骨折り損だ。
お陰様で周囲70m以内であれば感知出来るようになった。
ステータスはこれぐらいか。
ーー寝るか、暇だし。
◇◆◇◆◇◆
「ルキア、ルキア!そろそろ降りるぞ!」
夢の世界へ旅立つ前と比較して大分落ち着いた声に目を覚ます。
見れば森を抜けていて、地上から見ればまだイージアの城壁の門の作りがよく分かるくらいにまで近づいていた。
『おはよう。そして了解だ、お嬢』
「おはよう。まったく、空の旅の途中に寝るとは…。まあいい、着地の瞬間だけでもきちんと味わうがいい」
そう言うと、先程よりも虚空の足場に着地するタイミングを1、2秒遅らせて徐々に降りていく。
それはさながら階段を数段飛ばしで降りるように見えた。
そうして地面まで凡そ5m分かるをきったところで、
「ジャーンプ!」
『いや、ヤメロォ!!』
虚空の足場から飛び降りた。
いや、待て待て待て!
5mって充分致死圏内だぞ!?
だが、一応杞憂だったようで、足が地面につく直前、最後に一度風が噴射し、ほんの少しお嬢の体が浮いた後に改めて着地した。
『いや、マジで心臓に悪いからやめてくれ…」
「大丈夫だ。高さ10m以内であれば怪我はしない」
『でもやるなよ……』
げんなりした声で答える。
別に絶叫系のアトラクションは苦手では無いんだが、あの危機に関わるのであれば話は別だ。
つーか、ほら。周りの人もみんな引いてるでしょーが。
「あの……」
声のした方を見れば兵士と思しき格好をした柔和な顔の男性が困惑した様子で立っていた。此処にいると言うことは門兵だろうか?
「詰所まで来てもらえますかね?」
……デスヨネ。
だが、我が主はそうは思わなかったようで
「……なぜだ」
すうっ、と目を細めて冷えた声音で問いかける。
『いや、アホか!空から人が降ってきたらそらそうなるわ!つか、こんな所で魔法を使うな!』
「はあ!?別にかまわんだろうが、空から人が降って来ようが!大体、門の近くで魔法を使ってはいけないなんて言う規則もないだろうが!」
常識的に考えてだ、馬鹿野郎!
だか、俺がそう言うよりも先に門兵さんが言葉を発した。
「いえ、あの…。城門の近くでの魔法の使用は特殊な状況でない限り禁止されていまして…」
「「………」」
とても、とても申し訳なさそうに言う門兵さん。
いや、あなたそんなに恐縮しなくてもいいのよ?
「あの、そう言うわけですのでご同行を…」
『ほら、さっさといくぞ、お嬢』
「……」
むすっとした顔をして、いかにも「私は納得していない」という雰囲気を醸し出しながらもついていく我が主…。
その顔はもうちょっとどうにかならんもんかねぇ…?
「ところで、その首にかかっている蛇は…?」
歩きながら困惑した様子でそう尋ねてくる。
ああ、そうだよね。
首に蛇巻き付けている奴とかいたら正気疑うよね。
「…私の使い魔だ。今日、捕まえてきた」
『おい、捕まえてきたとは何だ捕まえてきたとは。もうちょっと言い方あるだろう』
「フン」
コイツ…!
「へえ、ホワイトスネークを捕まえたんですか。どこで捕まえたんですか?」
………ん?
「…コルテカの迷宮だ。まあ、他の個体は見なかったし単に偶然見つけたんだろう」
これは、もしかして………?
『なあ、門兵さん』
「ホワイトスネークは目撃証言も少ないですしねぇ。羨ましいです」
「…おい、待て」
『ちょ、待てお嬢」
「いや、待たん。おまえ、何故ルキアを無視した?」
酷く凍てついた攻撃的な声で、そう尋ねる。
いや、尋ねるというよりは責めると言ったほうが正しいだろうか。
その様子に戸惑って、
「え………と。ルキア、と言うのは?」
「こいつの名前だ。おまえに話しかけているのに何故無視した」
俺を指し示しながらそう言った。
それに対し、門兵さんはやはり戸惑った様子で、
「話しかけている、ですか?」
「そうだ、さっきからずっと喋っているだろうか!」
そう、苛立った様子でお嬢は声を荒げる。
だが、違う。
門兵さんは俺を無視しているわけじゃない。
『お嬢』
「なんだ!」
やはり苛立った様子で返してくる。
やれやれ、お嬢は何に苛立っているのやら。
まあ、俺の為に怒ってくれているのであれば、それは使い魔冥利に尽きると言うものではあるが。
『この門兵さんは無視してるんじゃない。単に聞こえたないだけだ』
「……は?」
間抜けた顔だ、そんな顔は初めて見た。
よく目に焼き付けておこう。そうそう見れるもんじゃないしな。
「……本当か?」
『ああ、この門兵さんに話しかけてもスキルが発動してる感じがしない。多分俺の「念話」はお嬢専用なんだろうさ。まあ、もっと試して見なけりゃわからんが』
「そう、か」
いくらか考え込むようにしてそう答えた。
まあ、お嬢にとっては妙な話だろう。
何せ自分にだけ聞こえる声だ。そりゃあ、お嬢と言えど少しは不気味にもなるだろう。
「あの……どうかしました?」
困惑した様子で尋ねてきた。
そらそうだよね、怒って変なこと言ってた人が独り言言いながら急に大人しくなったんだもの。
そりゃあ困惑するだろうさ。
どうでもいいけど俺この人の困惑した表情見るの何回目よ。大分見たぜ?
「……いや、済まない。こっちの勘違いだったみたいだ」
「はあ、そうですか……」
やっぱり困惑した表情でそう返す。
と、そんな話をしているうちに詰所についたようで。
「では、どうぞ中へ」
門兵さんの言葉に従って中へ入る。
すると、中には柔和な顔をした門兵さんとは対照的に「アンタどこのヤ○ザ?」と聞きたくなるようなそれはそれはいかつい顔をした中年の男がタバコをふかしながら椅子に座っていた。
「はあ、またお前か。今度は何やらかした?」
……「また」?
じっと見詰めるとふいっと目を逸らす我が主。
おうてめえ、目ぇ逸らしたんじゃねえよ、アァン?
「また」ってことはあれか、前になんかやらかしてんのか、オイ。
「まったく、お前さんが俺のところに来るのも何回目だ。いい加減終わりにしてくれ」
オォン?しかも複数回とな?
おっさんの言葉を聞くに一回とか二回じゃ済まなさそうだな?オイ。
「まあ、座れや」
そう言って机を挟んで向かいの席を顎で指す。
くそぅ、「念話」がお嬢にしか使えないのが非常に悔しい!
目の前のおっさんにも使えたら前科を根掘り葉掘り聞くのにぃ!
自分より年上のおっさんをおっさん呼ばわりするおっさん(蛇)…。そしてそのおっさん2人に責められる最年少…。なんだこの構図。
ちなみに門兵さんは25。おっさんは45